2017年9月8日金曜日

初めての寒暖の効果を使ったグリザイユ

今回はデッサンの延長線上としてのグリザイユに、寒暖の効果を加えた制作を紹介します。
描き手のO.yさんは、アトリエラポルトに入る前までは絵を学ばれた経験はなく、カリキュラムに沿って幾何形体のデッサンから一歩ずつ進まれてきました。グリザイユは、今回が2作目です。


まずはキャンバスのサイズと同じ画用紙にデッサンをしました。練習の過程においては、存在する形を正確に描くことが基本です。絵具を使うとその点が疎かになりがちです。アトリエラポルトでは、できるだけきっちりとデッサンをした後、それをトレーシングペーパーでキャンバスに転写するように薦めています。

メジチ像(画用紙に鉛筆 F10号サイズ)


左側がブルーブラック、右側がアイボリーブラック



寒暖の効果を取り入れたグリザイユは、このブログで何度か取り上げた方法ですが、この作品では初めての方にやり易い絵具を選択しています。


使用絵具
シルバーホワイト
アイボリーブラック
ブルーブラック(ニュートン社)



最初に背景と石膏像の影をブルーブラックとシルバーホワイトで描いていきます。
石膏像の明部はアイボリーブラックとシルバーホワイトで描き起こします。

全体に明暗と寒暖の割り振りできたら、各部分のボリュームとその置かれている前後関係に従って、暖かいグレーと冷たいグレーを使い分けて表していきました。


メジチ石膏像のグリザイユ(P12号)

週1回1コマ(2.5時間)の受講で、デッサンから始めて約半年かけて仕上がりました。
油絵具を使っての2作目なので、まだ扱いに不慣れなところがありますが、急がず時間をかけて今の力を出し切った作品になっていると思います。

寒暖の効果を使ったグリザイユは、一種類の黒だけを使ったものより空間や光の表現の幅が広がります。また、デリケートな色合いの変化に対する感覚が磨かれて、それは多色で描く時にも生かせる色彩効果の基となることでしょう。

2017年8月26日土曜日

布のデッサン

今回は布を描いたデッサンを紹介します。


布だけをモチーフにしてデッサンをすることは、日本ではほとんど行われる事がありませんが、西洋では意外に古くからそのような作例が残されています。













その代表的な例が右のダ・ヴィンチ(Leonardo da Vinci 1452-1519)のデッサンです。

このように人物画を描くためには服の皺の表現は重要で、布皺をデッサンすることでその法則や捉え方を練習することができます。





アトリエラポルトでは、独自に木綿の布を木工用ボンドを薄めた溶液で固めた布モチーフを作りました。


今回はイラストレーターのC.eさんがこれに初チャレンジしました。










布のデッサン (木炭紙大の画用紙に鉛筆) 



大変美しいデッサンに仕上がりました。布の厚みや柔らか、そこに当たる光の輝きも感じさせます。それは、的確な形のモデリングと明暗の配置、丁寧なハッチングによるパッサージュのデリケートな表現によります。一見リアルなデッサンに感じますが、写真と異なる絵画的な配慮の行き届いた作品になっていると思います。



2017年8月8日火曜日

アトリエの道具と画材 14 特注の筆

今回はアトリエラポルトで筆職人の方に特注して作って頂いた筆を紹介します。


古典絵画の人物の肌などの滑らかなモデリングは魅力的な上に神秘的なものです。

そこでいろいろな地塗りを試みたり、溶剤の配合を考えたり、筆触や絵具の盛り上がりをファンでぼかしたりと工夫されている方も多いと思います。

この度アトリエラポルトで作った筆は、そのような効果を得るために使われていた筆の一種です。昔の技法書や画材カタログには載っているのですが、現在日本では作られていない筆を再現したものです。




右の絵はダヴィッド(Jacques-Louis David 1748-1825)作の「レカミエ夫人」の部分ですが、未完成のため背景や腕などに筆触が残っています。それを見ると筆を押し付けたような点状のタッチなのが分かります。
これは今の一般的な毛先がまとまる筆では出し難いタッチです。












これが特注して作って頂いた筆ですが、逆に毛先がぼさぼさで垂直に立てて押すと開くようになってます。「引いて描く」のではなく「押して描く」「叩くように描く」筆なのです。














この筆を使い「押すように、叩くように」絵具を置いていくと、下地にしっかりと絵具が着く上に、塗り重ねながら滑らかなモデリングやぼかしの効果を得ることができます。その結果、抵抗感のあるしっかりしたマチエールと美しい発色が可能になります。




右は、明治時代の初期(10年頃)に作られた日本で最初の洋画材カタログの一部です。(絵具問屋村田宗清:2012年2月15日のブログ参照)
興味深い事にここに「打筆」という名前で同様の目的の筆が載っています。(多分イギリスからの輸入品だったのではないかと思います。)













今回作るにあたって参考にしたのはフランスのマネ社の筆です。昔と同じように軸受がひもで作られています。


試作品1


余談ですが、この筆が完成するまで約1年。試作を繰り返し職人さんが匙を投げかける寸前で出来上がりました。

試作品1:
見た目は良いが、押しても思うように毛が開かない。






試作品2

試作品2:
広がりやすくと思い先端を平らにしたら、かえって開かなくなってしまった。

試作品3

試作品3:
毛が偏らずに広がるようにと毛足を短くしたが効果なし。




結局油絵の歴史が浅く、過去に作ったり使ったりした経験がない物を作るのがいかに大変かが分かりました。






*現在この筆はアトリエラポルトの1階のさとうストアで販売中です。
10号:1,263円,12号:1,474円,16号:1,895円,(税込み)
3種類のみで、数に限りがありますので売り切れの際はご容赦下さい。




2017年7月23日日曜日

アトリエの道具と画材 13 美術解剖像

今回は美術解剖学を学ぶ上で参考になる全身像の模型を紹介します。


美術用の人体解剖像(エコルシェ:Ecorche)として西洋で良く知られているのが、ウードン(Jean-Antoine Houdon.1741‐1828)作のこの像です。その石膏によるレプリカは、昔のフランスの美術学校には必ず置かれていもののようです。

現代のように映像技術が発達していなかった時代には、立体的に筋肉の構造を学べる貴重な石膏像だったと思います。

残念ながら今の日本では入手することは困難です。


そこで、アトリエラポルトでは次のようなエコルシェを使っています。










これはクードロン(Jacque Eugene Coudron.1818-1865) が作った原型を、岡石膏が石膏像にしたものです。高さは68㎝で彫りが良く再現されています。















ただプロポーションが西洋人男性で、しかもかなり理想化されているので、実際のモデルさん(特に女性)と比べると違和感があるのも事実です。
















そこで最近ネットで購入したエコルシェがこれです。

樹脂製で高さが27㎝と小さいのですが、非常に正確な上、現実のモデルさんに近い自然なプロポーションで作られています。














画家にというより、フィギュアやCGの作家の為に販売されているようです。男性像もあるのですが、体形がマッチョ過ぎてお勧めできません。


理想は、これで関節が動けば言うことないのですが・・・








2017年7月2日日曜日

絵になる風景を求めて



前回に引き続き風景画の作品を紹介します。

今回の制作者Y.kさんは、絵の題材を求めてよく旅行をされています。紹介する3点とも現地でデッサンや水彩スケッチをしてきたものに、教室では写真資料を加えて制作しました。  



運河沿いの風景 (P15号)




富山県射水市の運河沿いの風景。奥には立山連峰が広がります。JRの広告でこの場所を知り、取材に出かけられました。









「日本のベニス」とも称される美しく落ち着いた風景は、確かに絵心を誘われる題材です。

制作にあたっては、家並みの暖かな色と運河や山並みの冷たい色とのコントラストと組み合わせについてアドバイスしました。






棚田のある風景(P15号)



山梨県南アルプス市から富士山を望んだ風景です。以前から棚田を描きたいと探されていて、東京から日帰りで行けるこの場所を見つけられました。




秋の日差しに輝く稲穂の表現が、制作上の大きな課題です。そこで中景の林をまとめて暗い形として扱い、中景から前景にかけての影の暗さと配置を工夫するようにアドバイスしました。





雪景色 (P20号)



新潟県越後川口から信濃川の雪景色を描いた作品です。遠くに見える山は八海山です。

冬の日の晴れ間を狙って出かけられ、車で片道5時間の日帰りの取材だったそうです。そのバイタリティーに驚くばかりです。

教室では大気遠近法による空間表現をテーマに制作されました。最初に、複数の青色とブルーブラックとシルバーホワイトでグリザイユのように描いてから、反対色の黄色や赤色を加えて仕上げていきました。

Y.kさんは会社を退職後から本格的に絵を学ばれた80代の男性です。アトリエラポルトの最初の受講生で、今では支援者とも言える存在です。すでに多くの作品を制作して発表されています。教室では、制作の方向づけをアドバイスする程度ですが、毎回新しいモチーフと技法に積極的に挑まれ、教える側も良い刺激を頂いてます。


2017年6月2日金曜日

旅と風景画

今回は、旅の思い出を絵にされたK.kさんの作品を紹介します。
K.kさんはご子息が海外に住まわれていることもあり、よく海外旅行をされるそうです。

2点の作品とも現地で撮った写真を使って教室で描かれたものですが、遠近法や配置、明暗や色の組み合わせの修正・整理を行い、より明瞭な表現になるようアドバイスいたしました。その過程を含めてご覧下さい。


1枚目はスイスのユングフラウ地方の町ヴェンゲンの風景です。

描きだしは、褐色で影も含めた暗い形を探していきました。その後遠い所から明度と色を決めていきました。

中景では、青の領域と緑の領域の組み合わせとバランスを考えながら、強調と削除をしました。

第3の色となる建物の赤が加わることで、より色彩的になりました。











ヴェンゲン(P15号)



2枚目は、イングランドの湖水地方ウェンダミアの街角の情景です。

写真の歪みを遠近法の理論によって、修正してデッサンしました。













影から描き始めました。
影も画面上では「暗い形」と捉え、その形状と配置を考えながら描き進めます。
















イングランドの空気感をイメージしたグレーで全体を統一して、アクセントに赤い日よけや通行人の服の青などを加えました。



ウェンダミアの街角(F6号)

どちらの作品も、個人的思い出の記録という域を越えて「絵画作品」として鑑賞できるレベルに仕上がっています。額装して飾られたら、素敵なお部屋になると思います。


2017年5月21日日曜日

暖色と寒色によるグリザイユ 2

3月22日のブログで紹介したH.mさんによる「暖色と寒色によるグリザイユ」が出来上がりました。
(このグリザイユの手法については、その時のブログをご覧ください。)









面冠女神像
「暖色と寒色によるグリザイユ」 (P15号)


仕事の合間を縫って制作だったので時間がかかりましたが、この手法の目的と効果がよく表れた作品になりました。
画像では分かりにくいのですが、一見グレーのモノトーンに感じますが、背景に対して石膏は暖かく、その石膏像の明部は暗部(影)より暖かく、明部の中も手前になるほど暖かくなるように描かれています。
結果として単色のグリザイユより、自然な空間とボリューム、輝やくような光を感じさせることに成功していると思います。


このように明暗(光と影)を寒暖で置き換える見方は、色を使った時にも応用できます。

例えば裸婦を描く場合、決めた肌色の明度だけの変化では単調で生気のない人体になってしまいます。寒暖を意図的に使い分けることで、自然で輝くような肌の表現が可能になります。ルーベンス(1577~1640)はこの寒暖の微妙な変化を色相に置き換えることで、同時代では例を見ない、明るく光り輝くような革新的な裸体表現を行いました。 それは後に、ヴァトーによってフランス・ロココ時代の色彩表現に引き継がれ、さらに後の印象派の礎を作ったとも言えるでしょう。


明暗と色彩の関係は、絵画表現の要と言える問題です。さまざまな考え方や捉え方、そして教え方があります。今回の「寒色と暖色によるグリザイユ」は、明暗をベースに置くリアルな表現から、色の効果について考えてみる、良い方法の1つだとアトリエラポルトでは考えています。