2019年6月17日月曜日

寒暖のニュアンスを加えたグリザイユ

今回は、グリザイユのエチュードの方法について紹介します。
(制作は、アトリエラポルト3年目のY.mさんです。)

グリザイユ(Grisaille)は、その名の通り灰色または灰色系の絵具で描かれた単色画を指しますが、そこに「暖か味」や「冷た味」と言った若干の色合いの変化を加えることで、単純なモノクロームのグリザイユより、より自然な光の輝きや空間やボリュームを感じさせることができます。

アンリ・バルツは「デッサンの文法」という著書の中で、これを「ニュアンスのシンホニー」と名付けています。
(Grammaire de dessin, Henry BALTH 1928 )

例えば、次の2点のグリザイユは、最初がモノクロームのグリザイユで、次が寒暖のニュアンスを加えたグリザイユです。(画像での正確な再現ができないのが残念ですが)




モノクロームのグリザイユ








寒暖のニュアンスを加えたグリザイユ








寒暖のニュアンスを使って描いたグリザイユは、暖色が前進色、寒色が後退色という色の生理的作用に準じて、背景は冷ためのグレー、テーブルは手前に来るほど暖かめのグレーに、モチーフの明部は暖かめのグレーに、影は冷ためで反射光は暖めに、落ちる影は冷ためのグレーにしてます。単純なモノクロームのグリザイユより、豊かな表現になっていると思います。ただし、寒暖の関係が対象の前後関係やボリュームと合っていないと、どんなに明暗が正確でも不自然で気持ち悪い印象を与えてしまします。初心者がよく「粉っぽい」とか「顔色が悪い」絵になる原因の一つがここにあります。

次の絵は、「寒暖のニュアンス」を応用して、固有色の再現を含めて白い石膏の球体を描いたものです。その効果が、よりはっきりと表れていると思います。






















このような固有色に対する寒暖のニュアンスの幅の扱いには個人差があり、それが作品の表現に大きな影響を与えます。例えば、ドラクロワは人体や衣服などのハイライトから影の最暗部に至るモデリングの中に、驚くほど大胆な寒暖(色相)の変化をつけています。その反対に、アングルは意識して見ないと気付かないほど微妙に変化をつけています。



左の画像は、アングルが美術学校時代に描いた習作の部分です。当時のアカデミーの規範に従って、肌色に寒暖のニュアンスを加えてモデリングされているのが分かります。

アトリエラポルトでは、寒暖のニュアンスを加えたグリザイユは、このような感覚を磨くのにとても良い方法だと考えています。


2019年6月10日月曜日

本の紹介 「配色の教科書」 色彩文化研究会著

 今回紹介する本は、城一夫監修、色彩文化研究会著の「配色の教科書、歴史上の学者・アーティストに学ぶ美しい配色のしくみ」です。

現在、色に関する本たくさん出版されていますが、この本の画期的なところは、西洋絵画の変遷に大きな影響を与えた色彩理論を歴史を追って説明している点です。目次を見ていくと次のようになってます。


目次1. 調和論の萌芽(アリストテレスの色彩調和論  ダ・ヴィンチの色彩調和論)


目次2.色彩調和論の歴史 (色彩調和論誕生ーニュートンの色彩調和論ほか)


目次3.絵画と色彩調和 (ドラクロワの色彩 ターナーの色彩ほか)






目次4.PCCS(日本色研配色体系)と慣用的配色技法(配色の基本的な考え方ほか)




目次5.歴史を刻んだカラーデザイン(景観の色彩調和 建築の色彩調和ほか)




現代の画家は色彩を個人的な感覚の表われと考えがちですが、この本を読むと、西洋の絵画史の中では各時代の色彩理論(科学的発展の歴史)と深く結びついていたのが分かります。たとえば、印象派の明るく輝くような色彩は、ニュートン光学やシュヴルールの同時対比理論があったからこそ可能になった表現です。ただ単に自然を見て描いただけでは生まれなかったでしょう。そのような歴史的事実を知るのは、絵を見たり描いたりする上で必要な事だと思います。




2019年6月2日日曜日

デッサンと油絵

今回は、デッサンとそれを基にした油絵作品を並べて紹介します。

アトリエラポルトでは、油絵の制作にあたっても、キャンバスと同じサイズの画用紙に構図を考えながらデッサンした上で、それをキャンバスに転写する方法を薦めています。

作者のK.yさんは、常にこの過程を守って制作されています。







「寺院 」P10号






「アイロン」 F6号




「ねこの置物」 サムホール






「ホオズキ」F6号

このようなやり方は、テンペラ画やフレスコ画では今でもおこなわれていますが、油絵の制作では一般的ではなくなっていると思います。しかし、アトリエラポルトでは油絵の制作においても、デッサンがおろそかにならないように、このプロセスを踏んで制作を行うようにしています。また、デッサンと油絵の関係を考える上でも良い方法だと思います。