2023年7月26日水曜日

「奥深い洋画材の世界展」動画

 5月にギャラリー・エスパ・スラポルトで開催された「奥深い洋画材の世界展」のアーカイブ動画がYouTubeで公開されています。

展示された画材について主催者3人が雑談を交えて解説します。興味ある方は是非ご覧ください。




YouTubeサイト内の検索に「奥深い洋画材の世界」と入れて頂くと続編もご覧いただけます。



2023年7月19日水曜日

骨を描く

今回は鹿の頭骨を描いた作品を紹介します。

 


絵の練習用のモチーフとしてよく使われる骨は牛の頭骨ですが、アトリエラポルトでは狭いスペースでも描ける鹿の頭骨を使ってます。



本物の頭骨には石膏像にない微妙な色合いや質感の変化があり、それを描き表わすのは良い練習になります。今回チャレンジしたYさんは、アトリエラポルトの基礎カリキュラムを習熟した方で、デッサンと油絵の両方の技法で描いてみました。

画用紙に鉛筆(300×210)
制作:約3時間

部分


キャンバスペーパーに油彩(300×180)
制作:約6時間

部分


どちらも短時間で描いた腕試しのような習作ですが、アトリエラポルトで学んだ事が良く反映されている作品です。例えば、頭骨の複雑な凹凸を骨の白さを保ちながら細部まで描き表わしていますし、油絵具の透明・不透明や寒暖の扱いも的確です。この技術を画面構成と結びつけた作品制作が今後の課題だと思います。


2023年7月10日月曜日

ガラスモザイクによるミニマム・リアリティの世界

 今回は現在ギャラリー・エスパス・ラポルトで開催されている常設展の中から、とてもユニークなガラスモザイクによる作品を紹介します。



作者の小黒哲夫氏は、フランス国内で最も権威ある美術学校と言われる国立高等装飾美術学校(École Nationaie Supereure des Arte Decoratifs)の壁画科を卒業され、建築装飾としてのモザイクから絵のように額に入れて部屋にかけられるモザイクまで、幅広い制作を手掛けています。




展示作品で使われているガラスはイタリア製の美しいモザイク用ガラスで、それをガラスカッターやペンチを使って必要な形に切り、板に貼って作られています。


厚さが4~5mmあるガラスを思い通りの形に切るのは難しく、誤差や思いもよらない形になってしまう事がしばしば起こります。しかし、そのように生まれた形を組み合わせながら作っていくところにガラスモザイクのおもしろさがあります。

ビニール袋に入った山型食パン
(455×333)


山型食パンとカマンベール
(333×242)


油絵を描く方は、リアリティ=細密描写と考えがちですが、小黒氏の作品を見ると限定された最小限のガラスチップの組み合わせからでもリアルな表現が可能な事がわかります。

角砂糖
(75×50)

それは、対象の構造的な把握と的確な明度(Valeur)と配色から生まれたもので、リアルな表現の本質をそこに見る思いがします。まさに、(造語ですが)ミニマム・リアリティの世界です。

コーヒー
(75×55)


この機会に是非ギャラリー・エスパス・・ラポルトでご覧ください。

*ギャラリー・エスパス・ラポルト「常設展」

東京都中央区日本橋小伝馬町17-9 さとうビル1階
営業時間:8:00~19:00
休廊日:土曜・日曜・祝日



2023年7月3日月曜日

人体の描き方を模写から学ぶ(後編)

ドラクロワの模写の後編です。

 着彩に入ります。
絵具は当時の資料からドラクロワが使ったと考えられる絵具に近いものを選びました。

右から、シルバーホワイト、イエローオーカー、ブラウンオーカー、レッドオーカー、バーミリオン、マダーレーキ、スティル・ド・ガラン、バーントアンバー、カッセルアース、
アイボリーブラック


Mさんは人体の着彩に慣れていないので、描きやすそうな部分から始めました。
当時のオーソドックスな描き方では、まずは描く場所全体に肌色のベースカラー(レッドオーカー+イエローオーカー+シルバーホワイト)を塗ってから、ハイライトに向かってモデリングします。(バーミリオン+イエローオーカー+シルバーホワイト)
影側は下描きのグリザイユを利用し、薄く肌色を乗せることによってオプティカルグレーをつくりながら移行部の色合いの変化をつくります。


肌色を模写する時のポイントは、黄色味の肌色の場所と赤味の肌色の場所よく見て再現することです。例えば、顔に対して首は黄色味の肌色にしていますし、手や足や関節の部分は他よりも赤みがあります。



また、下層のグレーを生かしながら描いていくことも大切です。冷たい肌色の箇所はなるべく混色に頼らずに下層のグレーを透かして出すようにします。特に明部と暗部の境目の冷たいグレー味は、そうすることで溶け込むような滑らかな効果を得られます。



人物内部のモデリングは、美術解剖学の本と照らし合わせながらおこないましたが、その正確さにあらためてドラクロワの力量を感じました。



模写(810×650)
ドラクロワ作「ローズ嬢」


週1コマの授業で、半年以上かけて完成しました。
写真資料を表面的にコピーするのではなく、構成方法や解剖学を考えながら当時の描き方にできる限り近づけようとした努力が実った模写になりました。

プリントした画像が暗めに印刷されていたので、模写の背景もたぶん原画より暗くなってしまいましたが、この模写の目的である19世紀のアカデミックな人体の描き方は十分に学べたと思います。
実際のモデルさんを前にした時の制作に生かせるように願ってます。