その中でシニャックは、印象派の目的を「可能な限り(自然)の輝きを絵具で生み出す」とし、その手段のひとつとして「太陽のスペクトルに近い純粋な色だけをパレットに配置する」としています。
そしてこれらの絵具に白を加えて明度の変化を作ります。ここで誤解しやすいのが、現在日本の色彩学は、マンセル(A.Munsell 1858-1918)の理論が主流になっている為、白を加えると「彩度(Chroma)が落ちる」、すなわち「鮮やかさが落ちる」と考えてしまいがちなところです。
実際はそれとは反対に、印象派の画家たちは、スペクトルによる光の混色(加法混色)の再現を絵具で試みようとした訳で、白を加えることは、白色光すなわち太陽の光に近づき「輝度(Luminance)が上がる」と考えていました。印象派の絵がハイトーンになっていった理由も、このことを踏まえると理解できると思います。
ますは、白いキャンバスにウルトラマリンでデッサンを定着させた後、点を打つように絵具を置いていきました。
草木の緑色が画面の大半を占める絵ですが、光の煌きを表すには、反対色である暖かい色の並置の仕方が重要なポイントとなります。
また、現実の緑と水に映る緑の描き分けや遠近感の表現も難しい所です。
水辺の風景 F8号 |
途中で絵具を擦り付けて色が濁ってしまい、どうなることかと心配しましたが、粘り強く制作されて最後にはたっぷりと絵具の載った印象派らしいマチエールの絵に仕上がりました。青色の変化がいささか単調ですが、筆触や色の並置の仕方も工夫されて、光の輝きを感じさせるのに成功していると思います。ただ、このような手法でアトリエで制作する場合は、現場の写生を怠るとつまらない工芸画のようになってしまいますので注意が必要です。
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