2020年7月6日月曜日

アトリエの道具と画材 : 芯が長~く削れる鉛筆削り


今回紹介するのはデッサン用の鉛筆削りです。

商品名は、「デッサンメイト」
アスカ社製で、価格は2,200円です。

受講生のインテリアデザイナーのKさんから教えて頂き、すぐに購入しました。





デッサンをする時の鉛筆は、できるだけ芯を長くした方が描きやすいのですが、カッターなどで削るのは手間のかかる作業です。

ところがこの鉛筆削りを使えば、芯を最大19㎜まで、あっという間に削ることができます。





芯先の長さも7段階の調整が可能です。



















右の写真は、上がこの鉛筆削りで削ったもので、下が普通の鉛筆削りです。

その違いに驚きます。









これは、上がチャコール鉛筆で、下がファーバーカステル社製のグラファイト鉛筆(6B)を削ったものです。

デッサンに最適の長さになっていると思います。







アトリエラポルトでは、鉛筆でデッサンを描く頻度が高いので、とても重宝しています。
マットブラックのシンプルなデザインでアトリエにも馴染みます。
鉛筆デッサンの好きな方には、お薦めの一品です。


2020年6月29日月曜日

コレクション:石版画 レオン・ボナ 「ヨブ」

今回紹介するアトリエラポルトのコレクションは、19世紀フランスアカデミーの重鎮レオン・ボナの絵の石版画(リトグラフ)です。年老いたヨブを描いたもので、版画家の名前は不明です。

非常に宗教臭い作品なので敬遠される方もいるかと思いますが、19世紀後半のフランスアカデミー絵画を代表する作品のひとつです。

「ヨブ」石版画(500×380)制作年不明






ド・ラ・パヌーズ子爵夫人の肖像
西洋美術館蔵

レオン・ボナ(1833~1922)は肖像画家として、またパリのパンテオンに壁画(聖ドニの殉教)を描いた画家として知られています。晩年はパリの美術学校の学長を務めました。


現在、故郷のバイヨンヌにボナが集めた美術コレクションを基にして設立された美術館(Musee Bonnat)があります。

2015年に上野の西洋美術館でも肖像画を購入、展示されるようになりました。









筆者がボナの絵を初めて知ったのは、学生時代に使っていたアーノルド・モローの美術解剖学の本の中からです。



その解説の中でモローは、
「19世紀後半のフランスアカデミーの大家レオン・ボナによるこのヨブ像は、解剖学的に極めて正確な骨格・筋肉・血管によって、痩せた老人を表現している。」
と書いています。








石版画(lithograph)は19世紀に生まれ、その制作のしやすさで急速に普及します。
ドーミエやロートレックが好んで使用した方法です。

アトリエラポルト所蔵のこの石版画は、ボナの原画を驚嘆する技術で忠実に再現しています。モローの解説通りのデッサンの正確さを余すところなく伝えています。







このような表現は、ただ漠然とモデルを見て描いても不可能で、美術解剖学の深い知識の必要性を感じさせてくれます。



2020年6月21日日曜日

三原色で始める

今回は油絵具を使って初めての彩色を試みた受講生の制作過程を紹介します。

M.tさんは、アトリエラポルトで絵を学ばれて2年半が過ぎました。
週1コマの受講で石膏デッサンから油彩グリザイユへと、一つずつ時間をかけて課題をこなされてきました。一般的な意味での「油絵」を描くのはこれが初めてですが、デッサンと明暗の捉え方を習得されると油絵の上達が早いのが分かります。



まずは、画用紙にキャンバスと同じサイズで鉛筆デッサンします。

油絵の下書きとしてのデッサンは、形を遠近法に従って正確にとることが目的なので、モチーフの固有の明度を表す必要はありません。



トレーシングペーパーでデッサンを転写した後、バーントアンバーで影をつけてから、着彩に入りました。



使用色は、シルバーホワイトとバーントアンバー(黒の代わり)に、イエローオーカー、レッドオーカー、ウルトラマリン、の彩度の低い三原色で始め、次第に彩度の高いカドミウムイエロー、カドミウムレッド(またはマダーレーキ)を加えていきました。



チェリー・リンゴ・レモン(F6号)


油彩画の技術の説明をしながら約3か月、コロナ禍で教室を閉める前に完成しました。
いきなり彩度の高いモチーフを選ばれたので驚きましたが、ハレーションを起こすことなくうまく空間の中に収まりました。それはデッサンやグリザイユで練習してきた、色を明度で見る成果だと思います。

三原色の混色による色の再現は、調和を得やすい反面、発色の鈍い絵になりやすいのですが、カドミウム系の彩度の高い絵具をおもいきって使い、鮮やかな絵に仕上がってます。
これに、デッサンの精度を高めながら、色のニュアンスや響き合いを加えていくことが、次の作品の課題だと思います。



2020年6月14日日曜日

コレクション:銅版画 アングル「レオナルド・ダ・ヴィンチの死」

コロナ禍で長らくお休みを頂いてたアトリエラポルトも、6月10日から再開となりました。感染対策を踏まえながら、より良い制作環境になるようにしていきたいと思います。


その一つとして、アトリエラポルトで参考資料としている収蔵作品をできるだけ教室内で展示し、「コレクション」と題して、このブログで随時紹介することにいたしました。








初回は、アングル作の「レオナルド・ダ・ヴィンチの死」の銅版画です。






原画は、パリのプチパレ美術館にあり、それを基にJules Richommeが銅版画にしたものです。制作年代は、おそらく1800年代の前半で、ほぼ原画と同じサイズ(500×390)です。






銅版画の技法を駆使して再現したもので、その技術は驚異的です。
近づいて見ると、ビュランによる繊細なハッチングが分かります。
このハッチングの方法は、鉛筆デッサンのモデリングや明暗のつけ方の大変良い参考になります。


また、物理的には白い紙と黒いインクだけの世界ですが、衣類の光沢や影の透明感や深い奥行きまでリアルに再現されています。油絵の絵具やメジュームにどんなに優れた物を使っても、デッサンでこのような表現ができないと、アングルのような古典絵画にはなりません。


名画の銅版画による複製は、16世紀頃から作られるようになり、18世紀から19世紀に技術的な頂点を迎えます。それが、写真製版の普及によって急速に失われていきました。新しい技術の進歩に淘汰されたとも言えますが、銅版画による複製には写真にない高度な手仕事の美しさがあります。教室での制作の参考と目標になれば幸いです。




2020年3月30日月曜日

全身像の石膏デッサン

今回は全身像の石膏デッサンの制作例を紹介します。
作者はアトリエラポルト4年目のY.mさんです。

パリの美術学校に残されている過去の石膏デッサンの資料を見ると、そのほとんどが全身像(立像)の石膏像を描いたものです。

それらは人体デッサンの前段階としておこなわれていました。







アトリエラポルトでもそれに倣い、日曜人物デッサン講習会を始めるにあたって新たに全身の石膏像を増やし、実際に人体を描く前の練習としてデッサンして頂いてます。










全身像を通じて、人体の測り方やプロポーション、解剖学に基づいたモデリングのやり方を学びます。


石膏像はそれぞれの時代の様式によって造形されているので、現実のモデルさんとは似ていませんが、その分、形が美しく整理され明瞭に見えるので、人体の形態を学ぶには最適です。しかも、動かないしポーズ時間の制約もありません。



ディオニソス全身像(画用紙に鉛筆 650×500) 堀石膏製


この機会に日本で販売されている全身石膏像を調べたら、立像の種類が少ないのに驚きました。それは、人体デッサン(アカデミー)の教育方法が確立されてこなかった事も、その一因かと思います。シンプルで描きやすい全身石膏像の販売が望まれます。





2020年3月21日土曜日

桜を描く

今回は、アトリエラポルト創設当初から来て頂いているK.kさんの作品を紹介します。

昨年ご自宅近くの桜並木を取材して描かれた15号のエスキースから、30号の作品にしました。





スケッチからアトリエで創作する際は、何らかの表現上の意図がないとスケッチ以上の魅力のある作品にはなりません。

この作品では、Kさんと話し合った上で、印象派の色彩理論をベースにトーンの系列(gamme:音階)をできるだけ合わせる方向でアドバイスをおこないました。








桜並木 (F30号)


週1回の受講で約4か月かけて仕上げました。影の明度を出来るだけ上げて全体的にハイ・キーにしてトーンを合わせました。結果としてエスキース以上に明るくて色彩的な絵になったと思います。 

ご自宅で営業されているカフェに飾れば、お店も一層華やぐことでしょう。




2020年3月14日土曜日

本の紹介 「脳は絵をどのように理解するか」



今回紹介する本は、1997年に新曜社から出版さたロバート・L・ソルソ著「脳は絵をどのように理解するか」(鈴木光太郎・小林哲生 共訳)です。










右:「美を脳から考える」インゴ・レンチュラー著 2000年
左:「脳は美をいかに感じるか」エミール・ギゼ著 2002年





同じ時期に右のような本も出版されていて、近年の脳科学の発達とブームの影響を感じます。













中でもこの本は、西洋絵画の中で古くから行われてきた造形方法に関連する内容が多く含まれています。

目次は次のようになっています。

1章 大きな窓ー視覚の科学
    目と脳で見る
    視覚の物理
    目

2章 脳と視覚
    脳
    目から脳へ
    二つの半球
    視覚的認知モデルと脳
    知覚と知識
    目と脳の進化

3章 形の知覚
    ガッツフェルト
    縞
    マッハの帯と側抑制

4章 視覚的認知
    視覚的認知
    基本的携帯
    知覚的体制化

5章 文脈と認知
    モナ・リザを見る
    物理的文脈
    トップダウン処理
    視覚的不協和
    
6章 目の動きと美術
    中心線と目の動き
    もの動きを測る
    脳から目へ、目から脳へ
    走査経路と美術の認知
    専門家の目の動かし方
    中心を見る傾向
    美術作品と目の動き

7章 遠近法
    二次元の目で三次元世界を見る
    奥行きの知覚の原理
    錯覚と恒常性

8章 遠近法と美術の歴史
    遠近法の技法
    先史時代の美術
    エジプト美術
    古代ギリシャとローマの美術
    アジアの美術
    ルネッサンス
    印象派
    現代美術

9章 神経ネットワーク
    具象美術と抽象美術
    標準的表象
    記憶と絵の世界
    コネクショニズム
  
   


西洋では遠近法に代表されるように、絵を科学的に捉えることで発展させてきた歴史があります。

その原理と成立ちの秘密を、脳科学によって分析を試みた内容なのが、目次を見ても分かると思います。

客観的に絵を考える上での手がかりとして、お勧めしたい一冊です。









2020年3月6日金曜日

仮面を描く

今回は。アトリエラポルトに通われて2年半になるH.Mさんの制作過程を紹介します。
Hさんはそれまでは絵を習った経験はなく、片道2時間近くかけて週1回通われてます。
ラポルトでは石膏デッサンからグリザイユの過程を経て、この作品は着彩油彩画の2枚目です。


使用絵具は、三原色としてイエローオーカー、レッドオーカー、ウルトラマリンを使い、白はシルバーホワイト、黒の代わりにバーントアンバーを選びました。

これに制作が進むに從って、カドミウムレッド、ディープマダー、カドミウムイエローを加えていきました。








バーントアンバーで明暗を付けた後、シルバーホワイトで明部を描き起こし、背景から色を置いていきました。









次第にカドミウム系の再度の高い絵具を加えていき、現実のモチーフの色合いに近づけていきます。














仮面のある静物(F6)


モチーフ選びからHさん自身がおこない、それに対して構図や配色の方法をアドバイスをするという形で進めました。

シンプルですが明快な表現の絵に仕上がったと思います。

これにハーフトーンの豊かさが加わるともっと良くなることでしょう。