2014年5月26日月曜日

画家を目指して

4か月前からアトリエラポルトでデッサンを習われているK.Hさんは、画家を目指して勉強中です。


アトリエラポルトでは、デッサンから始められる方には、遠近法の原理を理解して頂くために、画面と同じサイズの透視枠を置いて、適切な鑑賞距離に固定した視点から枠を透して対象を描いてもらっています。













A.DURER: Insteuction sur la maniere de mesurer.1525

この方法は、古くからおこなわれていて、ルネサンス時代に出版されたデューラーの本にもその例が載っています。



またこの方法は、初心者の方でも対象を無理なく捉えることができる上に、絵画の遠近法と写真との違いの理解にも役立ちます。
P.OLMER: Perspective artistique.1943






右のイラストは、1943年に出版された「芸用遠近法」からのもので、著者のオルマは当時パリの美術学校の遠近法の教授でした。デューラーの本から400年以上経っても変わらぬやり方に、西洋の歴史の深さを感じます。
















透視枠は糸で縦横に8等分されていて、同じマス目を画用紙上にも描いて対象の形を取っていきます。


















陰影は付けないで、できるだけ直線で形を捉えることによって、形が曖昧になるのを防ぎます。





線で形が取れたら、現実の陰影を利用してモデリングをしていきます。















青年ブルータス 530×455



初めての石膏胸像だったせいか、表情が少し固くなってしまいましたが、個々の形とボリュームはよく捉えられています。基礎デッサンでは、陰影で石膏像の印象を表すよりも、K.Hさんのように武骨になっても、しつこく形を描き表していくことが必要だと思います。

















2014年5月18日日曜日

裸婦デッサンの制作例

今回は、裸婦デッサンの制作過程を紹介します。言うまでもなくそのやり方にはさまざまありますので、その中の一つの例として参考にして頂ければと思います。使用した画材は、キャンソン社のミタント紙にチャコール鉛筆の白と黒です。


まずは、全体の形を線で大きく直線的に捉えていきます。ここで必要なのが、勘に頼らずに徹底的に図ることです。











E.VALTON 著
Methode pour dessiner.より
1889年
E.VALTON 著
Methode pour dessiner.より
1889年


腕をまっすぐに伸ばして鉛筆(または棒)を立てて片目で測るのが原則です。(左図)

また、垂直を取るには錘を付けたひもを使うと良いでしょう。(右図)


線で形が取れた状態です。この段階ではまだ陰影はつけていません。














形が決まってから影をつけていきます。現象的な影を追うのではなく、形のボリュームが出るように選択した影を置いていきます。











明部は白コンテ鉛筆で描き起こします。














ハッチングで置いてから、浮いた感じがしたら擦筆で押えます。















全体の繋がりの中に、個々の形とボリュームが明確に表れるようにモデリングをします。














裸婦デッサン (550×375)
人物デッサンは動くから難しいと思われがちですが、その本当の面白さは、微妙に動くモデルから美しい形やムーブマンや構造的つながりを探して、理想的な人体に組み立てていくところにあると思います。人体は石膏像や静物ではできない造形方法を学ぶ為にも、欠く事のできないモチーフです。


2014年5月9日金曜日

印象派の描き方に戻って

しばらくクラシックな手法で静物画を描いていたNさんが、久しぶりに印象派の方法に戻って制作された風景画を紹介します。







印象派の方法について書いた本で歴史的にも重要なのが、ポール・シニャック(Paul Signac 1863-1935)の書いた「ウジューヌ・ドラクロアから新印象主義」(D'Eugene Dolacroix au Neo-Imprssionnisme.1898)です。

その中でシニャックは、印象派の目的を「可能な限り(自然)の輝きを絵具で生み出す」とし、その手段のひとつとして「太陽のスペクトルに近い純粋な色だけをパレットに配置する」としています。



そしてこれらの絵具に白を加えて明度の変化を作ります。ここで誤解しやすいのが、現在日本の色彩学は、マンセル(A.Munsell 1858-1918)の理論が主流になっている為、白を加えると「彩度(Chroma)が落ちる」、すなわち「鮮やかさが落ちる」と考えてしまいがちなところです。

実際はそれとは反対に、印象派の画家たちは、スペクトルによる光の混色(加法混色)の再現を絵具で試みようとした訳で、白を加えることは、白色光すなわち太陽の光に近づき「輝度(Luminance)が上がる」と考えていました。印象派の絵がハイトーンになっていった理由も、このことを踏まえると理解できると思います。



今回のNさんの風景は、ご自宅近くの池のある公園で、水に反射する光の煌きの表現が見せ所です。


ますは、白いキャンバスにウルトラマリンでデッサンを定着させた後、点を打つように絵具を置いていきました。
草木の緑色が画面の大半を占める絵ですが、光の煌きを表すには、反対色である暖かい色の並置の仕方が重要なポイントとなります。
また、現実の緑と水に映る緑の描き分けや遠近感の表現も難しい所です。
















水辺の風景 F8号



途中で絵具を擦り付けて色が濁ってしまい、どうなることかと心配しましたが、粘り強く制作されて最後にはたっぷりと絵具の載った印象派らしいマチエールの絵に仕上がりました。青色の変化がいささか単調ですが、筆触や色の並置の仕方も工夫されて、光の輝きを感じさせるのに成功していると思います。ただ、このような手法でアトリエで制作する場合は、現場の写生を怠るとつまらない工芸画のようになってしまいますので注意が必要です。