2019年8月27日火曜日

全身の石膏像

今回は、アトリエラポルトで購入した全身の石膏像を紹介します。

日本では石膏デッサンが美大受験の課題として広まったせいか、石膏像と言うと胸像か首像ほとんどで、全身像を描く機会はあまりありません。




ラファエル・コラン作(60.6×46.2)
パリ国立美術学校所蔵
*余談ですが右上に評価が「C」と記されてます。
当時のレベルの高さを感じます




ところが、パリの美術学校に残されている19世紀の石膏デッサンの多くは全身像(おそらく等身大の像)を描いたものです。



















作者不明(1880年代)610×410
(アトリエラポルト所蔵)

人体が、デッサン教育の中心だった当時を考えると、生のモデルを描く前段階として、全身の石膏像を描くのは理にかなった過程だと思います。

アトリエラポルトでもこれに倣って、全身の石膏像を新たに購入して「人物デッサン講習会」の練習として使ってます。














デェオニソス像(高さ64㎝)・堀石膏製
原型はポンペイで発見されたローマ時代の作品























ファルコネ作ヴィーナス像(高さ85㎝)・堀石膏製
原型はロココ時代(18世紀)のフランスの彫刻家ファルコネの作品






















サタイア像(高さ62㎝)・堀石膏製
原型は古代ギリシャのヘレニズム期の作品をローマ時代に模刻したもの





















これらの像は、それぞれの作者と各時代の美の規範に従って、理想化された人体の形に作られています。現実のモデルさんとは異なる点も多々ありますが、その分個々の形が明瞭で解剖学的にも理解しやすく、ポーズ時間を気にすることなく美しい人体の形を学ぶことができます。
できれば、等身大の石膏像が欲しいところですが、日本では種類が少ない上に教室の狭いスペースでは設置できないのが残念です。

*参考文献:「石膏像図鑑」 脇本壮二著
      「石膏デッサンの100年」 荒木慎也著 



2019年8月2日金曜日

風景スケッチから作品へ

今回は風景画の制作方法の一例を紹介します。

写生に基づいた風景画は、できれば現場ですべて仕上げるのが理想です。
しかし現実には天気の変化や太陽光の移動により、良い条件で制作できるのはせいぜい1日2~3時間位です。大きめの作品になると、何日も滞在して現場に通わなければなりません。

そこで昔からよく行われてきた方法に、現場で小さいサイズのスケッチをして、それをもとにアトリエで再構成しながら大きな絵を仕上げる「ペイザージュ・コンポーゼ( Paysage Composé)」があります。コロー(Jean‐Baptiste Camille Corot 1796~1875)の作品などにその良い例を見ることができます。
今回の制作者のY.Kさんには、この方法を応用して描いて頂きました。

取材場所は長野県安曇野で、田植え前の水をはった「鏡田」がテーマです。

現場での油彩スケッチでは、主に遠近に即した明暗と色合いの変化を捉えること、そして何よりその「実感」を記憶に留めるつもりで描くことが大切です。





半日で1枚のペースで4~5枚の油彩スケッチを描いた中から、教室で制作出来そうな作品を選びました。










P15号のキャンバスに、構図や明暗の組み合わせを考えながらスケッチを再構成します。

特に、雄大な風景の奥行きを表すには大気遠近法の理論が役に立ちます。

参考文献
Valenciennes:Elements de perspective pratique.
L.Cloquet:Perspective pittoresque.











細かい形や描き込みは、写真で補いながら制作しました。

















常にスケッチから現場を思い起こして描き進めていくことが大切です。

















安曇野 P15号 キャンバスに油彩



約25時間かけて完成となりました。
教室での制作時間が長くなるほど写真に引きずられがちになりましたが、現場でのスケッチが「写真の模写」になるのを防いで、目で見た印象に近い「実感」のある風景画になったと思います。

ただスケッチが風景全体を捉える事を優先した為に、テーマの「鏡田」が取材不足で苦労されました。

このような経験を繰り返して、自分なりの制作スタイルを確立していって頂ければと思います。