2014年1月29日水曜日

美術解剖学を学ぶ 1 : デッサンに骨を入れる

今回から2回にわけて、美術解剖学の学び方の例を紹介します。

ダ・ヴィンチの手稿より


人物画、特にヌードは、見かけの形だけを追っていても、なかなかうまく描けないものです。そこで必要となるのが美術解剖学の知識です。西洋では、ルネッサンス時代から、画家や彫刻家の間で研究が始まったと言われています。その代表的な例が、レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿に残されています。以来、医学の発達に伴って美術解剖学も進歩して、画家や彫刻家にとって無くてはならない知識となりました。












美術解剖f学は、一般的には骨格と筋肉と脂肪に分けられます。これに血管や表情や人種などが加わると、大変な学問となってしまいますが、絵を描く上での実践的な方法としてよく行われるのが、自分の描いたデッサンに骨や筋肉を入れてみることです。

今回は、それを試みたAさんの例を紹介します。Aさんは、現在某美術大学の通信教育学部に在籍中で、実習面の補足としてアトリエラポルトに来てくれています。











中間色の紙にチャコール鉛筆の白と黒
(制作時間:7.5時間)

右のデッサンは、アトリエラポルトの特別授業として行われた裸婦デッサン会で、Aさんが描いたものです。

まずは、このデッサンに骨格を入れていきました。



















準備として、デッサンが汚れるのを避けるため、原寸大に白黒コピーをします。その上にトレーシングペーパーを置いて骨を描き込みます。

骨格模型と複数の美術解剖学の本を参考に、デッサン上の曖昧なアクセントやプロポーションを修正しながら、骨を入れていきます。

実際に人物を見ると、骨格が直接表われる部分はわずかですが、美術解剖学では、骨格は人体のプロポーションとムーブマンとコンストラクション(構造)を生み出すものと考えます。


また、表から見える鎖骨や腰骨や手足の関節などの骨格の一部は、デッサンを描く時の重要なアクセントになります。

骨を一つずつよく観察すると、微妙なひねりや湾曲があり、本のイラストや写真だけではなかなか理解するのが難しいものです。教室にあるような実寸大の骨格模型があればよいのですが、自宅で勉強される時は、インターネット上で3D表示されるアプリも複数存在するので捜してみるといいと思います。

以前からAさんは美術解剖学を興味をもたれ、本を購入して勉強されていたそうで、大きな狂いもなく骨格を描き込むことができました。

次回は、これに筋肉を加えます。











2014年1月22日水曜日

初めてのデッサン

以前から絵を習いたいと思っていたTさんは、たまたま会社の近くにアトリエ・ラポルトを見つけたそうです。今まで絵を習ったことはなく、描いたこともほとんどなかったとの事で、最初は恐る恐る教室に尋ねていらっしゃいました。

今回紹介するデッサンは、Tさんが初めて描いたデッサンです。

アトリエ・ラポルトでは、初心者の方には、まず遠近法の原理と作画法を説明した後、右のような白い静物(講師の手作りです!)や幾何形体を、遠近法の理論に従って、固定した視点から枠(画面と同じサイズ)を透して描くように薦めています。










Tさんにも、白いモチーフから描きたい物を選んでもらって、講師が配置をアドバイスしながら、初めてのデッサンがスタートしました。

画材は、F10号サイズの画用紙に鉛筆(B2)と練り消しゴムだけです。

鉛筆デッサン 


約20時間かけて仕上げました。初心者には、とにかく多くの枚数を描くように指導する教室が多いと思いますが、アトリエ・ラポルトでは、「描き方」や「見方」を説明しながら、1枚をじっくりと描いてもらっています。その方が私たちの経験から言って、結果的に上達が早いからです。西洋のアカデミーでも、1枚のデッサンをかなりの時間をかけて描かせていたと伝えられています。

Tさんは、仕事で建築図面を描いているだけあって、初めてのデッサンとは思えないほど、丁寧に形を表現することができました。時間はかかっても、この位描けると描き手の満足度も高いと思います。まずは、「順調な滑り出し」というところではないでしょうか。




2014年1月16日木曜日

静物デッサンを描く

アトリエラポルトに入られてから、石膏デッサンだけを描いてこられたKさんでしたが、今回は始めて静物デッサンにチャレンジしました。
静物と石膏像のデッサンの大きな違いは、「対象を構成(配置)する」という要素が加わる点です。すでに美しく造形され、木炭紙のサイズに入れやすいようにカットされた彫刻と違い、多様な形の静物を、紙の長方形にいかに配置するかが、静物デッサンの重要なポイントです。

Kさんにとっては、初めての静物デッサンだったので、基本的な三角形の構成になるようにアドバイスしました。
また、静物デッサンでは固有色の明度表現が必要になるため、教室では中間色の紙にチャコール鉛筆の白と黒を使って描くように勧めています。そうすることで、中間色の地を基準として、明るいか暗いかがはっきりと定められるからです。(中間色に明暗で描くデッサンについては、昨年の12月4日のブログを参照)
まずは、暗い方から描いた後、明るい部分を白で描いていきます。チャコールが浮いてきたら、擦筆やセーム皮で紙に馴染ませます。

現象的な明暗に惑わされず、形とボリュームを追っていく事が肝心です。そのためには、ハイライトに向かってモデリングをするとよいでしょう。


ミタント紙(キャンソン社製)にチャコール鉛筆
(550×380)
白と黒のチャコール鉛筆だけですが、個々の静物の色合いまで感じさせるようなデッサンになりました。それは、的確に明暗(Valeur)が捉えられている証拠です。個々の形の特徴もよく表現されていると思います。構図は、典型的なピラミッド構図ですが、いささか単調で広がりのない印象を与えます。補助に逆三角形の方向性を組み合わせるなど、画面構成の工夫が今後の課題と言えるでしょう。

黒田重太郎著「洋画鑑賞十二講」より


2014年1月8日水曜日

模写から学ぶ(5) : ジョージ・ロムニー

顔の彩色に入ります。

まず、レッドオーカーとシルバーホワイトを混色して、実際の明度より暗めに下色を塗ります。

肌全体に下色が塗れた状態です。グリザイユが透けて明暗の効果が表れるようにします。

明部をバーミリオンとシルバーホワイトで、ハイライトに向かって、ボリュームがでるように描き起こしていきます。


ハイライトは、シルバーホワイトに微量のネープルスイエローで、頬や唇の赤みは、マダーレーキ加えて描いていきました。

仕上げに、光から影への移行部に、ウルトラマリンを軽くグラッシしました。













髪の毛は、ヴァンダイクブラウンをベースに、レッドオーカーとイエローオーカーで色を合わせました。



背景の葉の固まりは、意外に難しい所です。筆の形状や大きさを合わせて、筆触の方向を考えて置いていきます。使った絵具は、カッセルアース、イエローオーカー、レッドオーカー、ランプブラックです。

原画は、短時間で一気に仕上げていますが、模写では、その勢いの感じを出すのに苦労しました。













ジョージ・ロムニー作 「エマ・ハミルトンの肖像」の模写
(720×600)
週3回(7.5時間)で、約半年かかって完成しました。
写真からの模写で、教える側には不安がありましたが、幸い解像度の非常に高い画像や資料が手に入った上に、Eさんの熱意も加わって、素晴らしい模写の勉強ができました。それは、単に参考写真にそっくりになったからというのではなく、画家ロムニーの形態の捉え方や筆触、絵具の厚みや透明と不透明の使い分け、色合いの変化など多くのことを学べたと思えるからです。いつの日かニューヨークで原画に再会した時、それらのことを確認してみるとよいでしょう。きっと以前見た時とは、比べられないほどの感動を味わえることでしょう。それは絵を描く(または見る)本質的な喜びの一つだと思います。