2015年5月29日金曜日

CGクリエーターの石膏デッサン 2


前回に引き続き、CGクリエーターのU.tさんの石膏デッサンを紹介します。

石膏像は、胸像としては難度の高い「面冠女神像」です。

今回は、右のように石膏像の手前に錘を付けた糸を垂らしました。これを中心軸として、各部分を測っていきます。


照明は、影の面積小さくなるように、やや正面寄りに配置して、形のモデリングに重点を置いたセッティングにしました。

全体の構造から部分のボリュームや前後関係まで、細心の注意を払って描き進めました。



















石膏デッサン 「面冠女神像」 画用紙に鉛筆(650×500)




前回と同様に大変レベルの高い石膏デッサンになったと思います。

単に対象を引き写すのではなく、不要なものを取り除き、実存する形をより明確に表すそうとするデッサンになっています。このようなデッサンに対する姿勢は、セザンヌ以降の抽象化へ進んだ絵画表現にも通じるものがあります。





より一層洗練していくことで、新たな創作のヒントになって頂ければと思います。

2015年5月21日木曜日

CGクリエーターの石膏デッサン 1


CGクリエーターとしてご活躍のU.tさんは、アトリエラポルトで「手で描く」デッサンを学ばれています。

学生時代に描いたデッサンを拝見すると、すでに描写力は申し分なかったので、教室では主に「見方、捉え方」についてアドバイスをしています。

アトリエラポルトに入られてから2枚目の石膏デッサンに選ばれたのは、フェルギエール作(Alexandre Falguiere,1831~1900)のダイアナ胸像です。その制作過程を紹介します。

バルグの手本集より











すでに専門的にデッサンを学ばれた経験のあるU.tさんには、教室で使っている参考書の中でも、特にシャルル・バルグの手本集(Charles Bargue“Cours de dessin”) の手順に従って描いて頂きました。それは、「現象的な光と影」を再現するのではなく、「実存する形を描く」という西洋のアカデミックなデッサンの方法論が明確に示されているからです。


線で形を取り、明部と暗部の境を決定した後、現実の明暗を利用しながらモデリングをしていきました。石膏の白さを保ちながらモデリングするには、暗部の配置や明部のモデリングに造形的配慮が必要ことを説明しながらの制作となりました。
















石膏デッサン 「ダイアナ」  画用紙(650×500)に鉛筆




大変素晴らしい石膏デッサンになったと思います。

ダイアナ像は、一見描き易そうに見えますが、実際に描いてみると形や表情が非常に取りにくい石膏像です。この位きっちりデッサンができたら大したものです。しかも美しい作品に仕上がっています。

アトリエラポルトでは、できるだけシステマチックな指導を心がけていますが、石膏デッサン1つ取っても描く人の個性が表れて、逆に勉強させて頂いている思いがします。





次回は、やはりU.tさんの描いた「面冠女神像」を紹介します。






2015年5月10日日曜日

新印象派の点描画法を試みる

昨年12月7日のブログで佃島の風景のグリザイユによる制作を紹介したE.fさんが、今回はそのグリザイユからスーラやシニャックなどの新印象派が行なった点描画法を試みて頂きました。


点描画法(Pointillism) の目的をシニャックは著書(D'Eugene Delacroix au neo-impressionnisme. 1899) の中で、「可能な限りの輝きを色によって与える」 とし、その手段として、

1、印象派と同じパレット(スペクトルと類似した絵具の使用)
2、光の混色(網膜上での加法混合)
3、分割したタッチ(点描)
4、体系的で科学的な技法

と書いています。






新印象派の創始者スーラは、当時の最先端の科学や美学を取りえれて印象派のさまざまな目的を統合しようと試みました。中でもルードの色彩理論(O.N.Rood,Modern Chromatics.1879) は、その技法を知る上で重要です。


右がルードの色環ですが、ここで注目したいのが中心に向かって白くなっている点です。これはルードの色彩理論が光の混色(加法混色)を前提にしているからです。現在日本で広く使われているマンセルの色彩理論が絵具の混色(減法混色)を基に考えられているのと大きく違うところです。マンセルでは、白を加えると彩度が下がる(鈍くなる)と考えますが、ルードでは光に近づく(輝度が上がる)と考えます。印象派の絵が白を大量に混ぜてハイトーンになっていったことが理解できます。


右はスーラのパレットですが、ルードの色環通りに絵具を並べているのが分かります。











グリザイユ

さて、E.f.さんの制作ですが、グリザイユの明暗の諧調を保ちながら、現実の色合いに近いスペクトルの点で置き換えていきました。



色合いが単調にならないように反対色の点を並置しながら描いていくのがコツです。


佃島風景  (M4号)



点描画法は絵具の準備から始めて、一つ一つ点を置いていく、とても根気のいる技法です。

試行錯誤しながらの制作でしたが、点描画法の特徴が良くでた作品になったと思います。


点描画法の画家達は、この手法がパレットで混ぜた絵具より、生気のある輝かしい光の効果を生むと信じていました。しかし実際に試みてみると、現実に近づけようと点を細かくすればするほど冴えない絵になっていき、逆に色彩的効果を出そうと点を大きくすると現実離れするという問題に突き当たります。新印象派の技法が長く続かなかったのはこの点にあると思います。しかし、19世紀末から始まるフォービズムなどの色彩の革新的表現を理解する上で、新印象派の理論と技法を学ぶのは大変有意義な事だと考えています。