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2025年4月4日金曜日

サテュロス全身像を描く

 今回はサテュロス全身像のデッサンを紹介します。
作者のSさんは現役の美大生で、これがラポルトで描く初めてのデッサンです。

サテュロス像は19世紀のフランスの美術学校でよく描かれた石膏像です。
アトリエラポルトにもその当時のデッサンがあります。

「サテュロス像」1890年頃
中間色の紙に木炭とチョーク


初めは線でできる限り正確にプロポーションをとった後、明部と暗部に分けて暗部から描いていきます。



続いて、明部のハイライトに向かってモデリングをして、各部の筋肉のボリュームをだしていきますが、ただ見て描くだけでは現象的な光に惑わされて正確な形は捉えられません。そこで、光の当て方を変えてみたり、解剖学の本を参考にして、存在する形を探しながら描き進めます。


モデリングをする際に特に注意する箇所は、明暗の境目からハイライトに向かって急激に明るくなる数ミリの移行部です。このハーフトーンの扱い方で、丸くなったり角張ったりと形の性質が変わります。



出来上がり。

サチュロス像 (650×500)  画用紙に鉛筆


さすがに現役の美大生だけあって、1枚目の石膏デッサンから完成度の高い仕上がりになりました。残念なのが、明部が背景の白さに対して少し暗く感じます。明部のハーフトーンの扱いに、より一層のデリケートな明度のコントロールが必要です。




2025年2月18日火曜日

マリア・スフォルツァ像を購入

 今回は新たに購入した堀石膏制作のマリア・スフォルツァ像を紹介します。


原作は、彫刻家フランチェスコ・ローラナ(Francesco Laurana.1430-1502)によって1470年頃にイタリアで制作されました。大理石像で、かつてはベルリン美術館に収蔵されていましたが、第二次世界大戦中の爆撃で破壊されてしまいました。現在はオリジナルから型取りされた石膏像が、イギリスやロシアの美術館に残っているそうです。(脇本壮ニ著「石膏像図鑑」より)


ルネサンス時代は言うまでもなくギリシャやローマ時代の「美」を規範としていましたが、この像にはゴシックの様式化された形態の面影を感じます。


次の絵は国際ゴシック様式の画家、ピサネロ(Pisanello 1395-1455)の作品です。ローラナが参考にしたのではないかと思えるほど似た形をしています。





モデルとなったイッポーリタ・マリア・スフォルツァは、ダ・ヴィンチのパトロンにもなったフランチェスコ・スフォルツァの娘で、ローラナは肖像彫刻として制作しているのですが、実物そっくりのリアルな像でないのが興味深いところです。デッサンをしながら、そのような時代背景や様式化について考えてみるのは大切なことだと思います


2025年1月27日月曜日

19世紀の描画材料

 今回はアトリエラポルトの受講生のKさんから譲って頂いた、19世紀末頃の描画材料を紹介します。


Kさんがこのような画材を集めたのは、19世紀のパリの美術学校で描かれたデッサンに使われていた画材と表現に興味をもたれたからだそうです。



調べていくと、今では使われなくなった描画材料がいろいろあることがわかりました。
入手できた物の中からいくつかを紹介します。


PIEERE NOIRE (ピエールノワール) : 元は天然の鉱物でしたが、それを合成して棒状にした物です。現在パリの美術学校が公開している資料によると、このようなデッサンは、PIERRE NOIREで描いたとされています。



これは、その先を尖らせるために使用したと考えられる砥石。



SAUCE (ソース) : 失われた描画材料で非常に貴重なものです。右側2本のガラス容器が粉末状で、左側が棒状(Le Velours á Sauce)です。これを擦筆につけたり、水に溶いたりして使っていたようです。とても淡く、ベルベットのようなハーフトーンの表現が可能です。



それに使用したと考えられる擦筆。上が現在もある紙製、下がセーム革巻いて作った珍しいものです。


 他にも、昔の鉛筆や木炭など興味深いものが沢山あり、これから時間をかけて調べたり試したりするのを楽しみにしています。画材の面からも19世紀のデッサンに迫っていければと考えています。





2024年11月13日水曜日

本の紹介「ウフィツィ美術館蔵 ラファエルロ素描集」

 今回は1984年に岩波書店からファクシミリ版(カラー印刷)で出版された「ウフィツィ美術館蔵 ラファエルロ素描集」を紹介します。



発売当時は大変高額な画集(280,000円)で、総皮の手の込んだ装丁の大型本(520×380)として999冊限定で出版されました。


中を開いてみると、詳しい解説書と図版が1枚ずつ取り出してみれるようになっています。
この画集の一番の魅力は、ラファエルロのデッサンが精巧な印刷で実物と同じサイズで見れることです。



ラファエルロは言うまでもなくルネサンス時代のイタリアを象徴するような偉大な画家で、後の時代の絵の規範として長い間大きな影響を与え続けました。

ここに収められているウフィツィ美術館収蔵の31枚のデッサンは、ラファエルロの初期から晩年までの代表的な作品が集められています。また技法もペンを使ったものから白チョーク・黒チョーク、銀筆(シルバーポイント)、サンギーヌ、ビスタ(Bistre)、鉛白まで多彩で、表現も変化に富んでいます。


例えば、1枚目は友人の画家ピントゥリッキオために描いたモデル素描です。
大きさは70㎝×41㎝もあります。


近づいてみると、ペンで形態を描いた上から白(鉛白)と褐色(ビスタ)で明暗をつけていることがわかります。



以下、年代順にピックアップした表現技法を見ていきます。


横向きの女性  (25.6×16)
銀筆、ペン、黒チョーク、白のハイライト(鉛白)


 

聖ゲオルギウスと竜. (26.2×21,4)
ペン (輪郭に沿って転写した時についた無数の穴が見れる)



聖母子. (21.3×18.4)
黒チョーク、白チョーク、銀筆の跡



キリストの埋葬  (28.7×29.8)
ペン、若干の黒チョーク



聖母子と幼い聖ヨハネ. (28.4×19.1)
ペン、銀筆の跡



「聖体論議」の中のアダム. (35.7×21.2)
黒チョーク、白チョーク



サンタ・マリア・デラ・パーチェ教会のフレスコ画のための習作
サンギーヌ. (33.2×23.9)



「聖ペトロの解放」のための習作. (25.6×41.6)
ペン、ビスタ、鉛白、黒チョークの跡



「フランソワ1世の聖母」のための習作 (33.6×21.4)
サンギーヌ、銀筆の跡



パンテオンの内部景観. (27.8×40.6)
2種類のインクとペン
*このローマ時代に建築されたパンテオンの中に
後の時代にラファエルロの墓が造られた。


ラファエルロの生きた時代は、絵画の技法がテンペラから油絵への移行期にあたる上に、ダ・ヴィンチによって明暗法が確立された時期にも重なります。そのような背景を考えながら眺めると、ラファエルロのデッサンの変遷の中にもその影響が表れています。ただ「うまい」とか「美しい」だけでは終わらせられない絵画表現の奥深さを感じます。

余談ですが、現在古本市場ではこのような大きくて重たい豪華本の値段は暴落しています。アトリエラポルトで購入したこの本は、神保町で約20,000円でした。発売当時は見ることすらできなかった本がこのような値段で手に入るのは嬉しいことですが、出版に携わった方々の労力や資料的価値の高さを考えるとちょっと寂しい気もします。



2024年9月3日火曜日

120年前の人物デッサンを模写する

 今回は約120年前にフランスの美術学校で描かれた人物デッサンの模写の過程を紹介します。


このデッサンは模写をおこなうKさん自身が購入したもので、きめの細かい紙に木炭(もしくは合成木炭)で描かれています。デリケートな明暗の変化の上に解剖学的に正確な形をモデリングよって表しています。前屈みのポーズから、実際は杖を持っていたと考えられます。


画面上のサインとハンコから、1902年にナンシーの美術学校で制作されたことがわかります。


模写にあたっては、まず紙と木炭の選択から始めました。
Kさんはいろいろと試してみた結果、紙はキャンソン製の木炭紙の薄口が最もオリジナルの紙に近いと判断しました。木炭は、ルフラン製と二トラム製のものがこの紙に相性がよく、細部や細い線を描く時はゼネラル製のチャコール鉛筆を使用することにしました。


始めに線でプロポーションをできる限り正確にとります。


その後、画面全体を明部と暗部の2つに分け、人体の暗いところから木炭をおいていきます。


続いて背景に移ります。


擦筆やセーム革を使って表面に浮いた木炭をなじませながら、背景の基本となる明度を決めました。

全体の大きな明暗関係ができた段階です。いよいよここから各部分の描き込みに入ります。


木炭で描いては擦筆でなじませる工程を繰り返しながら形をモデリングします。


木炭は大きな面積を簡単に暗くできる反面、落ちやすくてデリケートな明暗の変化をコントロールするのが難しい画材です。擦筆以外に綿棒や練り消しゴムなど様々な手段を試しながら進めていきました。


描けば描くほどオリジナルのデッサンが、明暗法や解剖学に裏付けられた知識で正確な形を滑らかなモデリングで描き表しているのに驚かされます。当時のデッサン教育のレベルの高さを実感します。




終了。


週1回(5時間)の制作で、約半年かけて模写をおこないました。
オリジナルのデッサンが20世紀初頭の明暗(valure)をより現実に近く再現したスタイルのものだったので、技術的難度が高い模写となりました。
教える側も初めての経験で、Kさんと一緒に学ばせていただきました。
木炭の扱い方や明暗の方法など新たな発見が沢山あり、フランスの美術学校における人物デッサンの変遷について再考する機会となりました。西洋絵画の奥深さをあらためて痛感したしだいです。