2024年2月1日木曜日

明暗と色の関係を学ぶ

 今回は前回紹介したグリザイユと同じモチーフを、三原色を基に色の再現を試みた制作過程を紹介します。色数を制限しているため現実と同じような鮮やかな絵にはなりませんが、写実絵画における明暗(Valure)と色(Coulre)の関係を理解するのに良い方法です。



使用する絵具は、黄色:イエローオーカー、 赤色:レッドオーカー、青色:コバルトブルーの三原色に、白:シルバーホワイト、そして黒の代わりにバーントアンバーを使います。



現実空間の再現には正確に明度を捉える必要があります。ところが鮮やかな色は実際の明度より明るく感じてしまいます。例えば彩度の高い赤は明るく感じますが、実際の明度は意外なほど低いものです。

左のグレーと水平線上にある色が同じ明度です。
(PCCSハーモニックカラーチャートより)


上記の絵具の三原色だけで描くと鮮やかな色にできない分、明暗の把握がしやすくなります。また、実際のモチーフの色彩感に近づけるための色の対比や組み合わせの練習になります。


明暗が的確に再現されると僅かな色数でもリアルな表現が可能です。


完成。
ブドウとホオズキ (F4号)


Tさんにとっては初めての多色による油絵で、試行錯誤しながら制作したのが分かる仕上がりになりました。この経験を通じて、現実の再現的な絵における明暗と色の関係を理解して頂けなのではないかと思います。次回の制作から徐々に彩度の高い色や三原色の間の色を加えていって、より色彩的で発色の良い絵を目指していくと良いでしょう。



2024年1月15日月曜日

グリザイユで明暗法を学ぶ

 アトリエラポルトでは、グリザイユをデッサンの延長線上としてカリキュラムに取り入れています。今回はその目的で描かれたグリザイユの制作過程を紹介します。
作者のTさんは、このようなグリザイユを描くのは初めての方です。


まずはキャンバスの大きさ(F4号)に区切った画用紙に鉛筆でデッサンして頂きました。


このデッサンでは、遠近法に従った正確な形を描く事を目的にしている為、背景もモチーフ固有の明度も表現していません。石膏像のような白いモチーフと同じように描いています。
これに対してグリザイユでは、モチーフ固有の明度と背景を含めたすべての明暗関係の再現が目的です。

デッサンをキャンバスに転写した後、ベースとなる明度のグレーで全体を塗ります。


それより明るい部分は拭き取って白くし、暗い部分は黒を足して明度を落とし、大きく3段階で明暗関係を捉えます。


大きな明暗の配置が決まったら、いよいよ描き込んでいきます。


その際、暖かいグレー(アイボリーブラックとシルバーホワイト)と冷たいグレー(ブルーブラックとシルバーホワイト)を光と影や前後関係に従って使い分けることで、より輝きのある自然な空間の表現を目指します。


常に対象と見比べて描き進め、時には離れて見ることが大切です。



完成。

グリザイユ(F4号) キャンバスに油彩


明度(Valeur)が適切に再現されたグリザイユになったと思います。形も細部までよく描き込まれてクリアに表現されています。このように油絵具はデリケートな明暗や滑らかなモデリングを再現するのに適した画材です。アトリエラポルトでは、「デッサンは形」「明暗の再現はグリザイユ」と分ける事で、デッサンから油絵へ繋がりをもって学んで頂けるように考えています。


2024年1月9日火曜日

ついに入手! ウードン作「エコルシェ」

アトリエラポルトは受講生の方々に支えられて今年で13年目に入ります。今回はより良い学びの場となるように、最近ようやく購入できた石膏像を紹介します。

美術解剖学を学ぶ上で欠かせないのが「エコルシェ」(écorché .剥皮像)と呼ばれる像です。中でも最も有名ものが、新古典主義の彫刻家ウードン(Houston,1741-1828)が原型を作ったこの像です。



昔のヨーロッパの美術学校ならどこにでもあった像ですが、日本で販売されたことはなく入手は長年の夢でした。それが受講生Kさんの情報と助けを借りて、この度アトリエラポルトで購入することができました。


原型は等身大ですが、それを約75cmに縮小したものです。製作はアメリカのカプロニ コレクション(CAPRONI COLLECTION)で、石膏像作りの伝統と精度の高さではアメリカ随一と言われています。


日本で販売されているクードロン作のエコルシェよりポーズが自然で描きやすく、筋肉もわかりやすくできています。受講生のデッサンの目標にして頂ければと思います。



2023年12月28日木曜日

額の修復 2

 前回に引き続き額の修復課程です。

ゴールドフィンガーで塗った金色が輝き過ぎるので、周囲に合わせてグラファイトの粉末で古色をつけました。



やはり指につけて金色の上から擦りつけます。




出来上がりです。




絵を入れるにあたって、修復前は額に絵が直接紙テープで付けてあったので、新たに泥足を作りました。



泥足をつけた額に絵を入れた状態です。



泥足のサイズに合わせた裏蓋も作りました。


裏蓋には通気のために穴を開けてあります。

 

これでこの絵のすべての修復作業が終わりました。



しばらくの間アトリエラポルトの教室に掛けて皆様に見て頂きたいと思います。
近くにお越しの際はお立ち寄りください。
*公開期間 2024年1月10日〜31日 水曜日〜日曜日の13:30〜16:30



2023年12月22日金曜日

額の修復 1

 今回は前回修復をした絵が入っていた額の修復について紹介します。
おそらく絵の描かれた1850年頃からかなり経って、最初の修復が行われた時に付けられた額だと思います。それでも十分にアンティーク額と言えるもので、ロココスタイルの装飾が美しく絵にとても合っています。

しかし残念な事に、コーナーの装飾が1箇所欠損していました。


欠損箇所の再生にはエポキシパテを使いました。
エポキシパテは大変優れたパテで、欠損部分によく着いて乾燥後は丈夫で収縮やひび割れもおこりません。
容器に入った棒状のパテを、必要な量に切って練ると硬化が始まります。


硬化するまでの5分~10分の間に成形します。
硬化後に削ることを考えて少し大きめに作りました。



硬化してからルーターで周囲のレリーフに合わせて彫っていきます。



金色を塗る前の下色として、アシェット(箔下とのこ)に似た色のアクリルガッシュを塗ります。




この上からラウニー社製のゴールドフィンガーを使って金色にします。
ゴールドフィンガーは6色ほど発売されていますが、今回はその中からアンティークゴールドを選びました。



ゴールドフィンガーは文字通り指で塗ります。




塗り終わったところです。


つづく。

2023年12月11日月曜日

19世紀の肖像画の修復 4

 ニスの除去と補筆が終わりました。



修復の最終作業のニス引きです。
今回はターレンス社製のリタッチングバニッシュを塗って様子を見ることにしました。





修復終了です。

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絵を描く立場と修復をする立場は、まったく逆と考えている方も多いと思います。
ところが実際に修復を経験してみると重なる部分が意外に多いことを感じます。

絵を描く技法上のさまざまな問題を実感できますし、表現上のマチエールの効果やデリケートな色彩の変化など、修復を通して発見することがよくあります。作家の工夫や力量を目の当たりにする思いです。

修復は絵の理解に役立つ勉強方法の一つであるという考えから、アトリエラポルトではできるだけ修復作業を受講生の方に見て頂いてます。



2023年12月3日日曜日

19世紀の肖像画の修復 3

補筆(La retouche)に入ります。
ニスを取ると欠損箇所やヒビ割れが目立ったり、過去におこなわれたリタッチが取れたりします。それらの箇所を修復用の絵具で周囲の色に合わせるように補筆します。

補筆の際には必ず次のことを守らなくてはいけません。
・いつでも原画を傷める事なく除去できる絵具を使う。
・オリジナルの絵具に、はみ出さないようにする。


絵具層が基底材から剥がれ落ちてる場合は、パテで欠損部分を埋めて絵具層の高さに合わせてから補筆しますが、今回の絵ではそのような箇所は過去の修復で直してあり、擦れやヒビ割れで絵具が取れた箇所だけを直接補筆して目立たなくしました。

補筆による色合わせは、最初に水彩絵具でおこないます。



3原色に白(定着を高めるためにアクリルガッシュの白を少量使う)を加えて、明るめに下色を作ります。



補筆箇所

水彩絵具で下色を塗ったところ。


この上に修復用の絵具(マイメリ社のレスタウロ)で周囲の色と合わせます。
レスタウロ絵具(Restauro)はアルコールで溶かしたパラロイドを溶剤とする樹脂絵具で、油絵具と同じようなツヤと透明感を再現できます。色数も豊富でオリジナルの絵具に近い色を混色して合わせていきます。


髪の部分の補筆が終わったところ。


続いてひび割れの補筆です。


補筆前

補筆後

最後に溶剤では取れなかった筆触の凹みに溜まって黒くなったニスを、特殊な針で掻き取りました。


つづく