2013年8月15日木曜日

石膏デッサンの描き方に疑問があって 【フレンチ胸像】




石膏デッサンの描き方に疑問を持って、私たちのアトリエに入られたKさんの、2作目の石膏像を紹介します。


今回は胸像の「フレンチ」です。前回の「キューピッ」に比べると、動きの少ないシンプルな像ですが、顔や髪の毛のモデリングなど意外に難しい像です。









F10号サイズの画用紙に、鉛筆で描きました。














「フレンチ胸像」 530×460 画用紙に鉛筆




午前午後の通しで制作され(5時間)、約3回で仕上げられました。



















大きな形のボリュームを保ちながら、細部まで良く描き込んだデッサンになりました。


ただ、制作過程を見ていると、まだ現実の陰影を追い過ぎて、明部のモデリングが濃くなり過ぎる傾向があります。背景の白さに比べて、石膏像の明部が明るく感じられるようにするには、形を表すのに不要な陰影を思い切って取り除き、より解剖学的に正確なモデリングで、形のボリュームを表す練習が必要です。











2013年8月9日金曜日

アトリエの道具と画材 3 「スパイラル型蛍光灯」

今回紹介するのは、アトリエ ラポルトで使っている照明です。

本来アトリエの照明は、自然光が理想ですが、限られた時間とスペースの中では、どうしても人工光線に頼るしかありません。また、自然光は、気象条件や時間帯で変化するので、じっくりと対象を見て制作するには不向きな場合もあります。

自然光のスペース
人工光線のスペース
アトリエ ラポルトでは、開設当初から照明にさまざまな方法を試みた結果、今回紹介するスパイラル型蛍光灯にたどり着きました。






ジェフコム社製のスパイラル型蛍光灯(昼光色)は、85Wで電球300W相当の明るさになり、しかも省電力です。



















これを、スポットライト用のソケットにつけて使っています。















モチーフの状況に合わせて、簡単に移動できる上に、一方方向からの光で、モチーフと画面を同時に照らすことができます。

















また、影の輪郭が柔らかく表れるのも特徴です。

ハロゲン スポットライト
スパイラル型蛍光灯























物を見て描く制作では、照明はとても大切な要素です。現在教室では、このスパイラル型蛍光灯をベースに照明をしていますが、「色が冷たくなる」 「光が拡散し過ぎる」などの問題もあります。他の照明と組み合わせたり、カバーを取り付けたりして、より良い制作環境になるように試行錯誤を繰り返しています。


2013年7月31日水曜日

米寿の個展まであと2年

Fさんは、目標の米寿の個展まであと2年、すでに会場の予約もされて、制作に励まれています。今回仕上がった作品は、80歳の時に、お1人でヨーロッパ旅行して撮ってこられた、思い出の風景写真を参考にして描かれたものです。


















ご自宅で半分ほど描かれた状態のものを、教室で仕上げられました。











F15号 ザルツァッハ川の畔




空気遠近法について説明したところ、参考写真より鮮やかな色彩の変化で、奥行が表現できました。




現役時代に、図面を描くお仕事をされていただけに、建築物の細部へのこだわりは、並大抵のものではありません。 ただ、風景全体の自然な距離感から、ある程度の省略があっても良かったと思います。





紅葉した木、緑の木、芝生、白壁の家などの明暗の組み合わせに、造形的配慮が感じられます。









お歳のことを言ったら怒られてしまいそうですが、ご高齢でこれほど密度の高い作品を仕上げられたのには驚嘆しています。そして,Fさんの絵や人に対する誠実な姿勢にも頭が下がります。私たちは、描き方のアドバイスをする側ですが、Fさんからは、「生き方」を教わっています。


2013年7月24日水曜日

石膏デッサンの描き方に疑問があって

建築パースの仕事をされているKさんは、以前からデッサンの描き方に疑問をもたれていたそうです。たまたまアトリエ ラポルトのホームページを見て訪ねてくれました。

持って来られたデッサンを拝見して、非常に描写力のあるのに驚きましたが、現象的な明暗を追いすぎて、形が曖昧になってしまっている事と、白い紙に対するモチーフの明度関係が考慮されていない為、ブロンズを描いたように黒いデッサンになってしまっているのが残念に思いました。




そこで、キューピットの石膏像に、スポットライトをあて、光と影がはっきりしたセッティングをして描いてもらいました。



光と影の境目をどこで区切るかは、難しいところですが、形を表すのに最適な位置を選択して、境界線を引きます。こうすることで、光の無限の変化を追って形がぼやけるのを防ぎます。また、影を置くことで、明部が白く明るく感じられるようになります。








Charles Bargue“Cours de dessin”より

このやり方は、19世紀後半に、フランスの美術学校で広く使われていたシャルル・バルグ(Charles Bargue)の手本帖にも見ることができます。



キューピット 画用紙に鉛筆 45.5×33.4


すでに他の教室でデッサンを習われていただけに、最初から完成度の高い作品となりました。背景に対する石膏像の明度関係の作り方を理解されたので、白い紙の上に、白い石膏像が表現できています。個々の形も良く描けています。 ただ、明部を描いていくと、現象的な陰影に惑わされて、黒ずむ傾向があります。美術解剖学に基づき、不必要な陰影を取り除き、対象の形を、デリケートなモデリングによって、的確に表せるようになる事が、次の課題だと思います。

2013年7月17日水曜日

人物デッサン 研究会

毎週土曜日の夕方に、絵描き仲間が集まって裸婦を描いています。
(2012年6月13日のブログ参照)

最近の作品を紹介します。


55cm×37cm
グレーのキャンソン紙にチャコールペンシルの白と黒

部分
























55cm×37cm
グレーのキャンソン紙にチャコールペンシルの白と黒


M15号
キャンバスに油彩
部分



F6号
キャンバスに油彩

「良い環境で裸婦を描きたい!」そんな想いから始まったデッサン会も、早いもので1年半が経ち、新しい仲間も加わって、楽しい週末の集いとなっています。


2013年7月11日木曜日

明るいトーンで描く 2

明暗が取れた後、、色を置いていきました。


使用した絵具は、イエローオーカー、レッドオーカー、バーミリオン、ウルトラマリン、カッセルアース、ランプブラックを基本色にして、これにネープルスイエロー、カドミウムイエロー、カドミウムオレンジ、クリムソンレーキ、ヴィリジャン、カドミウムグリーン、を加えて、明るいトーンを作りやすくしました。



全体の彩度バランスを考えながら、徐々に色を強めて仕上げていきました。













M10号「日曜日の朝」


明るいトーンで描くときは、影の暗さと色合いをどう設定するかが重要なポイントです。見えたとおりに描くのは基本ですが、より絵画的表現効果を加えるには、明部に対して色相対比(あるいは寒暖対比)が起こるように、暗部を色に置き換えてみる方法があります。そうすることによって、影を現実の明度より明るくしても、同じ光と影の効果を得ることができます。結果、画面全体が一層明るく軽やかに感じられるようになります。


今回のEさんの作品では、モチーフのセットとしては明るくなりましたしが、ちょっと重たく感じるのは、そのような見方が足りないからです。これからの課題だと思います。










2013年7月5日金曜日

明るいトーンで描く 1

前に紹介した作品までは、全体的に暗い色調で明暗のはっきりした絵を描かれていたEさんですが、この作品では明るいトーンで、中間色の美しい絵になるように、モチーフを組まれました。



桃色を全体の統一色(ドミナントカラー/最も面積の大きい色調)として、その中に反対色で彩度の高めの緑と青を、バランスを考えながら配置しました。繋ぐ色を暖色のオレンジ系統(パンとジャム)から選んだことで、明るく華やいだ感じのモチーフのセッティングになったと思います。










まずは、いつものようにキャンバスと同じサイズ(M10号)で、デッサンをしました。















出来上がったデッサンを、トレーシングペーパーで写し、その裏に、レッドオーカーをペトロールでおつゆ状に溶いて塗ります。


乾いたら、キャンバスに合わせて置いて、硬い鉛筆かボールペンで、トレーシングペーパーのデッサンをなぞると、転写されます。













今回は、色調がテーマですが、その基礎として、対象の明度関係が正しく捉えられていないと、リアルな空間の表現はできません。

そこで色を置く前に、カッセルアースとシルバーホワイトで、明暗だけを考えてエボーシュ(荒描き)をします。上から色を塗ることを考えて、実際よりも少し明るめに描きました。