2026年6月5日金曜日

「アカデミックな人体表現展」

 今回はギャラリー・エスパス・ラポルトで開催中の展覧会を紹介します。
テーマは「アカデミックな人体表現」で、19世紀のフランスの美術学校で制作されたデッサンと油絵を中心に展示しています。




中でも目玉作品は、ラポルト受講生のKさんからお借りしたローマ賞コンクール(1903年)の最終審査に出品されたルネ・ダリュー(Charles-Rene Darrieux,1879-1958)の作品です。


この時代までの美術学校の学生は皆ローマ賞を目指して勉強していたと言ってよく、その到達点を示す作品です。残念ながらローマ賞には選ばれませんでしたが、その時代の絵画教育を知る上で大変貴重な作品です。(キャンバスや木枠も当時支給されたままの状態です)

その他、19世紀の人体デッサンや模写用の手本、文献、画材、アカデミックな方法論の上に自己の表現を追求した画家の作品などを展示しています。






「アカデミックな人体表現展」
期間: 2016年5月27日〜6月26日 10:00-18:00  (土・日・祝 休廊)
場所: ギャラリー・エスパス・ラポルト
   東京都中央区日本橋小伝馬町17-9


最後に展覧会の案内文を掲載します。

 『絵画史における「アカデミック(academic)」という語は、本来、17世紀以降のヨーロッパにおいて整備された美術アカデミーの制度と、その教育体系の中で形づくられた制作理念や方法論を指します。その基盤には、古代ギリシャ・ローマ美術を理想的な規範とする古典主義的な価値観があり、比例と均整に基づく人体表現、明確な構図の秩序、歴史画を頂点とするジャンルの体系、そして厳格なデッサン訓練を中心とした段階的な教育課程が重視されてきました。とりわけ人体表現はその核心に位置づけられ、手本となる版画の模写から始まり、石膏像写生、さらに生身のモデルへと進む段階的な学習を通して、規範的な形態と言語としての「美」が身につけられていきました。 


 しかし19世紀後半から20世紀にかけて、芸術観の多様化と近代美術の展開の中で、「アカデミック」という語は、形式的・教条的で創造性に乏しいといった否定的な意味合いで用いられることが多くなりました。この評価は、アカデミー制度の権威性や保守性への批判と結びついて形成されたものですが、その過程で、アカデミック教育が長い時間をかけて築いてきた技術的基盤や視覚言語の体系も、次第に見失われていきました。


  本展では、このような歴史的背景をふまえ、アカデミックな美術教育の中心にあった人体表現に焦点を当てます。ローマ賞エントリー作品を軸に、厳格な課題制作の中で培われた造形感覚と構成力の実例を紹介するとともに、20世紀においてもなおアカデミックな基礎を踏まえながら独自の表現を模索した作家の作品もあわせて展示します。さらに、当時使用されていた教材、版画集、解剖学図譜、画材なども併せて紹介し、作品が生まれた教育環境と制作の過程を具体的にたどります。 小さな企画展ではありますが、「アカデミック」という言葉に対する評価を見直し、その教育理念と造形の考え方を再考するための一助となれば幸いです。』

 







2026年5月24日日曜日

アングルの学生時代に描いた習作の模写

 今回はアングル(Ingres 1780-1867)が、画学生時代に描いた習作の模写を紹介します。
チャレンジャーは、現役の美大生のMさんです。


勉強のための模写は、単に似せるのが目的ではなく、その絵を成り立たせている造形要素や技法を探求していくことに意味があります。まずは模写を始める前に、構図の分析を試みました。


当時のフランスの美術学校では厳格に描き方が定められていて、すべての学生はそれに従って制作していましたが、円弧や黄金比の扱い方にすでにアングルの趣向が表れています。


構造線を考えながらデッサンをトレースして、ヴァンダイクブラウンで影から塗り始めます。



続いてシルバーホワイトで明部をモデリングします。アングルはこの工程の時にすでに固有色を加えていますが、模写ではマチエールと発色のために白のみで行っています。


着彩には次のような絵具を使いました。参考にしたのは、モロー・ヴォティエが20世紀の初頭に書いた本です。(Moreau-Vauthier."Comment on peint aujourd'hui”)

イエローオーカ、レッドオーカ、ヴァーミリオン、マダーレーキ、ヴァンダイクブラウン(カッセルアース)、スティルドガラン、バーントアンバー、シルバーホワイト、アイボリーブラック、
溶き油は、グザビエ・ド・ラングレの処方を応用しました。



肌の領域の中で最も明るい腕の部分から色を置いていきました


明度の変化に加えて、色相の変化にも注意してモデリングをしていきます。
当時の色合いを想定して、写真より茶色み(経年変化による黄ばみ)を抑えて仕上げます。


週1回の受講で半年かかって完成しました。



現役の美大生ですが彫刻科で、油絵はアトリエラポルトで学ぶのが初めてとの事でしたが、とても良い出来栄えです。原画に似てるだけではなく、解剖学的な正確さ、色相の変化を伴ったモデリング、筆触やマチエールも写真からの模写としては限界に近く再現されています。
彫刻家を目指すMさんですが、油絵のおもしろさも味わって頂けたかと思います。

*制作の過程は、アトリエラポルトのインスタグラム laporte.2011でもご覧いただけます。






2026年4月18日土曜日

ゴールデンウィークの特別講座

今回は、ゴールデンウィーク中の特別講座とワークショップを紹介します。

油絵のマチエールは、下地で決まると言われています。
特別講座では、洋画家で技法研究家として知られる鳥越一穂氏が、手軽にできるキャンバスの地塗りの方法とその効果について解説します。
また、モチーフを見て描く写実技法の実演もおこないます。

油絵の技術を深めたい方にお薦めの講座です。気軽にお問い合わせください。



5月9日と10日は、自分の手を型取りして石膏像にする「てづくりワークショップ」を教室1階のギャラリー・エスパス・ラポルトでおこないます。講師には絵画材料技研究家で知られる松川宣弘氏を招き実演指導をおこなっていただくと共に、鳥越氏を交えて石膏の画材としての可能性について語っていただきます。この機会に自分の「手」作りに是非ご参加ください。




2026年4月16日木曜日

二人展

 アトリエラポルトをご支援頂いている洋画家の小林聡一氏と、水墨画家で一弦琴の奏者でもある氷川一陽氏の二人展が、教室の一階にあるギャラリー・エスパス・ラポルトで始まりました。



 
イタリアで油絵を学ばれた小林氏と、日本古来の水墨画を探究されている氷川氏との作品の対比は、西洋と日本の違いを見る大変興味深い展示になっています。お薦めの展覧会です。








二人展 《動と静》 氷川一陽×小林聡一
会期 2026年4月15日〜20日 10:00〜18:00 (最終日は17:00まで)
場所 ギャラリー・エスパス・ラポルト
   東京都中央区日本橋小伝馬町17-9
*18日と19日の13:時30分より、氷川一陽氏による一弦琴の演奏をおこないます。(無料)









2026年2月6日金曜日

アトリエ・ラポルト 作品展

 今回はアトリエ・ラポルトの受講生による作品展のお知らせです。
場所は、教室の1階にあるギャラリー・エスパス・ラポルトで2月2日〜27日まで開催ています。
20代から90代までの方々が、それぞれの思いを込めて描かれたデッサンと油絵を是非ご覧ください。









アトリエ・ラポルト作品展
  2月2日〜27日 9:00-19:00  (土・日・祝日はお休みです。)
  ギャラリー・エスパス・ラポルト: 東京都中央区日本橋小伝馬町17-9



2025年10月15日水曜日

ジュリアンの絵手本

 久しぶりのブログになります。このところInstagram (laporte.2011)を中心にアトリエラポルトの制作風景を紹介していたので、ブログの作成が先延ばしになってしまいました。今回は19世紀フランスの代表的な絵手本を紹介します。

 その制作者は、ベルナルド・ロマン・ジュリアン(Bernard-Romain Julien 1802-1871)という版画家・リトグラファで、パリの美術学校で学びグロ(Antoine-Jean Gros)の弟子とされています。

 アカデミックな絵手本というと今の日本ではシャルル・バルグ(Charles Bargue 1826-1883)が知られていますが、ジュリアンの方が18世紀までのデッサンの様式に近く、数も多くより普及していたと考えられます。

ジュリアンのホーマー像
(シャルル・バルグのドローイングコースの解説より)


バルグのホーマー像
(シャルル・バルグのドローイングコースの解説より)


 その全容は現在縮小印刷版として入手することができますが、残念ながら印刷が悪くて原画の美しさが損なわれています。



 アトリエラポルトでは受講生の参考に、ジュリアンのリトグラフによる原画を数点収蔵しています。








 中でも最近入手したポートレートの手本は、淡いグレーに着色された紙にリトグラフの白と黒によって刷らていて、その繊細な表現に息を呑むほどです。






 現代の美術教育では、手本からの模写には否定的な方が多いかと思いますが、先人の残した優れた技術を学びたい方には最良の方法だとアトリエラポルトでは考えています。



2025年8月8日金曜日

1903年のローマ賞出品作品

 今回は1903年におこなわれたローマ賞の最終審査に出品された絵を紹介します。

この作品は受講生の方が海外のギャラリーから購入したもので、現在アトリエラポルトで修復作業をおこなっています。


作者は、Charles-René DARRIEUX  (1879-1958)というフランス・ボルドー生まれの画家で、1903年のローマ賞に応募して最終審査の10人に選ばれて制作したのがこの作品です。残念ながらローマ賞は取れませんでしたが、当時のパリの美術学校の教育を知る上で大変貴重な絵画です。


テーマは「放蕩息子の帰還」で、縦145 cm 横114、5cmのキャンバスに描かれています。


ローマ賞は、1663年にフランスで創設された言わば画家の登竜門で、受賞者は3〜5年間ローマ留学ができる制度になっていました。創設時から20世紀初頭までのフランスの美術学校は、ローマ賞を目指して教育をおこなっていたと言ってよく、その到達点を調べることは、アカデミックな絵画がどのように作られていたかを学ぶ上での最良の手段と言えるでしょう。


初見では、すでに印象派を通り過ぎた時代の作品なので、色使いにその影響が見受けられました。

また、19世紀後半に流行ったインパスト技法が使われています。


これから時間をかけて修復(おもに画面のクリーニング)をおこないながら、技法、デッサン、彩色法、構図法などを調べていきたいと思います。いずれは、1階のギャラリー・エスパス・ラポルトで公開したいと考えています。