2016年4月17日日曜日

絵の修復 : 洗浄(Nettoyage)


今回は、絵の表面の洗浄によって、どれだけ絵が変わるかを見ていきたいと思います。

修復する絵は、1830年頃に描かれた作者不明の肖像画です。




使用する用材は、精製水に5%のアンモニアを加えたものです。洗浄用の用材には、その状況に合わせてさまざまな種類がありますが、これはその中でも最も弱い(安全な)ものです。

綿棒に洗浄液をつけて、絵の隅の方から汚れの取れ具合や絵具の状態を慎重に見極めながら少しずつ拭いていきます。


綿棒が汚れてきたらすぐに新しい脱脂綿に交換します。
また、一箇所を長い時間しつこく洗浄するのは避けて、水分を飛ばしながら(乾かしながら)作業を進めることが肝心です。

右の画像は、肩の半分まで洗浄した状態です。絵の汚れ具合に驚かされます。



いよいよ顔に入ります。




今まで見えなかった頬の赤みやブルーグレーのニュアンスが現れました。



ブルーの瞳や影の透明感、ハイライトの明るさと筆触が良く分かるようになりました。


















クリーニングが終わった状態です。

絵全体の汚れによる黄ばみが取れて明るくなりました。デリケートな色合いの変化やモデリングが表われ、輝くような肌色が蘇りました。

通常の修復過程では、この後欠損部分の補筆して、ニスを塗って仕上がりとなります。




2016年4月4日月曜日

明るい絵を描きたくて

アトリエラポルトに通われて約2年半、マイペースでデッサンから油彩グリザイユへと進まれてきたK.yさんが初めて描いた多色の油絵を紹介します。


多色の油絵と言うと、今までもこのブログで紹介してきたように、果物や花や陶器など色鮮やかなモチーフを選ぶ方が多いのですが、K.yさんはあえて白くて明るいモチーフを白い背景で描くことに挑戦しました。

うまくいくととても斬新で現代的な表現になりますが、僅かな明暗差や色合いの変化で空間やボリュームを表さなければならず、大変難しいセッティングです。

使用絵具
シルバーホワイト、チタニュームホワイト、イエローオーカー、カドミウムイエロー、バリュームイエロー、レッドオーカー、カドミウムオレンジ、カドミウムレッド、クリムソンレーキー、ウルトラマリン、ヴリジャアン、バーントアンバー、ローアンバ、アイボリーブラック、ランプブラック

描き始めは、シルバーホワイトとアイボリーブラックに微量のウルトラマリンを加えて寒暖の調整をしながら明暗を追っていきました。

徐々に色を加えていき、固有色を表します。

ここで忘れてはならないのは、グリザイユの時に学んだ寒暖の扱いを色にも応用することです。

例えば貝のクリーム色のような固有色を塗る場合も、ハイライトに向かって暖かく、影に向かって冷たくなるように色相を微妙に変化させることで、より自然な奥行きやボリュームが出るように心がけます。





このようなハイキーの絵は、輝くような明るさ(白さ)が出ないと魅力的な絵にはなりません。
ところが油絵具のシルバーホワイトは意外に被覆力がなく、何層も塗り重ねないと抵抗感があって輝くような白い発色が得られません。







貝と幾何形体 (M10号)



ゆっくりと焦らずに休みながら約10ヶ月かけて完成しました。

慎重にデッサンの狂いを修正したり、明暗や色合いを調整したりしているうちに、絵具が何層にも重なり、しっかりとしたマチエールと美しい発色の絵になりました。


一見モノクロームの絵のようですが、個々のモチーフの固有色の違いと、光から影への色合いの変化が良く表現されています。(画像では分かりにくいのが残念です)

このような絵は、目を引き付けるようなインパクトはありませんが、部屋に掛けてじっくりと眺めていると、いろいろな色が見えてきて飽きないものです。

とてもユニークな絵ができたと思います。