2014年6月27日金曜日

大きなサイズの静物画を描く 1


アトリエラポルトに来てから3年目を迎えたSさんは、初めて30号の大きな静物画に挑戦されました。リアルな細密描写の得意なSさんが、どのように制作されたかを紹介します。

まずは、キャンバスにできる限り正確にモチーフの形をデッサンします。

ここで注目したいのが陰影をつけていない点です。Sさんほど描きなれてくると、デッサンは設計図を描くように線で形を表し、明暗の境目も線で印をつけて終わりにします。陰影は油絵具で行うことによって、デッサンにかける手間を最小限に減らし、キャンバスも汚さずにすみます。

ダイレクトペインティングの手法を応用して、絵具を置いた所から仕上るつもりで描いていきました。

背景が終わったところです。

次はテーブルに移りました。

テーブルの次は赤い布へと、面積の大きいところから描いていきました。



背景のブルーグレー、テーブルのイエロー、布のレッドというように、大きな色面の対比と組み合わせで対象を捉えるところに、Sさんの物の見方の特徴を感じます。


デッサンから始めてこの段階まで、約20時間です。


2014年6月18日水曜日

アトリエの道具と画材 5 「移動式モチーフ台」



今回紹介するのは、移動式モチーフ台です。

アトリエ ラポルトでは、石膏デッサンや静物などを毎回片付けることなく、長期間に渡ってじっくりと制作して頂くために、移動できるモチーフ台を考案して、限られたスペースのアトリエを有効に使えるようにしています。





建材のワンバイフォー(1×4)と構造合板と角材を組み合わせて作りました。

下部は制作途中のデッサンや油絵を収納できるようにしました。上部の台は、取り外せて高さの調整が可能です。キャスターが付いているので移動がスムーズにできます。
後ろから角材を引き出すと、背景が立て掛けられるようになっています。
石膏像を置くとこのようになります。




















静物のセッティング





石膏像や静物は、形や構成を学ぶのに最適なモチーフです。アトリエラポルトでは、光の方向を一定に保ちながら、納得がいくまで制作が出来るように心がけています。


2014年6月11日水曜日

本の紹介 12 : オックスフォード西洋美術事典(日本語版)

今回は、1989年に講談社が翻訳出版した「オックスフォード 西洋美術事典」を紹介します。

原本は、イギリスのオックスフォード大学プレスから1970年に出版された〝The Oxford Companion to Art” です。


1336ページの分厚い事典の中には、西洋美術のエッセンスが詰まってます。













一般的な辞書としての「引く、調べる」という機能だけでなく、例えば、「美術教育」と引くとその歴史から現代の美術教育の方法論まで、論文を読むような内容になっています。











また、「美術鑑識」や「美術品取引」などのおもしろい項目があったり、「遠近法」「テンペラ」「油彩画」「ステンドグラス」「モールディング」などの技術面も大変詳しく的確に説明されています。



それに、日本では曖昧に使われがちな「プロポーション」や「コンポジション」や「リアリズム」といった言葉を、西洋本来の意味できちっと定義しています。


もちろん、画家・彫刻家・建築家や美術関係の学者についての記載は膨大な量に上ります。

遠近法については、16ページ分もの説明が載っている

出版からすでに25年が経ち、一度も再販されていませんが、日本では未だに西洋美術の基本文献の翻訳が少ないので、このような辞典はとても貴重なものです。 まさに、画家や美術を学ばれる方にとっての“Conmpanion”です。



2014年6月4日水曜日

パリの街角の思い出

お仕事で長く海外での生活を経験してきたM.Aさんは、退職後も度々海外旅行をされて取材した風景をアトリエで油絵にしています。


今回は、パリの街角の風景です。写真を使っての制作になりますが、単なる引き写しではなく、遠近法や構図や色合いを考えながら、思い出の風景を組み立てていきました。


撮ってこられた写真では、遠近が強く感じられたので(多分ズームレンズの広角側で撮った為?)修正しながら直接キャンバスにデッサンしました。



明暗の組み合わせとバランスが造形上のテーマのような風景なので、最初にシルバーホワイトとカッセルアースでグリザイユをして考えました。














建物の窓や柱などは、曲がったり歪んだりすると不安定に見えるので、フリーハンドで難しい所はマスキングテープを使いました。
グリザイユの下書きの上に固有色をかけていきました。

偶然にもグリザイユの透けた色合いの感じが、パリの冬の雰囲気を思わせたので、そのまま利用することにしました。

アクセントに彩度の高い花の色を加えました。





















パリの街角 F15号


最後に子供の服装の色が決まって色彩感のある絵に仕上がりました。色や明暗や形の組み合わせの工夫が、作為的に見えずに自然な絵の効果になっています。マチエールにもM.Aさんらしさが出ています。

このように、ふと目にした旅先の情景が、消えることのない絵となって残せることは、絵を描ける幸せだと思います。