2024年6月29日土曜日

19世紀の肖像画を模写する

 今回は19世紀初めにフランスで描かれたダヴィッド派の肖像画の模写を紹介します。


模写にはさまざまな方法がありますが、勉強としての模写は単に原画に似せるのではなく学ぶ目的を持って取り組むことが大切です。

今回の模写では、クラシックな油絵のもつ絵具の「透明・不透明」「厚い・薄い」の効果的な使い方や、「温かい・冷たい」と言った微妙な色合いの変化を使ったモデリングを学ぶことを特に重視しました。
その目的から名画とは言えませんが、19世紀前半に描かれたダビィッドに近いオーソドックスな技法で描かれたアトリエラポルト所蔵の肖像画を使いました。


輪郭を転写し後、バンダイクブラウン(ニュートン社)で明暗をつけていきました。


明部はシルバーホワイトを加えて明るめに描きます。この単色の段階で出来る限り正確に形を再現します。


背景から着色していきます。


背景と服に色がついた状態です。


いよいよ顔に入ります。最初に明部と暗部の境目にグレーをおきます。


次に肌の固有色を塗ります。
肌色はイエローオーカー、レッドオーカー、シルバーホワイトをベースに作り、そこにバーミリオンとマダーレーキを加えて色調を合わせます。




原画は口の周辺に修復の跡があり、それが変色して形や色が分かりにくい箇所があります。
模写では描かれた時の状態を再現するようにアドバイスしました。


完成。

19世紀初頭にフランスで制作された肖像画の模写
キャンバスに油彩(410×318)


何度も修正と塗り重ねをおこなった為に、マチエールは原画より厚く、がたついたモデリングになってしまいましたが、目的の寒暖の微妙な変化と透明・不透明の使い分けは良く捉えられています。これに原画のような筆触の効果的な使い方が加わるとより良くなると思います。自作に生かしていって頂ければ幸いです。









2024年6月10日月曜日

サテュロス全身像のデッサン

 今回は難度の高いサテュロスの全身像の石膏デッサンに挑戦したCさんの制作過程を紹介します。


サテュロス(またはサタイヤ)は、ギリシャ神話に登場する半人半獣の精霊で豊穣と欲情の化身として表現されます。オリジナルの彫像はギリシャ時代のヘレニズム期のものと考えられていますが現存していません。忠実なローマ時代のコピーとされるものがウフィツィ美術館にあります。

アトリエ・ラポルトで購入したサテュロス像の製作者「石膏像ドットコム」の脇本氏によると、この石膏像の型取りの元になったのは、1704年にフィレンツェの彫刻家であったマッシミリアーノ・ソルダーニ・ベンツィ(Massimiliano Soldani Benzi 1656-1740)が作ったブロンズ像の縮小複製とのことです。
Wikimedia commonsより


制作するにあたって、像の中央に天井からひもをおろして垂直軸を設定し、それを基準にプロポーションを測っていきました。


プロポーションを線だけで捉えた後、個々の形態をモデリングしてボリュームをつけていきました。


画面全体のバランスを考えテーブルに貝を加えてみました。




完成。


石膏像内の影の分量を少なくして、モデリングによって形態を追求したデッサンになりました。このようなデッサンは19世紀のパリの美術学校でおこなわれていたやり方で、現象的な陰影を再現しようとしたデッサンとは異なり、解剖学の知識に裏打ちされた形態の把握にデリケートなハーフトーンをコントロールしながらのモデリングといった高度な技術を必要とします。これまでのCさんのデッサンへの粘り強い取り組みの成果が出た作品になったと思います。