2015年12月19日土曜日

キューピットを描く

アトリエラポルトでデッサンを始められてから約2ヶ月、幾何形体→石膏レリーフ→石膏像半面と進んでこられたO.y さんが、いよいよ丸彫りの石膏像に挑まれました。





今回選ばれたのはキューピットの全身像で、石膏デッサンの定番と言えるものです。作者や制作年代は不明のようですが、セザンヌがモチーフにしたことで有名です。









エクス=アン=プロバンスにあるセザンヌのアトリエには、今でもその石膏像が残されています。
頭から左足までの弓なりの曲線的つながりと、前に伸ばした右足から頭にかけての直線的な構造線のコントラストが美しい像です。セザンヌが好んだのも分かるような気がします。

セザンヌ
「キューピットのある静物」
1895年頃




















始めは線だけで描いていきます。
この段階では細部の形に拘らず頭から足までの大きなムーブマンとプロポーションを的確に捉えることが大切です。


全体の形が取れたら、現実の陰影を利用しながら個々の形をモデリングします。






特に初心者の方には頻繁にデッサンと石膏像を並べて置いて、離れた位置から見比べるようにアドバイスをしています。













一見すると可愛らしさだけに目が惹かれるキューピットですが、細部を描き込んみると、驚くほど解剖学的に正確に造形されているのに気がつきます。それをデリケートな明度差のモデリングで表すのがとても難しいところです。















キューピットの石膏像 鉛筆 (530×410)



約15時間で描き上がりました。

アトリエラポルトでの4枚目のデッサンですが、回を重ねるごとに形の捉え方やモデリングが的確になってきています。それと同時に正確な人体の形の把握には、解剖学の知識が必要なことも分かって頂けたかと思います。

「見る事」と「頭で理解する事」との双方からデッサンを学ばれるのが上達への近道です。














2015年12月5日土曜日

19世紀の技法を探る

原画 (作者不明)
今回は美術大学で油絵を学ばれてきたN.aさんの模写を紹介します。

模写する絵は、アトリエラポルト所蔵の19世紀の肖像画で、すでに2人の方が模写をされています。(その制作過程の詳細については、画面右側のラベルから模写を選択して2012年8月からのブログをご覧ください。)


グレーの地塗りをしたキャンバスにデッサンを転写したところです。この段階では影を付けずに線だけで形を捉えます。

カッセルアース(ブロックス社製)とブラウンオーカー(ニュートン社製)で明暗を付けていきます。



暖かみのブラウンオーカーと冷ためのカッセルアースとの混ぜ合わせ方の違いによって、対象の色合いや前後関係を暗示するように描いていきます。


明暗がついたら、明部をシルバーホワイトで描き起こします。

この工程は原画ではおこなわれていませんが、今の市販の油絵具では原画のような発色をさせるのが難しいので、明部の下地として加えてます。


いよいよ彩色です。

ここでこの絵を模写する度に問題になるのが、原画のニスの黄変をどの程度考慮するかです。例えば原画の背景はニスの黄変により緑っぽく見えますが、部分的にニスを取ってみるとブルーグレーのような色調です。前回模写された方は、ニスを取った状態に合わせましたが、あまりに原画の見えと違って戸惑われたので、今回M.aさんには黄色の絵具を少量加えて僅かに古色を付けるように薦めました。



背景が決まってから顔を描いていきます。

ベースとなる肌色をレッドオーカーとシルバーホワイトで塗ってから、ハイライトに向かって描き起こします。使用した絵具は、イエローオーカー、ネープルスイエロー、レッドオーカー、バーミリオン、シルバーホワイトです。

肌色がひと通り色が塗れたら、全体にイエローオーカーをグレーズして再び描き起こします。

この作業を繰り返しながら原画に合わせていきます。


徐々に細部も描いていきます。この辺から原画の表情に「似せる」作業になり、なかなか先に進めなくなりました。

時間をかけて描けば描くほど似てきますが、反面オリジナルの持つ筆触の勢いが失われてきます。模写の難しいところです。


それでも単に形や色を似せるのではなく、絵具の厚み、筆触、透明・不透明の違いも再現しようとする姿勢が模写の勉強では大切です。

完成 (600×450)

今年の春から始めて出来た頃には秋になっていました。途中に休まれた期間もありましたが、長い時間をかけただけあって大変完成度の高い模写になりました。特に原画の微妙な色調の変化をオプティカルグレーやグレーズを使ってうまく表しています。透明・不透明の扱いも見事です。ただ、原画は生乾きの状態で絵具を連続的に重ねて描いているので、非常に滑らかで溶け込むようなモデリングになっているのに対し、教室での模写は1週間ごとの制作でどうしても乾いた絵具層の上に重ねるため、モデリングががたついたり、上層の絵具が浮き上がったように見える箇所があるのが残念です。そのようなことも含めた上で今回の模写の経験を自作に生かしていって頂ければと思います。














































2015年11月26日木曜日

テディベアを描く

今回は、デッサンから段階を追って学ばれてきたM,wさんの油絵作品を紹介します。
その前にアトリエラポルトのモチーフについて。

アトリエラポルトでは「見て描く」を基本と考えてますので、どうしても静物画が多くなってしまいます。そこでなるべく絵心を誘うようなモチーフをアンティークショップや雑貨店で探すように勤めています。


最近は質・量ともかなり充実してきたと思いますが、不思議なことに受講生の選ぶモチーフは似通った物になりがちです。

そこで今回のM,wさんはご自身がコレクションされているテディベアをお持ちになりセッティングされました。



まずは、基本に従って単色で明暗を捉えていきました。

この後はダイレクトペインティングの手法で、モチーフの色に合わせて絵具を置いていきます。

多色で描かれた油絵の2作目ですが、すでに他の教室で油絵を習われた経験があるので描き慣れていて手際がいいのに驚かされました。






テェディーベアー F6号



今までのアトリエラポルトの作品にない可愛らしい絵が出来上がりました。作者のモチーフに対する想いが伝わってくるようです。テディベアのボリュームも良く出ていますし、毛の質感の表現も見事です。

ただ配色面では、全体が暖色系統で描かれていて統一感はありますが、寒色系統がほとんどない為に色味が単調な印象を受けます。暖色をより美しく見せるには適度な寒色の助けが必要です。(例えて言えば、お刺身の横にシソの葉やパセリを置くように)
そのような思考が絵を組み立てる段階で出来るようになると、モチーフを超えた魅力が絵に加わると思います。

2015年11月19日木曜日

アトリエの道具と画材 11 自作パレット


前回の「道具と画材」では、腕鎮を取り上げたので今回は自作パレットについて紹介します。

パレットは言うまでもなく画家の必需品です。画家によってパレットの好みはさまざまです。持って描く人、置いて描く人、四角形を好む人、楕円形を好む人・・・・・。
画材屋さんにいけば、大きいのから小さいのまで何種類も置いてあります。しかも意外に高いもので、単版無垢の木製パレッドだと大きいのは1万円を越すものまであります。

そこでアトリエラポルトでは希望者に自作パレットを薦めています。







厚さ3ミリのシナベニヤを好みのサイズに切ります。右は、キャビネットに置いて描くタイプの長方形パレットです。

これは、持って描くタイプの大型のフランゼン型パレットを作っているところです。かっこ良く使いやすいのですが切るのに骨が折れます。

この後サンドペーパーをかけて滑らかに整形します。

形が取れたシナベニヤにリンシードオイルをしみ込ませます。


表と裏に塗れたら、約1週間乾かします。
この後は表面だけでよいのですが、最低3~4回はこの作業を繰り返します。













完成!




















画材入れボックスの上にピッタリ置けるサイズにしてあります。使い始めは絵具の油が吸われる感じがしますが、毎回終わったらきれいに絵具をふき取り、リンシードオイルか残った溶き油を薄く塗っておくと次第に使いやすく美しい光沢のあるパレットになってきます。


2015年11月10日火曜日

色彩的表現を目指して 


すでに公募展に作品を発表され活躍の場を広げているT.kさんが、今アトリエラポルトで取り組まれている課題を紹介します。

T.kさんはシスレーを中心とする印象派の風景画を好まれ、それにより一層の色彩的表現を加えられないか模索しています。

色は感覚的要素が強く作者の趣味や個性が出しやすい半面、客観的に秩序立てて考えるのが難しいものです。

そこで、T.kさんにはシスレーのような再現性を最低限度保つ意味から、遠近法と明暗を使って空間と形を表すことから始めるようにアドバイスしています。


それをベースに虹色(スペクトル)の絵具を使って描くように勧めています。ただしパレット上では反対色(色相環上の反対側にある色)どうしは混ぜないことを原則とします。

かなり制約のある描き方ですが、色彩の調和が得やすく、筆触を付けて厚く不透明に絵具を置くタイプのTさんには合った方法だと考えています。







リアルト橋のレストラン (F6号)



この手法で描き初めてから6~7枚目になりますが、大分描き慣れてきたと思います。

ヴェニスの街並みの色とも合って、彩度の強さが気にならなずに「表現」になってきています。


ただデッサンの構造的な見方が足りないために、下手をすると描き殴った未完成の絵に見えてしまう恐れがあるので要注意です。色彩の魅力に引きつけられて、デッサンが疎かにならないようにしたいところです。やはり絵の基本はデッサンです。










2015年11月1日日曜日

アトリエの道具と画材 10 「腕鎮」

今回はアトリエの必需品(?)、「腕鎮」またの名を「画杖」(英:Mahlstick, 仏:L'appui-main)について考えてみたいと思います。


腕鎮は、ゲッテンス&スタウトの絵画材料事典によると「木製の軽い棒の一端に柔らかい皮で包んだ球をつけたもの。絵を描く方の手をこの上に置いて支えるための道具である。球部はイーゼルの一部に当てて支え、時には画面の一部に当てることもある。もう一端はパレットを持つ手で持ち、仕事をする方の手は棒の上に置く。」となっています。

右はフェルメール作「画家のアトリエ」の部分ですが、その様子が描かれています。











前述の絵画材料事典によると、油絵が広く行なわれる以前の時代にはあまり用いられなかったようで、中世やルネッサンスの絵画論には出てこないそうです。


これはディドロとダランベールが1772年に完成させた百貨全書の中からの1枚で、イーゼルや絵具箱と一緒に腕鎮が載っています。


























これがアトリエラポルトで使っている腕鎮です。
上から、カーテンレール用の棒を転用したもの。次の2つが自作のもの。最後がホルベイン社製の携帯用腕鎮(3つに分解できる)です。




その内の自作の腕鎮は、直径8ミリ・長さ90cmの棒材の先端に綿を球状に巻きつけてセーム革で包んだ後、タコひもで括り付けて作りました。たいへんローコストで使いやすい腕鎮です。











画家の中には腕鎮の使用を嫌う方もいますが、緻密にモチーフを描き込んでいくには必需品だと思います。







これは受講生のアイデアで、先端部分をクリップで挟むとキャンバスの淵に引っ掛けられて手で持たなくてもよくなります。

こんな感じです。



また大作を描く場合やもっと安定した画杖が欲しいときは、右のような床から立てかけるタイプも作りました。

長さは1.8m、一辺1.8mmの角材で、床に接する部分には滑らないようにゴムを付けています。
キャンバスに直接触れないように、イーゼルに横棒の支えが取り付けてあります。


余談ですが、筆者が学生時代にフランスの美術館で模写をしていた時、覗きにくる小学生位の子供達から度々受けた質問が 「それ(腕鎮)なあに?」でした。フランスでも馴染みのないものなのか、東洋人が変な棒を持っている姿がおかしかったのか、懐かしい思い出のひとつです。