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2023年10月13日金曜日

街角を描く

今回は都会の街角を描いた作品を紹介します。

風景画と言うと名所旧跡や大自然をテーマにした作品を考えがちですが、身近な場所からでも絵にできる例として見て頂けたらと思います。

いわゆる「匿名の風景」を描く場合は、ただ説明的な描写をするのではなく、何に感動したのかを造形的に考えて表現することが大切です。


作者のEさんが現場で描いたスケッチを見ると、強い日差しがつくった光と影のコントラストと形、ビルと道路がつくる垂直・水平の構図に心惹かれたのではないかと感じました。

教室ではスケッチを基にそれを整理してより強調する形で、キャンバスペーパーにエスキースを作って頂きました。大きさはハガキほどで、構成を考えるには小さいサイズで描いた方が細部に拘らずに進めやすいです。

単色で明暗の組み合わせから始めました。


決まった明暗の配置に従って色を置いていきます。影を青系統の色で、光のあたっている所を黄色系統の色で考え、その間をつなぐ色として緑を配置しました。最後にアクセントカラーとして赤を加えました。



エスキースを基にしてF4号のキャンバスに制作しました。
正方形だったエスキースを横長の長方形の構図を改め、黄金比で分割をおこないました。
また遠近法を使って奥行きを加えました。




完成。

街角の風景」 F4号 キャンバスに油彩


造形上の意図と現実の風景を見た時の実感とのバランスが難しい制作でしたが、そこに絵を描く本質的なおもしろさを感じて頂けたら幸いです。


2021年7月18日日曜日

コレクション:鹿子木孟郎 風景デッサン

 今回のアトリエラポルトコレクションは、鹿子木孟郎(1874~1941)の風景デッサンです。


鹿子木は、フォンタネージの教えを受けた小山正太郎から西洋絵画の基礎を学び、フランスに留学した後はアカデミーの重鎮ジャン=ポール・ローランス(1838~1921)に師事した画家です。日本人の中で最もきちっとアカデミック絵画を学んだ画家と言えるでしょう。

紙に鉛筆(200×173)

このデッサンは、おそらく1917年の夏にブルターニュ地方を旅行した時に描かれたもので、場所はグーグルアースを使って特定することができました。

サン・マロの城壁

鉛筆で短時間で描かれたスケッチですが、その的確な形と光と影の表現力に驚かされます。

よく見ると、デッサンの上に数字が描かれているのに気づきます。




これは明度の段階を表していると考えられます。
20段階で数字が上がるほど暗くなっています。
例えば、空は2で最も明るく、海が4、城砦が10、船の影が20で一番暗く表記されています。
この事から、鹿子木がいかにヴァラー(Valeurs:明度)を重視していたかが窺えます。

このように明度の段階を数字に置き換えて認識する方法は、西洋ではよくおこなわれていました。

アトリエラポルトの授業で参考にしている文献の中にも、次のようなイラストが載っています。


これは、アンリ・バルツの「デッサンの文法」(Henry BALTH:Grammaire du dessin.
1928)からで、説明文に「下書きの上に明度段階の値を数字にして記入するのは良い方法である。」と薦めています。

短時間で描かれたスケッチですが、鹿子木がローランスや当時のフランスの絵画教育を通じて、対象を明度で捉える方法を学んでいたことが分かる大変興味深い資料です。



2020年3月21日土曜日

桜を描く

今回は、アトリエラポルト創設当初から来て頂いているK.kさんの作品を紹介します。

昨年ご自宅近くの桜並木を取材して描かれた15号のエスキースから、30号の作品にしました。





スケッチからアトリエで創作する際は、何らかの表現上の意図がないとスケッチ以上の魅力のある作品にはなりません。

この作品では、Kさんと話し合った上で、印象派の色彩理論をベースにトーンの系列(gamme:音階)をできるだけ合わせる方向でアドバイスをおこないました。








桜並木 (F30号)


週1回の受講で約4か月かけて仕上げました。影の明度を出来るだけ上げて全体的にハイ・キーにしてトーンを合わせました。結果としてエスキース以上に明るくて色彩的な絵になったと思います。 

ご自宅で営業されているカフェに飾れば、お店も一層華やぐことでしょう。




2019年8月2日金曜日

風景スケッチから作品へ

今回は風景画の制作方法の一例を紹介します。

写生に基づいた風景画は、できれば現場ですべて仕上げるのが理想です。
しかし現実には天気の変化や太陽光の移動により、良い条件で制作できるのはせいぜい1日2~3時間位です。大きめの作品になると、何日も滞在して現場に通わなければなりません。

そこで昔からよく行われてきた方法に、現場で小さいサイズのスケッチをして、それをもとにアトリエで再構成しながら大きな絵を仕上げる「ペイザージュ・コンポーゼ( Paysage Composé)」があります。コロー(Jean‐Baptiste Camille Corot 1796~1875)の作品などにその良い例を見ることができます。
今回の制作者のY.Kさんには、この方法を応用して描いて頂きました。

取材場所は長野県安曇野で、田植え前の水をはった「鏡田」がテーマです。

現場での油彩スケッチでは、主に遠近に即した明暗と色合いの変化を捉えること、そして何よりその「実感」を記憶に留めるつもりで描くことが大切です。





半日で1枚のペースで4~5枚の油彩スケッチを描いた中から、教室で制作出来そうな作品を選びました。










P15号のキャンバスに、構図や明暗の組み合わせを考えながらスケッチを再構成します。

特に、雄大な風景の奥行きを表すには大気遠近法の理論が役に立ちます。

参考文献
Valenciennes:Elements de perspective pratique.
L.Cloquet:Perspective pittoresque.











細かい形や描き込みは、写真で補いながら制作しました。

















常にスケッチから現場を思い起こして描き進めていくことが大切です。

















安曇野 P15号 キャンバスに油彩



約25時間かけて完成となりました。
教室での制作時間が長くなるほど写真に引きずられがちになりましたが、現場でのスケッチが「写真の模写」になるのを防いで、目で見た印象に近い「実感」のある風景画になったと思います。

ただスケッチが風景全体を捉える事を優先した為に、テーマの「鏡田」が取材不足で苦労されました。

このような経験を繰り返して、自分なりの制作スタイルを確立していって頂ければと思います。






2018年8月27日月曜日

水辺を描く

今回は、水辺の風景を描いた作品を紹介します。

制作者のM.tさんは、定年後本格的に絵を学ばれた方です。お住まいの近くで取材されてきて、教室で油絵にしました。

水辺の風景は、古くは17世紀のオランダ派のロイスダールやゴイエンが好んで描き、最もポピュラーなところでは、印象派のモネやシスレーを上げることができるでしょう。

Jacob van Ruisdael (1628ー1682)
Jan van Goyen (1596-1656)









Claude Monet (1840-1926)
Alfred Sisley (1839-1899)



技術的な面では、水の透明感や地上の風景の映り込み、そこを照らす太陽光のキラキラした輝きをどう表現するかが課題でしょう。




映り込みは、遠近法に従うと陸地と水面の境に対して、同じサイズで反転するのが原則です。










Valenciennes:Elements de perspective pratiqueより


また、太陽光の輝きを追求した印象派の画家たちは、補色や反対色のタッチを並置して、色収差による「目のちらつき」を利用して表そうとしました。




シスレー:サン=マメスのロワン川より







さて、M.tさんの制作ですが、色彩効果を考えて青色(ウルトラマリンとコバルトブルー)でエボーシュを試みました。

青色は暗くすると彩度が上がるので、感覚的には難しいやり方ですが、上に置かれる固有色と対比されることで色彩的な効果を狙いました。









出だしは、青色が強すぎて苦労されましたが、コツコツ不透明な固有色を塗り重ねていって、次第に現実の印象にちかくなってきました。
















水辺の風景(P10号)

構成感のあるがっちりとした絵になったと思います。
下描きの彩度の高かった青色を抑えるために、暖色を塗り重ねていったせいか、出来上がった絵は、暖かい光を感じる穏やかな色調になりました。
ただその為に、水面の映り込みが暗く重たくなったのが残念です。
現実はもっと透明感のあり、光の反射で輝いていたことでしょう。次の作品のためにも、できれば現場に絵を持って行かれて、見比べてみると良い勉強になると思います。


2017年11月8日水曜日

印象派の技法から自己の作風へ



今回は印象派の技法を取り入れて風景画を制作されている、N.sさんの最近の作品を紹介します。

教室ではどうしても写真を使っての制作になるので、写真に捕らわれない絵になるようにと、印象派の用いたスペクトルの色による並置混合をお勧めし、それを実践されています。





残雪(M12号)



早春のまだ雪の残る八ヶ岳付近の風景。

針葉樹の暗い形と雪の白い形がバランス良く配置されています。

近づいて見ると、印象派の手法を使っているのが分かります。

このように普通なら見過ごしてしまいそうな風景から、造形的要素を引き出して絵にするところにN.sさんのオリジナリティーを感じます。










ゲレンデ(F10号)


これも「ゲレンデでスキーをしているところ」というテーマを越えて、明るい形と暗い形の配置のおもしろさに目のいく作品です。

惜しむらくは、緑の大地は絵具の並置によりニュアンス豊かに表現されているのですが、雪や空の色彩的変化が単調です。それにスキーヤーが遠近法に合っていれば、もっと良い作品になるでしょう。







街角(34㎝×27㎝)キャンバスペーパーに油彩




最後は、キャンバスペーパーにスケッチ風に描いた作品。
新聞を読んでいるのは自画像でしょうか?  
これも垂直水平の画面分割に工夫を感じます。
デッサン額にマットを切って入れれば立派な作品です。



2017年7月2日日曜日

絵になる風景を求めて



前回に引き続き風景画の作品を紹介します。

今回の制作者Y.kさんは、絵の題材を求めてよく旅行をされています。紹介する3点とも現地でデッサンや水彩スケッチをしてきたものに、教室では写真資料を加えて制作しました。  



運河沿いの風景 (P15号)




富山県射水市の運河沿いの風景。奥には立山連峰が広がります。JRの広告でこの場所を知り、取材に出かけられました。









「日本のベニス」とも称される美しく落ち着いた風景は、確かに絵心を誘われる題材です。

制作にあたっては、家並みの暖かな色と運河や山並みの冷たい色とのコントラストと組み合わせについてアドバイスしました。






棚田のある風景(P15号)



山梨県南アルプス市から富士山を望んだ風景です。以前から棚田を描きたいと探されていて、東京から日帰りで行けるこの場所を見つけられました。




秋の日差しに輝く稲穂の表現が、制作上の大きな課題です。そこで中景の林をまとめて暗い形として扱い、中景から前景にかけての影の暗さと配置を工夫するようにアドバイスしました。





雪景色 (P20号)



新潟県越後川口から信濃川の雪景色を描いた作品です。遠くに見える山は八海山です。

冬の日の晴れ間を狙って出かけられ、車で片道5時間の日帰りの取材だったそうです。そのバイタリティーに驚くばかりです。

教室では大気遠近法による空間表現をテーマに制作されました。最初に、複数の青色とブルーブラックとシルバーホワイトでグリザイユのように描いてから、反対色の黄色や赤色を加えて仕上げていきました。

Y.kさんは会社を退職後から本格的に絵を学ばれた80代の男性です。アトリエラポルトの最初の受講生で、今では支援者とも言える存在です。すでに多くの作品を制作して発表されています。教室では、制作の方向づけをアドバイスする程度ですが、毎回新しいモチーフと技法に積極的に挑まれ、教える側も良い刺激を頂いてます。


2017年6月2日金曜日

旅と風景画

今回は、旅の思い出を絵にされたK.kさんの作品を紹介します。
K.kさんはご子息が海外に住まわれていることもあり、よく海外旅行をされるそうです。

2点の作品とも現地で撮った写真を使って教室で描かれたものですが、遠近法や配置、明暗や色の組み合わせの修正・整理を行い、より明瞭な表現になるようアドバイスいたしました。その過程を含めてご覧下さい。


1枚目はスイスのユングフラウ地方の町ヴェンゲンの風景です。

描きだしは、褐色で影も含めた暗い形を探していきました。その後遠い所から明度と色を決めていきました。

中景では、青の領域と緑の領域の組み合わせとバランスを考えながら、強調と削除をしました。

第3の色となる建物の赤が加わることで、より色彩的になりました。











ヴェンゲン(P15号)



2枚目は、イングランドの湖水地方ウェンダミアの街角の情景です。

写真の歪みを遠近法の理論によって、修正してデッサンしました。













影から描き始めました。
影も画面上では「暗い形」と捉え、その形状と配置を考えながら描き進めます。
















イングランドの空気感をイメージしたグレーで全体を統一して、アクセントに赤い日よけや通行人の服の青などを加えました。



ウェンダミアの街角(F6号)

どちらの作品も、個人的思い出の記録という域を越えて「絵画作品」として鑑賞できるレベルに仕上がっています。額装して飾られたら、素敵なお部屋になると思います。