フランスのモントーバン(Montauban)にあるアングル美術館には、アングルが生前描いたデッサンの大部分が収められていますが、そこで2006年に開催された「INGRES COLLAGS」(アングルのコラージュ)展の図録です。
アングルのデッサンは、当時のフランスアカデミーの規範となったばかりでなく、その卓越した技術と表現はドガやピカソなど後世の画家に大きな影響を与えます。
そのアングルが、理想とする形や構成を探す過程で、トレーシングペーパー(仏:Papier calque)を使っていたことが分かるデッサンが載ってます。
当時のトレーシングペーパーは薄い紙に油を浸み込ませて作っていたので、使用した部分が黄変して残ってます。
ルイジ・ケルビーニの肖像画の背景に描かれたミューズの顔のデッサン |
ドーソンヴィル伯爵夫人の肖像画の腕のデッサン
黄金時代の一部分のデッサン
デッサンの上にトレーシングペーパーを貼って形を修正していたのがよく分かります。
トレーシングペーパーのような物は中世の時代からあったそうですが、このような方法でデッサンをより明瞭にしていくことを、20世紀に「デッサンの文法」を著したアンリ・バルツは「日本人のプロセス」(le procede des Japonais)と呼んでいます。
*Henry Balth:Grammaire du dessin. 1928
*日本画では昔から薄美濃紙を使って、大下図の転写や修正をおこなっていました。
また、この図録には、複数のデッサンを重ねたり、並べて貼り合わせたりして、苦心しながら形を探しているアングルの姿が浮かぶデッサンが多数載ってます。
アングルほどの大家でも、一気に形を決めるのは難しいかったのです。
クロッキーが人体デッサンの中心になっている今の日本では、意外に思う方もいるかもしれませんが、「デッサンに何を求めるのか?」「良いデッサンとは何か?」を考えるヒントになると思います。
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