2012年8月30日木曜日

模写をする 3

ここで、もう一度模写の目的についてまとめておきます。

アトリエ ラポルトでは、勉強のためにする模写は、下記のことが重要だと考えています。

1.原画の制作過程をできるだけ尊重して行う。
2.そのために、画家や作品の資料をできるだけ集め、構図法や様式、技法などを調べる。
3.画材も、可能な限り原画に近いものを使用する。
4、単に写真のように似せるのが目的ではなく、原画のもつマチエール(絵具の厚み、透明・不透明、筆触など)や、ヴァラー(明度)と色のデリケートな変化(寒色・暖色)や、モデリング方法などを学び取る。
5.原画のヒビや変色などの傷みは模写しない。できるだけ描いた当時の状態を想定して模写をする。



左上:Watin 1755年 右上:Piles 1684年
左下:Bouvier 1832年  左下:Merimee 1830年  



右は、18~19世紀のフランス絵画の技法書の一例。






















ダヴィッドの画集から。

エボーシュ(下描き/粗描き)の状態がよく分かります。









































ダヴィッドの技法について、日本で出版された文献の中では、大正14年に出版された石井柏亭編集による「画の科学」に、Moreau-Vauthier “Comment on peint Aujourd'hui” の一部が訳されていて、ダヴィッドの使用絵具についての記述があります。







また、制作方法については、昭和26年に訳されたグーリナの「画家のテクニック」に、短いですが参考になる文章が載っています。





2012年8月22日水曜日

石膏像「髭の男」をグリザイユで描く 1

髭の男 グリザイユ F15

T君は、石膏胸像のグリザイユ2作目として、「髭の男」を描きました。

難度の高い石膏像ですが、驚くほどの出来栄えです。その制作過程を紹介します。





















サイトサイズ法のセッティングをします。(サイトサイズ法については昨年7月のブログを参照)


照明は、ハロゲンランプの昼光色を使いました。、光と影のバランスがよく、形のボリュームが出し易い方向に取り付けました。













最初に木炭を使って、線だけで、輪郭と、光と影の境を決めていきました。

2012年8月17日金曜日

模写をする 2

基底材のキャンバスは、原画と同じ位の布目の物を選びます。
H君は、クレサン製の中目のキャンバスにしました。



この時代のフランスの地塗りは、中間明度の有色地塗りが主流で、大きく分けて2種類あったと考えられます。

左側のセリューズ(鉛白)に、レッドオーカーを混ぜた暖色系と、右側のセリューズ(鉛白)に黒(ランプブラックやチャコールブラックなど)と少量のレッドオーカーを混ぜた寒色系です。












今回は、原画の背景から推測して、寒色系の地塗りをすることにしました。






キャンバス表面の油分を、サンドペーパーか溶剤を使って除去した後、油抜きしたシルバーホワイトに、ランプブラックと少量のレッドオーカーでグレーを作り、ダンパートマン(ルフラン)などのメジュームを加えて練り直し、パレットナイフで平滑に塗りました。











模写の大きさは、美術館では許されないことですが、原画と同じサイズにした方が勉強になります。


今回は、原画を痛めないように注意しながら、トレーシングペーパーで転写しました。













2012年8月8日水曜日

模写をする 1


すでに画家として活躍しているHくんが、今回は、模写に挑戦しています。


そこで、H君の模写の過程を報告するとともに、模写について考えてみたいと思います。














原画は、アトリエ ラポルト講師所有の19世紀初頭の肖像画を選びました。
作者不明の作品ですが、テクニックと様式からみて、ダビッド派の流れを汲むものかと思います。


原画
原画部分


























模写にも、さまざまな方法があります。日本人で数多くの模写をルーブル美術館などでおこない、模写による勉強の重要性を唱えた画家に、高田力蔵氏(1900~1992)がいます。

1983年に東京日本橋三越で開かれた「高田力蔵 西洋名画模写作品展」カタログより

1983年に開かれた模写展のカタログは、高田氏の模写の全容を知るばかりではなく、模写の方法や、美術館での模写の手続きのやり方などが詳しく書かれていて、とても参考になります。

その中で、序文を寄せたジャック・マレシャル氏(フランス美術館総局選任修復家)は、模写には、ルーベンスなどが行ったような作品への自由な解釈の模写と、経年変化による退色や汚れ・傷みまで模写する盲従的な模写と、基底材の選択や品質から下塗りの色調まで考慮し、原作の制作過程を尊重して行う模写の3通りがあると書いています。そして高田氏の模写は、この中の3番目の方法に依っていることを賞賛しています。


アトリエ ラポルトでは、この高田力蔵氏の考えを継承して、H君の模写へのアドバイスをしたいと思います。









2012年8月3日金曜日

石膏デッサン 参考作品 2

アトリエ ラポルトの講師と受講生が描いた、石膏デッサンの2回目です。







ホーマー像

 木炭紙大画用紙 鉛筆 15時間 (講師作品)























面冠女神胸像

 木炭紙大画用紙 鉛筆 15時間 (受講生作品)
























フレンチ


 B3画用紙 鉛筆 5時間 (受講生作品)























青年ブルータス像

 クロッキー用紙(650×500) 木炭 20時間以上
(受講生作品)













2012年8月1日水曜日

バラを描く 4

Kさんのバラの絵が完成しました。




絵具の素晴らしい発色や筆のタッチが、そのままバラの活き活きとした感じを表しています。


グリーングレーの統一色(ドミナント)に、彩度の高い補色(トニック)の赤いバラが、効果的です。その間を繋ぐ黄色(メディアント)のバラとテーブルクロスが、補色のコントラストを和らげ、長調の曲を聴くような楽しい気分に誘います。



ちょっと残念なのは、赤と黄色のバラが、右側に偏ってしまったことです。最初のセッティングで、もう一つ考慮して欲しかったところです。










バラ F15号


ご自宅の玄関に掛けるために、額の購入を希望されましたので、明るい色調の華やかなバラの絵に合わせて、ボリュームのあるモールデングの金縁をお奨めしました。


絵に合う額縁を選ぶのに、迷われる方は多いと思います。最後は、作者のセンスで決めればよいのですが、その前に額縁の様式と歴史を、少し知っておきたいものです。参考文献を紹介します。

*「額縁の歴史」 クラウス・グリム著 リブロポート発行 1995年
*「画家と額縁」 西宮市大谷記念美術館         1999年