2015年4月20日月曜日

展覧会のご案内 : グエルチーノ展

今回は西洋美術館の企画展として開催されている「グエルチーノ展」を紹介します。



グエルチーノ(Guercino 1591-1666)はイタリアバロック時代を代表する画家です。

北イタリアのチェントに生まれたグエルチーノは、カラッチ一族に代表されるボローニャ派の影響を受けた作風で非常に高い評価を得て、教会を中心に多くの作品を制作しました。













バロック時代は、油絵の技法と明暗法(キアロスクーロ、Chiaroscuro)による表現が完成された時代で、西洋絵画の本流を学ぶ上で欠かせない時代です。そこには「ただ対象を写真のように描く」といった写実とは違うリアリティーがあります。



例えば、光と影が強いコントラストで表現されていますが、印象派のような現象的なものではなく、対象の形やボリュームを明確に表すように付けられています。





また構図も、画面から導き出された斜線に基づくバロックの典型的な幾何学構造を持っています。


このような造形方法は、セザンヌやキュビズムの作品にも繋がるものがあると思います。












今回の展覧会では残念ながら出品されていませんが、グエルチーノはデッサンも高く評価されています。

特に油に浸けた木炭を使用したデッサンは、西洋では今でも木炭デッサンの参考作品としてよく取り上げられています。

右はその一例ですが、日本で広く行われている現象的な明暗を黒々と追っていく木炭デッサンとは違い、明暗のバランスと組み合わせによって、明瞭で美しい人体の形と輝くような光の表現を獲得しています。









高さが4m近い大作から、日本ではなじみの薄い銅版を基底材として使った小品まで、バロック時代の大家の作品をこれほどまとまって見れる機会は滅多にありません。まさにバロック絵画の真髄を見る思いがします。


国立西洋美術館 (東京都台東区上野公園内)

会期:    2015年3月3日~5月31日
開館時間: 午前9時30分~午後5時30分
        (毎週金曜日は午後8時まで)
        *入館は閉館の30分前まで
休館日:  月曜日(ただし5月4日と18日は開館) 








余談ですが、私が上野に見に行った時は花見の真盛りで、凄い人混みの中をようやく西洋美術館にたどり着いたら、館内は人も少なく静か・・・
「ホッ」とすると共に、ちょっと寂しくもなりました。








2015年4月11日土曜日

多色の油絵へ

今回は、デッサン→グリザイユ→三原色による油絵と進んできたK.yさんが、より自由な色の表現を求めて制作された作品を紹介します。



最初にキャンバスと同じサイズの画用紙に構図を考えながらデッサンしました。

描き上がったデッサンをキャンバスに転写するために、デッサンの上にトレーシングペーパーを置いてなぞります。



写し取ったトレーシングペーパーの裏から、油絵具のレッドオーカーをペトロールで溶いたものを塗り、乾いてからキャンバスに合わせてボールペンでデッサンをなぞると転写できます。



















いよいよ着彩に入りますが、対象を見て描く写実絵画ではモチーフの配色が重要なポイントです。今回は初めてなのでカラフルなモチーフを多く使うわずに、グリザイユの延長として、支配色(ドミナントカラー)の背景を中心に、反対色(トニックカラー)のモチーフを置くシンプルな色構成にしました。


使用した絵具は、ネープルスイエロー、イエローオーカ―、レッドオーカ―、バーントアンバー、カッセルアース、ウルトラマリン、ヴィリジャン、ランプブラック、シルバーホワイトです。











転写したデッサンにカッセルアースで影をつける事から始めました。






背景から色を決めていき、オブジェの描写へと移りました。















オウムガイのある静物  (M10)



約40時間かけて完成しました。

デッサンをきっちりと学んでこられただけあって、油絵に移ってからの上達の早さに驚きます。こってりと油絵具を塗り重ねて、しっかりとしたマチエールと鮮やかな発色の絵になっています。

構図も直角三角形の構造線を基準に、各モチーフがバランス良く配置されています。


難を言えば、各モチーフの描写に対して、背景とテーブルをフラットに扱い過ぎていると思います。布とか板の壁とか具体的なイメージの表現が欲しいところです。



とは言え、油絵を始めて5枚目の作品でこの完成度は「凄い!」