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2026年5月24日日曜日

アングルの学生時代に描いた習作の模写

 今回はアングル(Ingres 1780-1867)が、画学生時代に描いた習作の模写を紹介します。
チャレンジャーは、現役の美大生のMさんです。


勉強のための模写は、単に似せるのが目的ではなく、その絵を成り立たせている造形要素や技法を探求していくことに意味があります。まずは模写を始める前に、構図の分析を試みました。


当時のフランスの美術学校では厳格に描き方が定められていて、すべての学生はそれに従って制作していましたが、円弧や黄金比の扱い方にすでにアングルの趣向が表れています。


構造線を考えながらデッサンをトレースして、ヴァンダイクブラウンで影から塗り始めます。



続いてシルバーホワイトで明部をモデリングします。アングルはこの工程の時にすでに固有色を加えていますが、模写ではマチエールと発色のために白のみで行っています。


着彩には次のような絵具を使いました。参考にしたのは、モロー・ヴォティエが20世紀の初頭に書いた本です。(Moreau-Vauthier."Comment on peint aujourd'hui”)

イエローオーカ、レッドオーカ、ヴァーミリオン、マダーレーキ、ヴァンダイクブラウン(カッセルアース)、スティルドガラン、バーントアンバー、シルバーホワイト、アイボリーブラック、
溶き油は、グザビエ・ド・ラングレの処方を応用しました。



肌の領域の中で最も明るい腕の部分から色を置いていきました


明度の変化に加えて、色相の変化にも注意してモデリングをしていきます。
当時の色合いを想定して、写真より茶色み(経年変化による黄ばみ)を抑えて仕上げます。


週1回の受講で半年かかって完成しました。



現役の美大生ですが彫刻科で、油絵はアトリエラポルトで学ぶのが初めてとの事でしたが、とても良い出来栄えです。原画に似てるだけではなく、解剖学的な正確さ、色相の変化を伴ったモデリング、筆触やマチエールも写真からの模写としては限界に近く再現されています。
彫刻家を目指すMさんですが、油絵のおもしろさも味わって頂けたかと思います。

*制作の過程は、アトリエラポルトのインスタグラム laporte.2011でもご覧いただけます。






2024年12月27日金曜日

アングルの模写を試みる

 今回はアングル晩年の傑作「モワテシエ夫人」の肖像画を、画像資料から模写を試みたKさんの制作過程を紹介します。

使用した画像資料は、収蔵先のワシントンナショナルギャラリーがネット上で公開している超高画質データーを原寸大でプリントアウトしたものです。ひび割れまで鮮明に分かる解像度で、色の微妙なニュアンスも良く再現できていると思います。



今回の模写は、アングルの絶妙なモデリングによるボリュームの表現を学ぶ目的でおこないました。明暗の変化に寒暖の色相が加わったアングルの技術に、どこまで近づけるかがポイントです。

まずはできる限り正確にキャンバス上に鉛筆でデッサンをしました。



油彩の始めは色を除いて、単色で形と明暗を再現します。





固有色を上塗りします。



下塗りのグレーをハーフトーンや暗部に生かしながら肌色の変化を表していきました。


滑らかなモデリングには、筆選びや筆運びが重要になります。試行錯誤を繰り返しながらより良い方法を探していきました。



終了。

アングル「モワテシエ夫人」の部分模写(600×500)

修正を繰り返しながら描いたので絵具層がガタガタで、アングルの真珠のような滑らかなマチエールとはほど遠い仕上がりになってしまいましたが、目的とした明暗に色相(寒暖)の変化が加わったモデリングによるボリュームの表現は、うまく再現できたと思います。
自身の作品に生かして頂けるように願っています。




2024年9月3日火曜日

120年前の人物デッサンを模写する

 今回は約120年前にフランスの美術学校で描かれた人物デッサンの模写の過程を紹介します。


このデッサンは模写をおこなうKさん自身が購入したもので、きめの細かい紙に木炭(もしくは合成木炭)で描かれています。デリケートな明暗の変化の上に解剖学的に正確な形をモデリングよって表しています。前屈みのポーズから、実際は杖を持っていたと考えられます。


画面上のサインとハンコから、1902年にナンシーの美術学校で制作されたことがわかります。


模写にあたっては、まず紙と木炭の選択から始めました。
Kさんはいろいろと試してみた結果、紙はキャンソン製の木炭紙の薄口が最もオリジナルの紙に近いと判断しました。木炭は、ルフラン製と二トラム製のものがこの紙に相性がよく、細部や細い線を描く時はゼネラル製のチャコール鉛筆を使用することにしました。


始めに線でプロポーションをできる限り正確にとります。


その後、画面全体を明部と暗部の2つに分け、人体の暗いところから木炭をおいていきます。


続いて背景に移ります。


擦筆やセーム革を使って表面に浮いた木炭をなじませながら、背景の基本となる明度を決めました。

全体の大きな明暗関係ができた段階です。いよいよここから各部分の描き込みに入ります。


木炭で描いては擦筆でなじませる工程を繰り返しながら形をモデリングします。


木炭は大きな面積を簡単に暗くできる反面、落ちやすくてデリケートな明暗の変化をコントロールするのが難しい画材です。擦筆以外に綿棒や練り消しゴムなど様々な手段を試しながら進めていきました。


描けば描くほどオリジナルのデッサンが、明暗法や解剖学に裏付けられた知識で正確な形を滑らかなモデリングで描き表しているのに驚かされます。当時のデッサン教育のレベルの高さを実感します。




終了。


週1回(5時間)の制作で、約半年かけて模写をおこないました。
オリジナルのデッサンが20世紀初頭の明暗(valure)をより現実に近く再現したスタイルのものだったので、技術的難度が高い模写となりました。
教える側も初めての経験で、Kさんと一緒に学ばせていただきました。
木炭の扱い方や明暗の方法など新たな発見が沢山あり、フランスの美術学校における人物デッサンの変遷について再考する機会となりました。西洋絵画の奥深さをあらためて痛感したしだいです。







2024年6月29日土曜日

19世紀の肖像画を模写する

 今回は19世紀初めにフランスで描かれたダヴィッド派の肖像画の模写を紹介します。


模写にはさまざまな方法がありますが、勉強としての模写は単に原画に似せるのではなく学ぶ目的を持って取り組むことが大切です。

今回の模写では、クラシックな油絵のもつ絵具の「透明・不透明」「厚い・薄い」の効果的な使い方や、「温かい・冷たい」と言った微妙な色合いの変化を使ったモデリングを学ぶことを特に重視しました。
その目的から名画とは言えませんが、19世紀前半に描かれたダビィッドに近いオーソドックスな技法で描かれたアトリエラポルト所蔵の肖像画を使いました。


輪郭を転写し後、バンダイクブラウン(ニュートン社)で明暗をつけていきました。


明部はシルバーホワイトを加えて明るめに描きます。この単色の段階で出来る限り正確に形を再現します。


背景から着色していきます。


背景と服に色がついた状態です。


いよいよ顔に入ります。最初に明部と暗部の境目にグレーをおきます。


次に肌の固有色を塗ります。
肌色はイエローオーカー、レッドオーカー、シルバーホワイトをベースに作り、そこにバーミリオンとマダーレーキを加えて色調を合わせます。




原画は口の周辺に修復の跡があり、それが変色して形や色が分かりにくい箇所があります。
模写では描かれた時の状態を再現するようにアドバイスしました。


完成。

19世紀初頭にフランスで制作された肖像画の模写
キャンバスに油彩(410×318)


何度も修正と塗り重ねをおこなった為に、マチエールは原画より厚く、がたついたモデリングになってしまいましたが、目的の寒暖の微妙な変化と透明・不透明の使い分けは良く捉えられています。これに原画のような筆触の効果的な使い方が加わるとより良くなると思います。自作に生かしていって頂ければ幸いです。