油絵論 コンラッド・メイリ著 昭和18年(1943年) 東京堂
30年ほど前に、神保町の古本屋でこの本を見つけた時の驚きは、今もよく覚えています。表紙の藤田嗣治を彷彿とさせるようなデッサンに、絵の様式論から技法、色彩、構図法に至るまで、論理的に分かりやすく説明をしている内容は、それまで見たことがありませんでした。
その後、コンラッド・メイリ(1895-1969)は、フェルディナント・ホドラーに師事し、エコール・ド・パリの画家の1人として活躍した、スイス人画家だったのを知りました。1939年に、3ヶ月の滞在予定で来日しましたが、第二次世界大戦の勃発により、しばらく日本に留まることになりました。この時期に書かれたのが、この本のようです。
目次は、下記のようになっています。
・日本の若き芸術家に興ふるメッセージ
・油絵の伝統と手法
・裸体のエチュードの重要性と芸術の基本
・絵具の科学
・コンポジション
・西洋絵画の危機
・日本絵画のルネサンス
特にコンポジションについての説明は、今でもとても参考になると思います。また、油絵の技法で、ブロックス社の琥珀溶液(L'Ambre)を薦めているのは、樹脂を使う画家があまりいなかった時代の貴重な資料です。
メイリは、1948年に帰国、スイスのアニエール村で、74歳の生涯を閉じますが、日本に多くの弟子を残します。その中の1人に、当時4歳だった「かくちゃん」という少女がいたそうです。メイリ先生とかくちゃんについて書いた「1948年のスケッチブック」(2004年ポプラ社)が出版されています。
当時かくちゃんの描いた絵を見ると、その素晴らしさに感嘆するとともに、「教える事、教えられる事」の大切さをあらためて感じます。