2015年7月27日月曜日

アトリエの道具と画材 9 「アトリエの照明」


今回はアトリエの照明を紹介します。

デッサンにしろ油絵にしろ、対象を見ながら制作する上で重要なのは「光」です。自然光で描ければ理想的なのですが、教室の置かれている状況では叶いません。そこで照明器具を工夫する必要が生じます。





アトリエラポルトでは、部屋全体を照らす照明としては右のように40Wの蛍光灯を使用しています。

蛍光管は、パナソニック製の美術館用蛍光灯(FL40SN-EDLNU昼光色)です。友人の画家から薦められて使うようになりましたが、演色性が抜群に良いだけではなく、光に温か味があり肌色などが大変綺麗に見えます。その上紫外線カットになっています。

モチーフを照らす光としては、ハロゲンスポットライトを使っています。ハロゲンスポットは照射角が狭く、教室のように小さなスペースにセッティングされたモチーフを照らすには最適です。

光は色温度が3000k程度の電球色のような光ですが、熱線にあたる領域が少なく、赤色がやたらに赤く飛び出して見えるようなことはありません。例えて言えば、モチーフ全体が平均的に赤み(茶色味)を帯びる感じです。

右は以前にも紹介したスパイラル蛍光灯(ジェフコム社製 昼光色)です。
(2013年8月9日 アトリエの画材と道具 3)

移動がしやすく、光量も十分あるのでとても重宝しています。制作スペース全体を照らす明かりとしても、モチーフ用の照明としても使っています。ただ昼光色の光なのですが、先ほどの「美術館用蛍光灯」と比べると冷たい光で、ちょっと見劣りがするのが残念です。

これは人物を描く時のために自作した照明器具。

先のスパイラル蛍光灯の登場で出番がなくなりました。

以上のような照明をそれぞれの制作状況に合わせて使っています。

周囲に光がもれならないように、カーテンやパネルを使って防いでいます。



出来るだけ良い光の条件で、落ち着いて制作できるように心がけています。

2015年7月13日月曜日

サイトサイズで描いてみる


画家を目指して勉強中のK.hさんが、サイトサイズ法でグリザイユを描かれたので紹介します。

サイトサイズ法については、大分前のブログ(2011年7月9日)で説明しましたが、現在アメリカを中心とする「クラシカルペインティングアトリエ」の多くで行なわれているやり方です。


モチーフと画面を平行に並べて一定の距離を置いた地点から見比べながら描いていきます。
初心者でも形や明度の狂いが分かりやすく、見た状況の再現に適した手法です。













上下は水平移動、左右は図って、主要なポイントを取って、直線で結んでいきます。








余談ですが、サイトサイズ法は、立ってキャンバスと鑑賞地点との間を行ったり来たりしながら描くので、かなり体力を消耗します。また、広いスペースを必要としますので、狭いアトリエではやり難い方法です。


線で大まかな形を取った段階です。
西洋のクラシックなデッサンの定義では、線は直線と曲線の2種類から成り、簡潔な言い方をすると、「直線は定規で引いた線、曲線はコンパスで引いた線」となります。


通常の絵のデッサンでは、定規やコンパスを使う事はありませんが、線を引く時にそのような幾何学的な線の意識を持って対象を捉えることで、線分の長短や直線・曲線の組み合わせによって、明瞭で美しい形が生まれるのが実感できると思います。それは、キュビズムなどの抽象絵画にも繋がる重要な造形要素の1つです。

K.hさんは徹底してデッサンを勉強してきただけに、形やボリュームはうまく捉えられていますが、現実の石膏像の白さを出すのに苦労されました。












石膏像グリザイユ P10号



サイトサイズ法で、視覚的に自然な表現に仕上がってます。

例えば髪の毛を近づいて見ると、太めの筆でざっくりと描いていますが、離れてみるとリアルに感じられます。それは鑑賞距離から見て、適切な明度関係と描写の密度を持っているからです。細密描写をすればリアルになる訳ではないのです。

サイトサイズ法は、単に形が取りやすいだけではなく、「絵のリアリティーとは何か?」「自然な空間表現とは何か?」を考える上でも大変有意義な手段だと思います。










2015年7月3日金曜日

基本に戻って

主に旅の思い出をテーマに制作されてきたM.aさんが、今回は基本に戻って石膏像を中心に静物画を描かれました。その制作過程を紹介します。













石膏像は言うまでもなくデッサンがしっかりしていないと絵になりません。そこで今回は画面から距離をおいてモチーフと比較しながら描けるように、アトリエラポルト特製の長い鉛筆ホルダーを使ってデッサンして頂きました。





キャンバスと同じサイズに描いた鉛筆デッサンを転写して、バーントアンバーで明暗を付けていきました。








明暗の配置が決まったら、ダイレクトペインティングの手法で現実に近い色をパレット上で混色して、直接キャンバスに置いていきます。



石膏像のような白いモチーフを描く時のコツは、いったん明部を見た目より明るく(ほとんどシルバーホワイトで)描き起こすように絵具を置いた後、半透明の固有色をかけて色合いを合わせていくことです。この工程を何度か繰り返すと輝くような白さを得ることができます。














キューピット像のある静物 (M8号) 




明暗の関係や形のボリュームが的確に捉えられている為、細密に描写していなくてもリアリティーと存在感のある絵に仕上がっています。絵具の発色も鮮やかです。M.aさん流の筆のタッチが、個性的表現として感じられます。








習作のつもりで描き始められましたが、立派な作品として鑑賞できるレベルになっていると思います。額装してお部屋に飾られるといいですね|