2013年9月25日水曜日

早く描く 「ダイレクトペインティング」

古典技法で制作されてきたS君は、今回「ダイレクトペインティング」の手法を取り入れて、早く描く試みをしました。


古典技法とダイレクトペインティングの大きな違いは、古典技法が画面上で、絵具を塗り重ねて、対象の色を再現していくのに対し、ダイレクトペインティングでは、パレット上で絵具を混色して、対象の色を作ってから、画面に置く点です。




絵の断層写真を撮ったとすると、古典技法は、何層にも絵具が重なっているのに対し、ダイレクトペインティングでは、あまり層が見えません。

効果としては、古典技法で描かれた絵は、光が絵具層を透過して跳ね返ってくるので、深い色合いになる(2図)のに対して、ダイレクトペインティングでは、光は表層で跳ね返ってくる(1図)ので、絵具そのものの物質感の強い表現になります。




S君は、このこと踏まえて、ダイレクトペインティングで、できるだけ描き進めた後に、古典技法の塗り重ねの効果を加えて、仕上るようにしました。

そのため、右のように、大きい絵では、その日に描けそうな部分だけに絵具を置き、仕上げに近い状態まで描いていきます。












かなり正確にデッサンをしたつもりでも、色を付けると狂いに気が付くものです。ダイレクトペインティングで、一気に決めたいところですが、なかなかそうはいきません。特にマンドリンは、難しい形で、何度か修正することになりました。



最後に、花を描いて仕上げていきました。













「マンドリンのある静物」 M12号





「早く描く」を目標に始めましたが、仕上げに近づくにつれて、細部の表現に時間がかかり、結局週1回半日のペースで、6ヵ月(延べ約60時間)かかりました。それでも、今までと比べると、随分早くなったと思います。


























ダイレクトペインティングは、絵具が生乾きの状態で仕上げられれば、発色の良い綺麗なマチエールの絵になりますが、一旦絵具が乾いてから塗り重ねると、発色をさせるのに手こずり、鈍い絵になりがちです。

下地や溶剤、筆さばきなど、S君なりに工夫して、古典技法とダイレクトペインティングの双方の良いところ取り入れながら、自身のメチエを確立していってくれればと思います。














2013年9月18日水曜日

石膏デッサンの描き方に疑問があって 【髭の男】


Kさんが、アトリエラポルトに来てから、3作目になる石膏デッサンを紹介します。


今回選ばれたのは、リュード作の「髭の男」です。この彫刻の実物は、パリの凱旋門の壁を飾っています。

石膏胸像の中でも、デッサンの難度の高いものの1つです。












始めに、陰影の配分や形の見え方を考えて、鑑賞位置と光の当て方を、慎重に選びました。結果、今回はほぼ正面光で、落ちる陰が少ないセッティングになりました。


















パース枠を使って、大きな形と構造を、直線で追っていきます。






線で捉えた形に、モデリングをしてボリュームを与えます。



















Kさんは、前回描き込みすぎて、背景の白地に対して、石膏像が暗い感じになっていたので、このデッサンでは、暗部から描いていき、明部は最後まで残すように、アドバイスをしました。


















髪の毛も髭も、とても複雑で難しい所ですが、「存在する形は、すべて描く」 という、クラシックなデッサンの基本に従って、制作してもらいました。


















髭の男 画用紙(650×500)に鉛筆



素晴らしい石膏デッサンに仕上がりました。週1回午前・午後(5時間)の通しで制作されて、約18時間かかりましたが、この完成度にしては、早い方だと思います。

Kさんの課題だった、石膏の白い表現が十分にできている上に、細部の形まで丹念に描き込んでいます。この上に、モデリングが、個々の形の前後関係を意識して、よりデリケートになれば、もっと良くなることでしょう。

石膏デッサンの描き方に疑問があって、私達のアトリエに来られたKさんですが、基礎としての石膏デッサンの目的には、ほぼ到達していると言えるでしょう。









2013年9月11日水曜日

本の紹介 9 : 「ドローイングレッスン」

今回紹介する本は、ジュリエット・アリスティデス著「ドローイングレッスン」(出版:ボーンデジタル、2012年)です。原書は、“Classical drawing atelier”  Juliette Arlstides で、2006年にニューヨークで出版(WATSON GUPTILL)されました。

左が翻訳本 右が原本

この本は、1980年代からアメリカで始まった、過去の名作や美術教育と、未来の芸術との間のつながりを、再構築しようとするムーブメントの中から生まれました。その中心的な役割をしているのが、インターネットのサイト「Art Renewal Center」です。










著者の人体デッサン 

著者のアリスティデスは、シアトル在住の画家で、教育者としても活躍中だそうです。













「自然に存在する黄金比」について


内容は、「古典的理論」と「古典的課題」と「古典的実践」の3つの部分から成っています。
著者の多くの文献に裏打ちされた深い知識と、論理的な実践方法に、感心するばかりです。












「線の種類と用途」について


日本の美術教育で、なおざりにされてきた部分が、具体的な形で表されています。













「石膏ドローイング」について







特に、リアルな絵画表現を目指す人には、必読の書と言えるでしょう。










WATSON GUPTILL出版 2008年


アリスティデスには、この本の姉妹編として「Classical painting ateler」 があります。残念ながら、翻訳されていませんが、やはり素晴らしい内容の本です。(P.S.この本は2014年10月に翻訳出版されました!)


余談ですが、私たちが学生時代に参考書にしていた「油絵をシステムで学ぶ」に繋がる部分が、多くあるのにも驚かされました。たぶん、基にした文献に、同じものがあったのではないかと思います。


橋本博英・飯田達夫 著
美術出版社 1976年

















2013年9月4日水曜日

人物クロッキーの練習


美人画を目標に学ばれているMさんが、人物デッサンの基礎として、骨格模型でクロッキーの練習しています。



















C.Bargue “Cours de dessin”より

クロッキー(Croquis)は、日本では「速写画」とか「略画」などと訳され、短時間で(5分とか10分位)素早く、対象の印象を捉えるデッサンとなっています。ここで注意したいのが、早く描くことだけが目的となり、「正確なプロポーション」や「解剖学的な構造」がなおざりにされがちな点です。

最初は、時間にとらわれるずに、プロポーションや基本的な構造をシンプルな線で描く練習から始め、次第に早く描けるようにした方が、上達の近道だと思います。

C.Bargue “Cours de dessin”より












例えば、バルグの手本帳の中のクロッキーなどは、とても良い参考になります。


そこで、Mさんには、モデルさんを使ってクロッキーをする前に、骨格模型を使って、人体のプロポーションと構造を学ぶように提案しました。

紙は、実物に近い大きなサイズのものを使って、離れた位置から対象を見比べながら、細部にとらわれずに大きく形を捉えられるようにセッティングしました。


1回の授業で(2時間半)で、2枚のペースで練習しています。