今回は、キャンバスを張る木枠の楔(くさび)の必要性について考えてみたいと思います。
右はアトリエラポルトにある19世紀フランスの絵です。32cm×25cmの小さな絵ですが、裏を見ると、木枠の四隅と中桟に三角形の楔が打ち込まれているのが分かります。
このような楔付き木枠は特別なものではなく、西洋のほとんどの絵の木枠には付いているものです。
例えば右はパリの画材屋で買ってきた張りキャンバスです。
楔は、湿度変化や経年変化で緩んできたキャンバスに張りを戻す目的で付けられています。
キャンバスが緩んできたら楔を金槌で軽く叩くと張力が戻る仕組みです。
右は1900年頃のルフラン社のカタログに掲載されていたもので、新型の木枠として楔の機能に代わる器具を紹介しています。
このように、西洋ではキャンバスは緩むのを前提に木枠を考えています。
ところが今の日本では楔のない木枠がほとんどで、キャンバスが緩んだ時は張り直さなくてはなりません。
写真Aは現在日本で売られている数少ない楔付き木枠の例です。
写真Bは、リキテックスのアクリル用ベーシックス・キャンバスで、袋に楔が入っていて自分で付けるようになっています。
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キャンバスの緩みは、描きにくいばかりではなく、長期間そのような状態で絵を放置すると絵具層のひび割れや剥離の原因になります。特に湿度の変化の激しい日本では、キャンバスの伸びちじみも激しくて緩みやすいので、楔付き木枠の一般化が望まれるところです。
余談ですが、右のようにキャンバスを張った後の余りの部分を、木枠に沿って切り落とす方がいますが、これは絶対に避けるべき事です。キャンバスが緩んだ時に張り直しができなくなるからです。号数に関係なく2センチ以上は余分に残す必要があります。邪魔になったら、下のように、折り返してガンタッカーで留めておくとよいでしょう。