2021年7月18日日曜日

コレクション:鹿子木孟郎 風景デッサン

 今回のアトリエラポルトコレクションは、鹿子木孟郎(1874~1941)の風景デッサンです。


鹿子木は、フォンタネージの教えを受けた小山正太郎から西洋絵画の基礎を学び、フランスに留学した後はアカデミーの重鎮ジャン=ポール・ローランス(1838~1921)に師事した画家です。日本人の中で最もきちっとアカデミック絵画を学んだ画家と言えるでしょう。

紙に鉛筆(200×173)

このデッサンは、おそらく1917年の夏にブルターニュ地方を旅行した時に描かれたもので、場所はグーグルアースを使って特定することができました。

サン・マロの城壁

鉛筆で短時間で描かれたスケッチですが、その的確な形と光と影の表現力に驚かされます。

よく見ると、デッサンの上に数字が描かれているのに気づきます。




これは明度の段階を表していると考えられます。
20段階で数字が上がるほど暗くなっています。
例えば、空は2で最も明るく、海が4、城砦が10、船の影が20で一番暗く表記されています。
この事から、鹿子木がいかにヴァラー(Valeurs:明度)を重視していたかが窺えます。

このように明度の段階を数字に置き換えて認識する方法は、西洋ではよくおこなわれていました。

アトリエラポルトの授業で参考にしている文献の中にも、次のようなイラストが載っています。


これは、アンリ・バルツの「デッサンの文法」(Henry BALTH:Grammaire du dessin.
1928)からで、説明文に「下書きの上に明度段階の値を数字にして記入するのは良い方法である。」と薦めています。

短時間で描かれたスケッチですが、鹿子木がローランスや当時のフランスの絵画教育を通じて、対象を明度で捉える方法を学んでいたことが分かる大変興味深い資料です。



0 件のコメント:

コメントを投稿