2018年9月22日土曜日

石膏デッサンから一歩ずつ

今回は、アトリエラポルトでデッサンを学ばれて10か月が過ぎたM.tさんの作品を紹介します。

M.tさんは、それまで絵を学ばれた経験はなく、仕事が休みの日に毎週来られて、焦らず急がずコツコツとデッサンを続けられています。

次の7枚のデッサンは、いずれも画用紙に鉛筆で描いたもので、制作順に並べてあります。






幾何形体 420×350

果物と野菜 420×350

ダビデの口 330×240

うつむき坊や 410×320

へべ半面 410×320

青年ブルータス 530×460

メジチ胸像 530×460



木炭の腹を使って黒々と迫力満点に描かれた石膏デッサンとは対極的なデッサンですが、デッサン本来の目的である「存在する形を描く」という見方からは、どの作品も愚直なほど丁寧に描かれています。

このような「現象的な形の印象」ではなく、形を遠近法に従って正確に再現することを目的とした石膏デッサンは、19世紀にフランスで使われていた絵手本の中に見ることができます。

M.tさんのデッサンには、まだ構造的な見方や的確なボリュームの表現が足りませんが、西洋のクラシカルな方法に近いデッサンになっていると思います。



参考画像

A.Cassagne (1874年頃)
"Le dessin pour tour”より



B.-R.Julien (1860年)

2018年9月7日金曜日

三原色から始める

 今回は始めて色を使った油絵にチャレンジした、Y.mさんの制作過程を紹介します。

アトリエラポルトでは、色を使った油絵の練習過程として、最初に三原色だけで描く方法を勧めています。







使用絵具:
イエローオーカ―
レッドオーカ―
コバルトブルー(またはウルトラマリン)
シルバーホワイト
バーントアンバー(理論上は黒ですが、ニュアンスの乏しい鈍い絵になりやすいので、バーントアンバーを使っています。)

鮮やかな色の再現はできませんが、その分、リアルな表現のベースとなる形と明暗(valeur)が捉えやすく、色彩の破たんが起こり難くなります。
また、絵具の混色原理を体感することができるでしょう。






木炭でデッサンをした後、バーントアンバーで定着して彩色に入りました。

最も面積の広い背景を決めてから、モチーフを一つずつ仕上げていきました。





実際のモチーフと比べると、洋梨の緑色と桃の赤色の鮮やかさが使用している絵具では出せませんが、そこを隣り合う色との対比や、明部から暗部へのパッサージュや反射光に、色相の変化を加えることで「感じさせる」工夫をすることが大切です。


最後に一番右側のクルミを描いて完成です。

このように一つ一つモチーフを仕上げていく描き方は、生乾きの状態での制作を可能にし、滑らかなモデリングと発色の良い効果が得られます。反面、モチーフ相互の関係や、全体の統一感を失う恐れもあるので注意が必要です。












初めての色を使った油絵とは思えない出来栄えです。グリザイユをじっくりと勉強してきたことによって、色に惑わされることなく明暗が的確に捉えられています。
色の再現も三原色だけの制約の中では、かなり引き出していると言えるでしょう。
ただ、良く見るとデッサンやきわの処理の甘さが気になりだします。今後の課題です。