2016年7月22日金曜日

19世紀の技法に魅せられて : 1




すでに若い世代の画家として活躍しているH.mさんが、19世紀の技法に魅せられて模写をされました。その制作過程を紹介します。












原画はアトリエラポルト講師所有の作者不明の19世紀新古典主義に繋がる作風の絵です。技法と服装から1830年頃に描かれものではないかと推測しています。

(この絵の修復過程は、このブログページの右側にあるラベルの「修復」をご覧下さい)





透明シートを使って直接原画をトレースしてキャンバスに転写しました。

キャンバスは原画と同じ位の目の粗さのものを探してきて、シルバーホワイト、アイボリーブラック、少量のローアンバーで全面に薄くグレーの地色を付けています。



転写したデッサンを、原画を見ながらより精度の高いものにしていきます。














カッセルアースにレッドオーカー、ブラウンオーカーで色味の調整をしながら、描き始めはカマイユのように描いていきました。

練り合わせや溶き油については、H.mさんが調合されてきたものを使いました。樹脂とスタンドオイルを基にした濃厚な溶剤です。














次第に固有色を加えていった段階です。

肌などの明部は、主にシルバーホワイトで明るめに描き起こしていきます。


肌の明るい部分の微妙な明暗や色合いの変化は、できるだけオプティカルグレーで作るようにアドバイスしました。

続く


2016年7月9日土曜日

面冠女神像に挑戦

昨年10月からラポルトでデッサンを学ばれているO.yさんが、難度の高い面冠女神像に挑戦されました。その制作過程を紹介します。


















今回の石膏デッサンは当アトリエでの5枚目で、これまでに描いた作品は次のとおりです。
(すべて画用紙に鉛筆)

1作目
2作目
3作目
4作目





いつも通り、線で形を捉えることから始めました。
形の複雑な石膏像ほど、この段階では細部に拘らずに大きな構造を掴むことが大切です。


















線で出来る限り形を描いた後、明部と暗部の境を決めて、暗部から描いていきました。


















明部に移ります。石膏の白さを保ちながら描き込むのが難しいところです。


面冠女神像 (650×500) 画用紙に鉛筆


焦らず、時間をかけて(40時間以上)、入念に仕上げた大変完成度の高い作品になりました。過去の4枚のデッサンと比べても格段に上達しています。

試行錯誤しながら、形やボリュームや前後関係を追っていき、「もうこれ以上描けない」と言うところまで描き込んだ作品です。しかも、背景の画用紙の白に対して、石膏像がより白く感じるように明暗のコントロールが行き届いてます。



このようなデッサンは、単に対象の引き写しではできない、省略や強調や解剖学的な形態認識など造形的思考を学ぶことができます。それは写実的な絵画から抽象画に至るまでの、幅広い表現方法の基礎となることでしょう。