2018年5月9日水曜日

本の紹介 ウィリアム・ホガース著 「美の解析」




今回紹介する本は、ウィリアム・ホガース著「美の解析」(宮崎直子訳 中央公論美術出版 2007年)です。原本は、1753年にイギリスで出版されました。(The Analysis of Beauty by William Hogarth.)





筆者のウイリアム・ホガース(William Hogarth 1697-1764)は、18世紀イギリスを代表する画家で、連作版画や肖像画、特に風刺画で当時の社会に大きな影響を与えました。
その割に本書の評価は低く、現在に至っては知る人は僅かだと思います。

でも、美学書としての評価は低くても、絵を学ぶ上で誰しも考える「美しい形とは?」という疑問に、具体的な(造形的な)方法論を展開している点では貴重な本です。

目次は次のようになっています。

序文
第1章 合目的性について 「Fitness」
第2章 多様性について  「Variety」
第3章 単一性、規則性あるいは対称性について 「Regularity」
第4章 単純性あるいは明確な区別について 「Simplicity」
第5章 複雑性について「Intricacy」 
第6章 質量について 「Quantity」
第7章 線について
第8章 心地よい形態はどのような部分から、そしてどのように作られるのかについて
第9章 波打つ線による構成について
第10章 蛇状の線による構成について
第11章 比率について
第12章 光と影、及びこれらによって対象が目に説明される方法について
第13章 光、影、及び色彩に関する構成について
第14章 彩色について
第15章 顔について
第16章 姿勢について
第17章 動作について

そして、最後に本文の挿絵として、大判の銅版画が2枚付いてます。




例えば、右の2枚の部分画像は、主に7章から10章の内容の説明図になっています。

直線と曲線から始まり、その組み合わせで形が生まれる過程と構成方法が示されています。




ホガース美学の中心となる「美の線」すなわちS字曲線が示されています。




右下角には、15章の「顔について」の挿絵が載ってます。見ているだけでも風刺画が得意だったホガースを彷彿とさせます。









2枚目の版画は、主に12章から17章の内容の説明図になってます。

右のパレットは、14章の「彩色について」の挿絵。赤・黄・青の3原色に緑と紫を加えた5色のグラデーションが示されています。







このような線・明暗・色彩などの具体的な造形要素から「美の解析」を行うアプローチは、日本では馴染みの薄いものかも知れません。しかし、同じような「美」の分析方法は、西洋では古くはデューラやロマッツォの著書から20世紀の絵やデッサンの教科書に至るまで繰り返しおこなわれていて、決して珍しいものではありません。明治時代に来日して日本の伝統美術の賛美者であったフェノロサも、著書の中で同じような方法で日本絵画を説明しています。
ホーガストは、そこに持論である「ねじったS字曲線」の理論を加えたのが、この本のユニークなところです。
画家の立場から具体的な手段として「美とは?」を考える時の参考になる本だと思います。