今回は、絵の表面の洗浄によって、どれだけ絵が変わるかを見ていきたいと思います。
修復する絵は、1830年頃に描かれた作者不明の肖像画です。
使用する用材は、精製水に5%のアンモニアを加えたものです。洗浄用の用材には、その状況に合わせてさまざまな種類がありますが、これはその中でも最も弱い(安全な)ものです。
綿棒に洗浄液をつけて、絵の隅の方から汚れの取れ具合や絵具の状態を慎重に見極めながら少しずつ拭いていきます。
綿棒が汚れてきたらすぐに新しい脱脂綿に交換します。
また、一箇所を長い時間しつこく洗浄するのは避けて、水分を飛ばしながら(乾かしながら)作業を進めることが肝心です。
右の画像は、肩の半分まで洗浄した状態です。絵の汚れ具合に驚かされます。
いよいよ顔に入ります。
今まで見えなかった頬の赤みやブルーグレーのニュアンスが現れました。
ブルーの瞳や影の透明感、ハイライトの明るさと筆触が良く分かるようになりました。
クリーニングが終わった状態です。
絵全体の汚れによる黄ばみが取れて明るくなりました。デリケートな色合いの変化やモデリングが表われ、輝くような肌色が蘇りました。
通常の修復過程では、この後欠損部分の補筆して、ニスを塗って仕上がりとなります。