2023年12月28日木曜日

額の修復 2

 前回に引き続き額の修復課程です。

ゴールドフィンガーで塗った金色が輝き過ぎるので、周囲に合わせてグラファイトの粉末で古色をつけました。



やはり指につけて金色の上から擦りつけます。




出来上がりです。




絵を入れるにあたって、修復前は額に絵が直接紙テープで付けてあったので、新たに泥足を作りました。



泥足をつけた額に絵を入れた状態です。



泥足のサイズに合わせた裏蓋も作りました。


裏蓋には通気のために穴を開けてあります。

 

これでこの絵のすべての修復作業が終わりました。



しばらくの間アトリエラポルトの教室に掛けて皆様に見て頂きたいと思います。
近くにお越しの際はお立ち寄りください。
*公開期間 2024年1月10日〜31日 水曜日〜日曜日の13:30〜16:30



2023年12月22日金曜日

額の修復 1

 今回は前回修復をした絵が入っていた額の修復について紹介します。
おそらく絵の描かれた1850年頃からかなり経って、最初の修復が行われた時に付けられた額だと思います。それでも十分にアンティーク額と言えるもので、ロココスタイルの装飾が美しく絵にとても合っています。

しかし残念な事に、コーナーの装飾が1箇所欠損していました。


欠損箇所の再生にはエポキシパテを使いました。
エポキシパテは大変優れたパテで、欠損部分によく着いて乾燥後は丈夫で収縮やひび割れもおこりません。
容器に入った棒状のパテを、必要な量に切って練ると硬化が始まります。


硬化するまでの5分~10分の間に成形します。
硬化後に削ることを考えて少し大きめに作りました。



硬化してからルーターで周囲のレリーフに合わせて彫っていきます。



金色を塗る前の下色として、アシェット(箔下とのこ)に似た色のアクリルガッシュを塗ります。




この上からラウニー社製のゴールドフィンガーを使って金色にします。
ゴールドフィンガーは6色ほど発売されていますが、今回はその中からアンティークゴールドを選びました。



ゴールドフィンガーは文字通り指で塗ります。




塗り終わったところです。


つづく。

2023年12月11日月曜日

19世紀の肖像画の修復 4

 ニスの除去と補筆が終わりました。



修復の最終作業のニス引きです。
今回はターレンス社製のリタッチングバニッシュを塗って様子を見ることにしました。





修復終了です。

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絵を描く立場と修復をする立場は、まったく逆と考えている方も多いと思います。
ところが実際に修復を経験してみると重なる部分が意外に多いことを感じます。

絵を描く技法上のさまざまな問題を実感できますし、表現上のマチエールの効果やデリケートな色彩の変化など、修復を通して発見することがよくあります。作家の工夫や力量を目の当たりにする思いです。

修復は絵の理解に役立つ勉強方法の一つであるという考えから、アトリエラポルトではできるだけ修復作業を受講生の方に見て頂いてます。



2023年12月3日日曜日

19世紀の肖像画の修復 3

補筆(La retouche)に入ります。
ニスを取ると欠損箇所やヒビ割れが目立ったり、過去におこなわれたリタッチが取れたりします。それらの箇所を修復用の絵具で周囲の色に合わせるように補筆します。

補筆の際には必ず次のことを守らなくてはいけません。
・いつでも原画を傷める事なく除去できる絵具を使う。
・オリジナルの絵具に、はみ出さないようにする。


絵具層が基底材から剥がれ落ちてる場合は、パテで欠損部分を埋めて絵具層の高さに合わせてから補筆しますが、今回の絵ではそのような箇所は過去の修復で直してあり、擦れやヒビ割れで絵具が取れた箇所だけを直接補筆して目立たなくしました。

補筆による色合わせは、最初に水彩絵具でおこないます。



3原色に白(定着を高めるためにアクリルガッシュの白を少量使う)を加えて、明るめに下色を作ります。



補筆箇所

水彩絵具で下色を塗ったところ。


この上に修復用の絵具(マイメリ社のレスタウロ)で周囲の色と合わせます。
レスタウロ絵具(Restauro)はアルコールで溶かしたパラロイドを溶剤とする樹脂絵具で、油絵具と同じようなツヤと透明感を再現できます。色数も豊富でオリジナルの絵具に近い色を混色して合わせていきます。


髪の部分の補筆が終わったところ。


続いてひび割れの補筆です。


補筆前

補筆後

最後に溶剤では取れなかった筆触の凹みに溜まって黒くなったニスを、特殊な針で掻き取りました。


つづく


2023年11月28日火曜日

19世紀の肖像画の修復 2

 前回に引き続き19世紀の肖像画の修復過程です。

選択した溶剤で隅の方から慎重に黄変したニスを取っていきます。


暗い背景や影の部分はどこまでがニスの汚れで、どこまでがオリジナルの絵具の色かの判別が非常に難しいところです。ヘタをするとオリジナルの絵具を取りかねません。
古いニスを完全に取り除こうとせずに、全体のバランスを考えながら黄ばんだ感じがなくなる程度に留めました。



明るい部分も要注意です。科学的な検査機械を持っていない私たちは、グレーズ(Glaze)の色かニスの黄変かの正確な判断は不可能に近いです。とにかく取りすぎないように(綺麗にしすぎないように)進めていきました。



周囲から徐々に進めていって、いよいよ中心の顔に入ります。



顔の下半分まで進んだ状態です。桃色の肌が現れました。



溶剤による古いニスの除去が終わったところです。全体的に7割程度取った感じですが、黄ばみが薄くなり西洋人の肌の色が甦りました。




次回は補筆の過程をお伝えします。


2023年11月22日水曜日

19世紀の肖像画の修復 1

 今回はアトリエラポルトでおこなわれた絵の修復を数回に分けて紹介します。

絵は1850年頃に描かれたと推測できるもので、作者は不明ですが額の裏の書き込みやシールからイギリスで制作されたようです。





額を外して調べてみると、過去の修復によって裏打ちされている上に、切り取られていたことがわかりました。




画面は全体的にニスの経年変化で黄変し、背景にビチュームの使用によると考えられるひび割れがあります。



過去の修復による補筆の痕も見受けられます。



幸い裏打ちはしっかりしていて、現状における絵具層の浮きや剥離はありません。

そこで今回は次の修復作業をおこなうことにしました。
・黄変した古いニスを除去して、新しいニスを塗る。
・欠損箇所と目立つヒビを補筆により目立たなくする。

ニスの除去は、どのような溶剤でおこなうかの選択が最も重要で難しいところです。
4〜5種類の溶剤を弱い順に組み合わせて、ニスの反応をみます。
結果、この絵にはキシレンとジメチルホルムアミドの混合液を使うことにしました。


つづく。