2011年8月27日土曜日

ポール・セルジエの色彩論によって 1

 ナビ派の画家ポール・セルジエは、日本ではあまり知られていませんが、ゴーギャンから直接影響を受け、ナビ派の方法論を確立した画家としてフランスでは高く評価されています。

 特にセルジエの著書 「ABC de la peinture」(1921年) は、ナビ派の造形理論を知る上で重要な本の1つです。今回Yさんには、この本の第3版(1950年)で,セルジエが友人に宛てた手紙の中で述べている色彩論を、応用して描いてもらうことにました。


セルジエの色彩論のポイントは、絵具を寒色と暖色に分け、それぞれに寒色のグレー(ストロンチウム・イエローと黒と白)と暖色のグレー(アンチモン・イエローとバーントアンバー)を混ぜることによって、濁りのない(発色のよい)中間色を作ることが出来ると考えたところにあります。


これは、20世紀前後の画家達から、反対色(補色など)をパレット上で混ぜ合わせて、中間色作ることが多くなった結果、発色の悪いくすんだ絵が増えてしまったことへの反省があると考えられます。








セルジエの方法は、Yさんにとっても、私たちにとっても未知の部分が多く、はたしてどんな結果になるか、随時制作過程を報告していきます。

2011年8月19日金曜日

本の紹介 3

「絵画材料辞典」  R.J.ゲッテンス,G.L.スタウト共著  森田恒之訳  美術出版社 1973年



右が原本、左が翻訳本
これは、1942年にアメリカで出版された R.J.Gettens と G.L.Stout による 「Painting Materials」 の全訳本である。

原本が出てから31年たっての翻訳であったが、当時日本にこのような絵に関する辞典はなく、またこれ以降も現在に至るまでの38年間、「絵画材料辞典」より詳しい内容の材料辞典は出版されていない。

この間西洋では、フランスだけでも、簡潔な内容のものから、最新の研究成果を踏まえた詳しい内容のものまで複数出版されている。西洋と日本の絵のおかれている状況の違いを感じざるえない。
1980年以降フランスで出版された「絵画材料辞典」に類する本の一例


とはいえ、「絵画材料辞典」は、現在においてもとても貴重な本である。森田氏の翻訳は読みやすく、単なる画材の説明書ではなく、絵の材料をとおしてみる文化史ともいえる内容で、読み物としてもおもしろい辞典である。1999年には再販もされてる。絵を描く人の「座右の書」といえるだろう。

2011年8月5日金曜日

線から明暗、そして色彩へ

外国でも絵を習われた経験をお持ちのEさんは、これまでに色彩感覚のすぐれた作品を描かれてきました。今回は、明暗法の土台の上に彩色を施すことによって、より一層の空間とリアリティの再現に挑戦されました。









 1.入念に構図を練った後、スケッチブックにキャンバスと同じサイズでデッサンをする。


2.キャンバスにデッサンを、トレーシングペーパーを使って転写し、テールドカッセルで定着させる。









3.テールドカッセルで陰影をつけた後、シルバーホワイトで明部を描き起こす。モチーフをよく見ながら、出来る限り明暗によって、形のボリュームと空間を再現する。










4.基本色のシルバーホワイト、イエローオーカー、レッドオーカー、バーミリオン、ランプブラックで明部の色を置いていく。 暗部は、レモンイエロー、ローズマダー、ウルトラマリン、テールドカッセルの混色で作る。




5、基本色で、どうしても再現できない色調には、そのつど新たに絵具を加えていく。





完成: 週3回で約3ヶ月かけて出来上がりました。明暗と彩色を分けておこなうこのやり方は、時間はかかりますが、確実に仕上がるすぐれた方法です。 Eさんには、初めての体験でしたが、忍耐強く制作に取り組まれた結果、油絵具の特徴を生かした深みのある空間と、輝くような発色の絵になりました。今後の制作のベースになれば幸いです。