2016年2月24日水曜日

ダイレクトペインティング

今回は典型的なダイレクトペインティングの手法で描いた作品を紹介します。

すでにダイレクトペインティングについては説明した事がありましたが(2013年9月25日のブログ)、要約すると対象の明度と色合いをパレットの上で混色して作り、直接キャンバスにおいていくやり方です。早く描ける半面、的確に明度と色合いが作れないと難しい方法です。


まずはキャンバスと同じサイズの画用紙に鉛筆デッサンをします。

ダイレクトペインティングは、絵具を使ってから形の修正を繰り返すと絵具の発色が悪くなります。しっかりとデッサンをしておく事が肝心です。












デッサンをトレーシングペーパーを使って、キャンバスに転写した状態



モチーフの色をパレットで混色して置いていきます。

この時最も明るい物(ここではインパラの頭骨)から始め、それを基準に他のモチーフの明度を決めていくと良いでしょう。私たちの経験上、影から始めると暗い絵になる方が多いからです。



週1回受講のMaさんは、フレスコ画のようにその日に出来る範囲を決めて描いていき、それを繋げて全体の完成へと向かいました。

















ヴァイオリンとインパラ (F12号)




約30時間で仕上がりました。

明暗法をベースにしながら明るい色鮮やかな絵になったと思います。構図も頭骨やヴァイオリンなど難しい形のモチーフをピラミッド型の構造線の中に収め、大変安定感のあるものになっています。


また、茶色のヴァイオリンの周りに反対色の緑の布、黄緑の葡萄の近くに赤紫の本など色の組み合えせも良く考えられています。







細密描写の絵ではありませんが、それらの造形的な工夫に加え、個々のモチーフの構造がしっかり取れているため描き足りない印象はありません。写真的なリアリティーが好まれる昨今ですが、「絵を描く意味」を考えさせる作品になったと思います。

2016年2月12日金曜日

アトリエの道具と画材 12 : 好みの色の絵具を作る



今回は大作や枚数を描く方にお勧めの方法を紹介します。


自分の絵のスタイルが出来始めると自然に使う色も決まってくるものです。そこでよく使う色を事前に混色してチューブに詰めておくと制作のスピードが飛躍的に高まります。

用意するする物
・空チューブ
・剥離紙(シリコン紙)
・パレットとペインティングナイフ
・自分好みの色作るための絵具







パレットに自分好みの色を混ぜ合わせて作ります。この時、樹脂や油を加えて乾燥速度や艶や粘り具合を自分なりに調整することも可能です。




出来た絵具を剥離紙の上にのせ、チューブの太さよりちょっと小さめに巻きます。












チューブにさし込んで上の方から絞り出していきます。


剥離紙の中の絵具がチューブに移ります。

最後にキャアップを傷めないようにトントンして、絵具を奥まで落とすと同時にチューブの中の空気を抜いていきます。




完成。

間違えのないように、使った絵具名と日付を書いたラベルを貼っておくとよいでしょう。













左から 豚の膀胱、ピストン式チューブ、錫チューブ

終わりにチューブの歴史を一言。

現在のような金属チューブ(昔は錫、現在はアルミが主流)の歴史は意外に浅く、1840年頃から使われ始めました。これにより画家は戸外での制作が出来るようになり、印象派に代表されるように絵画表現の領域が革命的に広がります。また、かつては画家の工房や小さな画材店で手作りしていた絵具が大きな工場で大量生産されるようになり、誰でも手軽に油絵具が手に入るようになりました。表現と画材の関係って面白いですね!


2016年2月3日水曜日

インパラの頭骨標本を描く

今回はちょっと変わったモチーフを描いた作品を紹介します。

作者のK.yさんは、アトリエラポルトでデッサンから順を追って学ばれて2年が過ぎました。そろそろ習作段階は終わって、自己の表現を探すところにきています。

そこで選ばれたのが、動物の頭骨の標本です。

中心となるのがインパラの頭骨(レプイカ)、その他は鹿の頭骨です。




動物の頭骨は、オキーフなどの現代美術の作家が良く取り上げるテーマですが、写実的な絵画技法の中で扱うには、形が不定形で複雑なので難しいモチーフです。

そこでキャンバスと同じサイズ(P10)の画用紙に繰り返しデッサンをして構図を探していきました。
















デッサンが決まったらトレーシングペーパーを使ってキャンバスに転写して、グリザイユで描き始めました。

使用絵具は、カッセルアース(ブロックス)とシルバーホワイト(マツダ)、キャンバスはクレサン社製の中目(66番)で今回は地塗りをせずに直接描いています。














ダイレクトペインティングの手法で、対象の色をパレットで混色して置いていきましたが、絵具の厚い・薄いや透明・不透明を意識して使い分けるようにアドバイスしました









仕上げに近づくにつれて、滑らかで溶け込んだようなモデリングになるように、練り合わせ溶液のスタンドオイルとベネチアンテレピンの濃度を上げ、かなりとろっとした状態の絵具で描くように薦めました。













インパラの頭骨のある静物 (P10号)


油絵具を始めて手にしてから7作目(グリザイユも含む)になりますが、すでに習作を離れてK.yさん自身の作品として十分に鑑賞できるレベルになったと思います。

キャンバスの目に負けない位たっぷりと絵具がのって大変しっかりとしたマチエールになっています。また、白い頭骨の中の微妙な色合いの変化や寒暖の使い分けも的確でとても綺麗です。
















この調子で、より構成や色彩の面を深めていって頂ければと思います。次回の作品も楽しみにしています。