2014年8月25日月曜日

アトリエの道具と画材 6 「デッサン用 鉛筆ホルダー」


「デッサンを合理的に、うまく、早く、上達する方法はないか?」 教える側も教わる側も常に考えることだと思います。

そこで作ってみたのが、右のような鉛筆ホルダーです。






市販の金属製鉛筆ホルダーの底を切って、丸材を差し込んで作りました。(簡単です!)

デッサンをモチーフに「似せる」には、離れた位置から、モチーフとデッサンを見比べることが必要です。以前このブログ(2011年7月9日)で紹介した「サイトサイズ法」はそれを徹底した方法です。

今回の鉛筆ホルダーは、画面の大きさに対して適切な距離をとって、常にモチーフと見比べながら描けるように考えたものです。








視野から計算した目から画面までの距離は、横使いなら幅の約1,5倍、縦使いなら高さの約2倍が適切な鑑賞距離です。

例えば、右のデッサン用紙の縦の長さは65センチなので、目と画面との距離(鑑賞距離)は2倍の130センチとなります。ホルダーを使わないと、この距離を保ちながら描くのは不可能です。







画面とモチーフが並んで見えるようにイーゼルを立て、常に両方を見比べながら、細部にこだわらずに大づかみに線で形を取っていきます。


個々の形を描き込む時には、ホルダーをはずして画面を手元に近づけておこなうとよいでしょう。















上の写真は、アンリ・マチスが「ダンス」という壁画を描いている姿です。この鉛筆ホルダーを作るきっかけになったものです。デッサンを勉強中の方は、試して見てはいかがでしょうか? そして常に「離れて見比べる」ことを、お忘れなく!



2014年8月17日日曜日

石膏デッサン : 「髭の男」を描く


画家を目指して修行中のK,hさんが、いよいよ「髭の男」に挑戦されました。その制作過程を紹介します。

(「髭の男」の像については、2013年9月18日のブログでも紹介したので、そちらの方もご覧下さい。)
















最初に直線で形を取っていきます。ここで特に注意したい点は顔の傾きです。顔の正中線を慎重に定めます。


「髭の男」と呼ばれるように、髭や髪の毛が非常に細かく複雑に彫られていますが、この段階では細部にとらわれずに、個々の形の大きな流れやアクセントのつながりを見つけ出すことが大切です。

斜めから光を当てて、影の面積の多いコントラストの強いセッティングにしてありますが、陰影を付ける前に、デッサンの基本である線で、形を徹底的に追っていきました。

影を付けていきます。

今回は影の面積が多いので、個々の形をモデリングする前に、暗部を一方方向からのハッチングで全体的に付けていました。

その後で、前後関係を考えながら形を一つひとつモデリングしていきます。




















「髭の男」 画用紙に鉛筆 (650×500)



約30時間かけて仕上がりました。

石膏の白さを表すための工夫をしながら、細かい形を丹念に描き表わしいるにも関わらず、全体的には硬くならずに自然な印象に近いデッサンになっています。石膏像の白さも十分出ています。

難を言えば、影の中の形の前後関係にちぐはぐな個所があります。これは描き方の問題だけではなく、線を描くのには適した鉛筆という画材が、明暗を付けるのに向いていないことにもよると思います。これを機会に表現と画材の関係も考えてみるとよいでしょう。








兎にも角にも石膏デッサンを始めて約半年でここまで描けるようになったのに驚いています。これからどんな作品を描いてくれるのか楽しみにしています。

2014年8月8日金曜日

人物画 : コスチューム

今回は、公募展に出品されているK.sさんが、その団体の支部展のために描かれた作品の制作過程を紹介します。

ご自身で衣装の購入とモデル選びをされた後、教室を半日借り切ってセットとポーズを決めました。


大きな絵は時間がかかる上に、経済的にもモデルさんを常に見ながら描くのは不可能なので、写真を使って制作を進めていき、必要になったらモデルさんを再度お呼びすることにしました。
















膠引きのキャンバスに、シルバーホワイト・ランプブラック・レッドオーカーでグレーを作り、パレットナイフで平滑に地塗りした上に、鉛筆でデッサンをとりました。(このような油性の地塗りの乾燥には、最低1カ月必要です)











カッセルアースにレッドオーカーで色味の調整をしながら明暗を付けていきました。


明部はシルバーホワイトで描き起こします。

顔の正面が影の中に入る構図なので、影の明度をどの位にするかが非常に難しいところです。

いったん暗めにエボーシュした上に、肌の固有色を重ねていきました。

肌色は、シルバーホワイトにレッドオーカー、イエローオーカーを混色して下色を塗って、バーミリオン加えてハイライトに向かってモデリングします。ハイライトは、白にネープルスイエローで置きました。
髪の毛は、茶髪だったのでバーントアンバー、レッドオーカー、イエローオーカーで作りました。

髪の毛の1本1本の描写より、骨格に添ったボリュームを表現することが大切です。

コスチュームの柔らかなひだの表現に苦労されました。















P30号

週1回午前・午後(5時間)で、約4ヶ月で完成しました。衣装などの細部に描き足りない感じはありますが、全体的にはK.sさんらしい様式化された表現に仕上がりました。それは、単に写真的なリアリティを目指すのではなく、平面としての画面に対して、背景・人物・赤い布・カウチなどの形と色の組み合わせを考えた結果だと思います。このような見方は、ナビ派などにも共通する点があるので研究してみると良いでしょう。

今後の展開を楽しみにしています。