2015年11月1日日曜日

アトリエの道具と画材 10 「腕鎮」

今回はアトリエの必需品(?)、「腕鎮」またの名を「画杖」(英:Mahlstick, 仏:L'appui-main)について考えてみたいと思います。


腕鎮は、ゲッテンス&スタウトの絵画材料事典によると「木製の軽い棒の一端に柔らかい皮で包んだ球をつけたもの。絵を描く方の手をこの上に置いて支えるための道具である。球部はイーゼルの一部に当てて支え、時には画面の一部に当てることもある。もう一端はパレットを持つ手で持ち、仕事をする方の手は棒の上に置く。」となっています。

右はフェルメール作「画家のアトリエ」の部分ですが、その様子が描かれています。











前述の絵画材料事典によると、油絵が広く行なわれる以前の時代にはあまり用いられなかったようで、中世やルネッサンスの絵画論には出てこないそうです。


これはディドロとダランベールが1772年に完成させた百貨全書の中からの1枚で、イーゼルや絵具箱と一緒に腕鎮が載っています。


























これがアトリエラポルトで使っている腕鎮です。
上から、カーテンレール用の棒を転用したもの。次の2つが自作のもの。最後がホルベイン社製の携帯用腕鎮(3つに分解できる)です。




その内の自作の腕鎮は、直径8ミリ・長さ90cmの棒材の先端に綿を球状に巻きつけてセーム革で包んだ後、タコひもで括り付けて作りました。たいへんローコストで使いやすい腕鎮です。











画家の中には腕鎮の使用を嫌う方もいますが、緻密にモチーフを描き込んでいくには必需品だと思います。







これは受講生のアイデアで、先端部分をクリップで挟むとキャンバスの淵に引っ掛けられて手で持たなくてもよくなります。

こんな感じです。



また大作を描く場合やもっと安定した画杖が欲しいときは、右のような床から立てかけるタイプも作りました。

長さは1.8m、一辺1.8mmの角材で、床に接する部分には滑らないようにゴムを付けています。
キャンバスに直接触れないように、イーゼルに横棒の支えが取り付けてあります。


余談ですが、筆者が学生時代にフランスの美術館で模写をしていた時、覗きにくる小学生位の子供達から度々受けた質問が 「それ(腕鎮)なあに?」でした。フランスでも馴染みのないものなのか、東洋人が変な棒を持っている姿がおかしかったのか、懐かしい思い出のひとつです。






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