2011年7月22日金曜日

本の紹介 2

アート・テクニック・ナウ 第7巻  「伊牟田経正の油彩画」

伊牟田経正著 河出書房新社 1977年 


    
 70年代から80年代にかけて日本の写実絵画をリードしてきた画家と言えば、光風会の伊牟田経正、白日会の野田弘志、国画会の森本草介を挙げることができるだろう。

 その中でも伊牟田氏は、この本で自らの制作過程を、他に先駆けて公開した。アプレブランを使った油性地塗りの方法をはじめ、エボーシュから仕上げまでを連続写真で追いながら、分かりやすく解説されている。

 特に、前回で紹介したラングレ本の処方を参考にした、樹脂の使用による生乾き状態での塗り重ねの効果を、自らの作品で示した点は重要である。 日本では明治時代中期以降、印象派の技法が主流となり、長らく樹脂の使用を避ける傾向にあった。その影響か日本で出版された技法書には、樹脂の使用方法と効果について具体的に示したものがなかった。その意味からすると、日本人の書いた記念すべき技法書といえるだろう。






  右の絵は、伊牟田氏の1972年の作品。
40年近く経った現在でも、ひび割れ・剥落などの損傷もなく、ツヤ引けやツヤむらのない均一な光沢の中に、素晴らしい発色を保っている。伊牟田氏の技法の確かさと、樹脂の有用性を証明している。

2011年7月9日土曜日

サイトサイズ法について


 Tさんは、自ら英文の技法書やDVDを多数収集して研究した成果を、教室で実践しています。


 サイトサイズ法もそのような研究の中からTさんが選択した方法で、教える側にとっても初めての経験となり、とても勉強になりました。


方法
1.デッサン用紙を、モチーフが横に見えるようにして、垂直に配置する。(原寸大は真横に配置)


C.Bargue. “Drawing course”より

2.モチーフとデッサン用紙の真中に立ち、左右の端を結んだ長さの1.5倍以上の距離をおいてモチーフを見る。 見る位置が決まったら床に印を付け、そこから常にモチーフを観察し、各ポイントを平行に用紙上に移動する。
 

4.つづいて錘をつけたひもで、モチーフの垂直線上のポイントを測り、用紙上に移動し、モチーフの各部の位置関係が正確に描けるように補助線を引いていく。

5.常に立ち位置からモチーフとデッサンを見比べながら描いていく。



油彩グリザイユ(シルバーホワイト、アイボリーブラック)
 サイトサイズ法は、直感に頼らないで、対象をよく観察してデッサンができる非常に優れた方法です。 石膏像や静物、ポートレイトなどの比較的小さい作品を描くのに適しています。

2011年7月1日金曜日

本の紹介 1

 
 「油彩画の技術」  グザヴィエ・ド・ラングレ箸
          黒江光彦訳    美術出版社



左 日本語版  右 フランス語原本

 1968年に翻訳出版され、当時は画家のバイブルと言われた技法書。

第1部の西洋絵画の技法史の詳細な分析、第2部以降の画家の立場からの画材や処方の具体的な説明は、他に類例がなかった。


グザヴィエ・ド・ラングレ

 その後デルナーの「絵画技法体系」が出版されたり、若干の記述内容の誤りを指摘する人たちがいたりして、評価を落としたが、この技法書の日本における重要性は今も変わらない。特にベネチアン・テレピンやコーパルなどの樹脂の使用を薦めている点は、当時としては画期的であったし、耐久性に問題のあるダンマル樹脂を多用する今の若い世代の画家たちにも、警鐘を鳴らしていると言えるだろう。
  
残念ながら現在は絶版状態で、古本市場では高値で取引されている例もあるが、改めて翻訳を検証した上での再版が望まれるところである。