2024年10月13日日曜日

知っていると便利 ワイプアウト技法(Wipeout Painting Technique)

今回はワイプアウト技法による油絵の下書き方法を紹介します。
ワイプアウトは、画面全体に素早く明暗を付けるのに便利な方法です。
実践して頂いたのはアトリエラポルト4年目のSさんです。

ワイプアウトをおこなうには、事前に構図も含めたデッサンができていることが必要です。
それを、油絵具の溶剤で取れないように、顔料インクのボールペンかフェルトペンでキャンバスに定着します。


使用する絵具は、堅牢で乾きの早いものを選びます。今回はバーントアンバーを選びました。
少量をキャンバスに直接出します。



薄めの溶き油を多めに垂らして、脱脂綿で伸ばします。


円を描くようにして均一に塗ります。


濃さは好みでかまいませんが、ベッタリ塗り過ぎると乾きが遅くなる上に上層の色に影響を与えるので、薄く明るめに塗るのがコツです。


ボロ布を使って明るい部分を拭いていきます。


細かい箇所は、綿棒を使うとよいでしょう。


明るい所が拭き取れたら、影などの暗い部分を同じ絵具で加筆して終わりにします。



ワイプアウト技法による下書きができました。
ワイプアウトは筆よりも早く塗れ、対象の明暗関係を大づかみ捉える下書きに適しています。
この後、数日乾かしてから固有色を置いていくとよいでしょう。



2024年9月29日日曜日

ガラスモザイクの世界

 今回は10月17日から24日までギャラリー・エスパス・ラポルトで開催されるガラスモザイク画展を紹介します。


制作者の小黒哲夫氏は、パリの国立高等装飾美術学校 (École Nationale Supérieure des Arts Décoratifs)でモザイクやフレスコの技法を学ばれ、帰国後は美術専門学校で新たな美術教育システムの創設に取り組まれると共に、住宅や公共施設へのモザイク装飾を手掛けてこられました。近年は、絵画としてのガラスモザイクの可能性に着目し、限られた造形要素からのリアルな表現を追求されています。この度の展覧会はそのガラスモザイク画による初めての個展となります。


展覧会DMより


また、19日(土)と20日(日)は、ギャラリー内でワークショップもおこないます。小黒氏のモザイク技法の中には、西洋絵画の造形方法を理解する上で参考に事が多く含まれています。この機会に本場のモザイク技法を是非ご体験ください。



小黒哲夫「モザイク画展」
日時: 2014年10月17日〜24日 (10:00〜18:00 最終日は16:00まで)  期間中無休
場所: ギャラリー・エスパス・ラポルト 
   東京都中央区日本橋小伝馬町17-9   さとうビル1階

ワークショップ
 10月19日と20日(14:00〜17:00]
 費用:1回3,000円 材料費500円
お申し込み
 tel:090-2485-2076
 mal; gurotti.o@icloud.com
 (または、アトリエ・ラポルトまで)
 

2024年9月3日火曜日

120年前の人物デッサンを模写する

 今回は約120年前にフランスの美術学校で描かれた人物デッサンの模写の過程を紹介します。


このデッサンは模写をおこなうKさん自身が購入したもので、きめの細かい紙に木炭(もしくは合成木炭)で描かれています。デリケートな明暗の変化の上に解剖学的に正確な形をモデリングよって表しています。前屈みのポーズから、実際は杖を持っていたと考えられます。


画面上のサインとハンコから、1902年にナンシーの美術学校で制作されたことがわかります。


模写にあたっては、まず紙と木炭の選択から始めました。
Kさんはいろいろと試してみた結果、紙はキャンソン製の木炭紙の薄口が最もオリジナルの紙に近いと判断しました。木炭は、ルフラン製と二トラム製のものがこの紙に相性がよく、細部や細い線を描く時はゼネラル製のチャコール鉛筆を使用することにしました。


始めに線でプロポーションをできる限り正確にとります。


その後、画面全体を明部と暗部の2つに分け、人体の暗いところから木炭をおいていきます。


続いて背景に移ります。


擦筆やセーム革を使って表面に浮いた木炭をなじませながら、背景の基本となる明度を決めました。

全体の大きな明暗関係ができた段階です。いよいよここから各部分の描き込みに入ります。


木炭で描いては擦筆でなじませる工程を繰り返しながら形をモデリングします。


木炭は大きな面積を簡単に暗くできる反面、落ちやすくてデリケートな明暗の変化をコントロールするのが難しい画材です。擦筆以外に綿棒や練り消しゴムなど様々な手段を試しながら進めていきました。


描けば描くほどオリジナルのデッサンが、明暗法や解剖学に裏付けられた知識で正確な形を滑らかなモデリングで描き表しているのに驚かされます。当時のデッサン教育のレベルの高さを実感します。




終了。


週1回(5時間)の制作で、約半年かけて模写をおこないました。
オリジナルのデッサンが20世紀初頭の明暗(valure)をより現実に近く再現したスタイルのものだったので、技術的難度が高い模写となりました。
教える側も初めての経験で、Kさんと一緒に学ばせていただきました。
木炭の扱い方や明暗の方法など新たな発見が沢山あり、フランスの美術学校における人物デッサンの変遷について再考する機会となりました。西洋絵画の奥深さをあらためて痛感したしだいです。







2024年8月21日水曜日

リアルな再現方法を学ぶ

 今回は夏季特別講座(8/11~18)の様子をお伝えします。
テーマは「見て描く写実絵画技法」で、講師は鳥越一穂氏にお願いいたしました。


基底材は鳥越氏があらかじめ用意したアルミ板(3㎜厚)に、シルバーホワイトとローアンバーで中間色にした油性の地塗りをしたものを使用しました。

左:アルミ板 右:地塗りをしたもの
サイズはF4号(333×242)


描き出しはチョークでモチーフ全体のプロポーションをできるだけ正確に取っていきます。


続いてローアンバーで背景とモチーフの影をつけます。


土性系の彩度が低く乾きの早い絵具で固有色を置き始めます。


徐々に彩度の高い絵具を使って現実の色に近づけていきます。


モチーフの質感を表す筆さばきの方法や絵具の塗り重ねによるハーフトーンの作り方、ハイライトの入れ方など、実際に見て説明を受けながら制作を進めて頂きました。


受講時間は各自さまざまで、どの方も完成には至りませんでしたが、モチーフのリアルな再現のプロセスとコツは学んで頂けたと思います。
「鳥越先生、お疲れさまでした!」














2024年7月19日金曜日

夏休み特別講座のお知らせ

 アトリエラポルトでは正規授業の夏休み中に、画家で技法研究家の鳥越一穂氏を招いて写実絵画技法の特別講座を開催いたします。期間中(8/11〜8/18)は鳥越氏がデモンストレーション制作をおこなうと共に、クラシックな絵画技法や画材についてのご質問から実際にモチーフをセッティングしての油絵制作の指導まで、ご希望のコマ数(1コマ2時間30分・3,300円)に対応した授業をおこないます。日時の選択は自由で、1コマから受講可能です。

受講をご希望の方は、次のメールアドレスか電話番号まで気軽にお問合せください。
皆様のご参加をお待ちしています。

お問合せ先
Eメール: kazuo@torilogy.net
TEL: 080-3637-6633 (LINE可)







 

2024年6月29日土曜日

19世紀の肖像画を模写する

 今回は19世紀初めにフランスで描かれたダヴィッド派の肖像画の模写を紹介します。


模写にはさまざまな方法がありますが、勉強としての模写は単に原画に似せるのではなく学ぶ目的を持って取り組むことが大切です。

今回の模写では、クラシックな油絵のもつ絵具の「透明・不透明」「厚い・薄い」の効果的な使い方や、「温かい・冷たい」と言った微妙な色合いの変化を使ったモデリングを学ぶことを特に重視しました。
その目的から名画とは言えませんが、19世紀前半に描かれたダビィッドに近いオーソドックスな技法で描かれたアトリエラポルト所蔵の肖像画を使いました。


輪郭を転写し後、バンダイクブラウン(ニュートン社)で明暗をつけていきました。


明部はシルバーホワイトを加えて明るめに描きます。この単色の段階で出来る限り正確に形を再現します。


背景から着色していきます。


背景と服に色がついた状態です。


いよいよ顔に入ります。最初に明部と暗部の境目にグレーをおきます。


次に肌の固有色を塗ります。
肌色はイエローオーカー、レッドオーカー、シルバーホワイトをベースに作り、そこにバーミリオンとマダーレーキを加えて色調を合わせます。




原画は口の周辺に修復の跡があり、それが変色して形や色が分かりにくい箇所があります。
模写では描かれた時の状態を再現するようにアドバイスしました。


完成。

19世紀初頭にフランスで制作された肖像画の模写
キャンバスに油彩(410×318)


何度も修正と塗り重ねをおこなった為に、マチエールは原画より厚く、がたついたモデリングになってしまいましたが、目的の寒暖の微妙な変化と透明・不透明の使い分けは良く捉えられています。これに原画のような筆触の効果的な使い方が加わるとより良くなると思います。自作に生かしていって頂ければ幸いです。