2022年6月19日日曜日

三原色による色見本を作る

 今回は香港からの留学生のAさんが作った三原色による色見本を紹介します。


アトリエラポルトでは、グリザイユから色を再現する油絵への移行過程として、最初に彩度の低い三原色(イエローオーカー、レッドオーカー、コバルトブルー)を使って描く事を勧めています。発色は鈍くなりますが、その代わりに明度が捉えやすく、統一感のある絵にしやすいからです。理論上は三原色の混色によってすべての色相が出せるはずですが、実際に絵具ではどのようになるかを知るためにAさんが色見本を作ってくれました。


まずは、赤(ライトレッド)と青(コバルトブルー)の混色です。明るくするには白(シルバーホワイト)、暗くするには(アイボリーブラック)を加えいます。ここで面白いのが、理論上は混色で紫になるはずが、中間がほぼニュートラルグレーになることです。絵具の特徴的な変化ですが、これをうまく利用するとライトレッドとコバルトブルーで寒暖のニュアンスの豊かなグリザイユを描く事が可能になります。


次は黄(イエローオーカー)と青(コバルトブルー)で同じく白と黒で明度の段階を作りまましたが、ここでも油絵具独特の変化が生じます。イエローオーカーのグラデーションを作るために黒(ここではアイボリーブラック)を加えると色相が緑になってしまいます。19世紀以前の絵具の種類が少なかった時代に、風景画の緑を描くのによく使った混色方法です。色見本のグラデーションには不都合なので、バーントアンバーを加えて緑になる変化を修正しました。



最後に黄(イエローオーカー)と赤(レッドオーカー)の混色です。白(シルバーホワイト)と黒(アイボリーブラック)にバーントアンバーを加えて明度の段階を作りました。アイボリーブラックとバーントアンバーの比率を数字で表す事は難しく、結局目で見て判断するしかありませんが、その感覚を養うのがこのような色見本を作る意味だと思います。


手間と時間はかかりましたが、綺麗な色見本ができました。わずかに明度や色相のずれている箇所はありますが、混色による中間色の変化がよく表れた色見本になりました。このような色見本を作る事は、明暗の段階や微妙な色相の変化を感覚的に身につける為にも良い訓練になります。
実際の絵の制作では、絵具の厚さや透明度の違いで色相がより複雑に変化します。これが油絵具の扱いの難しさになりますが、意図的にコントロールできれば、少ない種類の絵具からでも豊かな色彩感を表現する事が可能になります。



例えば、この絵は制作途中の段階ですが、ここまでは上記の三原色の混色だけで描いています。この後、必要に応じて彩度の高い絵具を加えていって、現実の色合いに近づけながら完成に向かう予定です。
このようなプロセスは、グリザイユで養った明暗法を使いながら現実の色合いを再現するための、わかりやすい学習方法の一つだと考えています。

 

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