今回紹介する本は、アルブレヒト・デューラーの「測定法教則」(下村耕史 訳編、中央公論美術出版 2008年)です。
原本は、1525年にドイツで出版され、表題は「線、平面、立体におけるコンパスと定規による測定法教則、理論を愛するすべての人の利用のために、アルブレヒト・デューラーの著した説明図付きの書。1525年印刷」となっていますが、長いので訳者が、「測定法教則」 にしたと思います。いえわゆる絵画・彫刻・建築を学ぶ人のための教科書で、その後ラテン語などに翻訳されヨーロッパ中に広まり大きな影響を与えました。
これは、時代を経て1977年にアメリカで出版されたものです。
題名が「THE PAINTER’S MANUAL」 となっているのがおもしろいところです。
ページの左側に原文が忠実にコピーされていて、右側に英文による翻訳が併記されています。
さて、今回日本で出版された「測定法教則」をみていきます。本文は全4章からなり、線→面→立体→遠近法という流れになっています。
第1章は、線についの説明から入り、直線・曲線の接合方法、螺旋やさまざまな曲線の書き方が説明されています。
第2章は、面に関する作図法で、多角形の作図からそれらを組み合わせたパターンまでが説明されています。
第3章は、立体に関する作図法で、具体的に建築物やモニュメントの一部を使って説明されています。また後半にはアルファベットの書体と書き方も載っています。
第4章は、多面体の展開図、そして遠近法の作図が出てきます。これは遠近法に関する出版物としては最も古い物の一つです。掲載されているイラストは、今でも遠近法関連の本によく引用されます。
遠近法の作図は立方体を例にして説明されています。
左は、側面図と上面図、それを見る鑑賞者の目の位置と光源の位置が示されています。
それを使って描かれたパース図。
左は、鑑賞者と画面とパース図のと関係が示されています。鑑賞距離によるパース図内の奥行の変化がよく分かるイラストです。
最後に遠近法の器具を使って絵を描くイラストが載っています。左下の碁盤状の升目を使った方法は、アトリエラポルトでも採用しています。
デューラーの「測定法教則」は、今の私達から見ると絵の教則本とは言えない内容に思えますが、実は西洋の造形芸術の根底に「幾何学:Geometre」が存在することを示す貴重な文献です。
そして西洋の造形芸術に使われる「形」とは、幾何学的形がベースになっているのが理解できると思います。
例えば、セザンヌは「自然を円筒、球、円錐によって扱う」という有名な言葉を残していますが、この本を読むと古くからある西洋絵画の「物の捉え方」の上に立っていたのが分かります。それは後のキュビズムやモンドリアンなどの抽象絵画にまで繋がる西洋の伝統的思考法とも言えるでしょう。