2014年10月27日月曜日

アトリエの道具と画材 7  「フランスの木炭とチョーク」

今回は、フランス製の木炭とチョークを紹介します。

まずは、木炭から。

木炭はおそらく最古の画材と言ってもよく、その歴史は原始時代まで遡れると思います。安価で黒く、,柔らかくて伸ばしやすく、すぐに消せる木炭は、デッサンや下書きなどに洋の東西を問わず古くから使われています。

上の2つがルフラン製、下の2つがフォアネ製

現在日本でも数多くの木炭が売られていて、たとえば伊研の商品カタログには30種類を超える製品が載っています。ところが、ほとんどの木炭が木の枝や幹材を焼いたもので、丸くて中心に粉状の芯があります。木炭デッサンで細部を描こうとすると、この芯が邪魔になって描きずらい経験をされてた方が多いのではないでしょうか?

右はフランスで買った木炭です。特に意識して選んだ訳ではありませんが、開けてみるとどれも角材を焼いて作ったものでした。



以前イタリアのフィレンツェにあるエンジェル・アカデミー(Angel Academy of Art)で学んでこられた方から、そこで使っていた木炭を見せて頂きましたが、やはりすべて角材でした。










角材は芯ができないので先端を細く削って使うことができます。フランスでは、硬さと太さの違いで数種類のものが売られています。


日本ではいつから丸い芯のある木炭が主流になったのでしょうか?







右はたぶん唯一の日本製角木炭です。伊研から発売されていて(ウコギ材、No.800)、硬さは中程度です。木炭の芯でお悩みの方にはお勧めです。












次にチョークです。

西洋の昔の画家のデッサン集を見ていると、使用画材によくチュークとでてきます。そこで白墨を買ってきて使ってみると、粉っぽくってつきが悪く、うまくいきません。結局、白コンテか白のパステルで代用することになります。そんな経験された方いませんか?

ところが、フランスのスーパーで買ったチョークは日本の白墨とは別物でした。





上:日本の白墨  下:フランスのチョーク

白墨より細身で、硬くて、粉っぽくありません。黒板で使ってみると、粉がでず、滑らかに伸びて書きやすく、チョークの減りも少ないのに驚きました。デッサン用紙の上でも同様で、木炭と同じ位の定着力を持っています。また、暗く地塗りしたキャンバスにデッサンするのにも最適です。

製造方法は判りませんが、フランスのチョークは天然の白亜で作っているそうです。暖か味のある象牙のような色合いです。




イタリアのFILA社のチョーク
製造はフランスのシャンパーニュ地方

残念ながら日本では意外に手に入らないものです。フランスに旅行した時のお土産にお薦めです。町中にあるスーパーで、一箱10本入りが200~300円位で簡単に買うことができますよ。





















2014年10月20日月曜日

初めての木炭デッサン

リアリズム絵画のコレクターとしても知られているM.mさんは、油絵を描く夢を叶えるため、アトリエラポルトで基礎デッサンから学ばれています。


今回は、初めて使った木炭によるデッサンの過程を紹介します。





日本では一般的に木炭デッサンというと、白い木炭紙に木炭の腹を使って黒々と描くのが主流ですが、アトリエラポルトでは、中間色のミタント紙(キャンソン社製)に、白コンテまたは白チョークを加えて描いてもらってます。こうすると、明度段階のコントロールがやり易くなる上に、木炭で塗りつぶす手間も省略できます。

この方法は、19世紀後半のヨーロッパの美術学校で広く行われていました。左は、アトリエラポルトで所蔵している1880年代のフランスの石膏デッサンですが、同じ方法で描かれているのが分かります。

M.mさんにもこのやり方で描いて頂きました。








まずは、線で出来るだけ正確にモチーフの形を捉えていきます。


次に明暗を付けていきます。

紙の明度を基準にして、それより暗い所を木炭で塗り、明るい所は白コンテで起こします。ご覧のように明暗関係がはっきりとなり、形や空間も表れてきました。

写実的なデッサンや絵では、この段階でのモチーフの配置や明暗の組み合わせがうまくいってないと、どんなに細密描写しても良い作品にはなりません。

描き込んで仕上げていきます。

木炭では引きにくいシャープな線は、黒のチャコール鉛筆で補います。

苺のある静物 333×242


約15時間で仕上がりました。

始めは木炭で形を取るのに苦労されていたようですが、結果的には、形がしっかりとした、明暗の諧調も的確なデッサンになりました。木炭の扱いに慣れてくればもっとリアルな表現も可能です。

油絵の制作に、また一歩近づいたと思います。


2014年10月13日月曜日

シスレーを目指して

今回は、すでに公募展で入選を重ね画家として自立を目指しているT.kさんの作品を紹介します。

公募展の出品作は、どちらかと言うと写実的で暗いトーンの静物画が多かったのですが、「シスレーのような自然で明るい風景画が描きたい!」 とアトリエラポルトで再び学ばれています。


言うまでもなくシスレーなど印象派の画家達は、自然を前にして制作することを信条としていましたが、教室ではスケッチや写真をもとにして、印象派の技法を考えながら実験的な制作をしています。

右の絵は最初に試みたもので、今まで使っていた絵具で自由に混色して描いてもらいました。その中で、寒色と暖色の組み合わせや影を色として捉えるようにアドバイスしました。








次の絵では、印象派の方法を取り入れ、絵具を虹色(スペクトル)に近いものから選び、各色に白を加えてトナリティを合わせてから描くようにしました。







そしてパレット上での混色はできるだけ避け、キャンバス上で色を塗り重ねたり、並置したりして、実風景に近い印象になることを目指しました。

結果は、なかなか中間色ができず、フォービズムの絵のようになってしまいましたが、寒色と暖色のコントラストが明快になり、明暗と色彩の関係が意識できるようになったと思います。











近作では、上記の虹色の絵具にイエローオーカー、レッドオーカーなどの彩度の低い系列の色を加えて、中間色を作りやすくしました。また、パレット上での混色も必要最小限度することにしました。











ヴェネチア (P10号)



まだまだ印象派の手法には達していませんが、絵が明るくなり、鮮やかな色を効果的に扱えるようになったと思います。よりシスレーのような絵に近づけるには、点描で絵具を重ねて中間色を作る練習をすること、そして何よりも自然を前にして制作することが必要です。そこには、理論や思考だけでは解決できない問題の答えと、絵を描く喜びと感動があるはずです。

*参考文献

・Paul Signac: D'Eugene Dolacroix au Neo-Imprssionnisme.1898
・印象派(L'IMPRESSIONNISME):ジャン クレイ著 高階秀爾訳 中央公論美術出版 1987
・Richard Shone: Sisley (PHAIDON)1992   
 など







2014年10月5日日曜日

米寿の個展まで、あと4ヶ月

イタリア 「アルベロベッロの街並み」制作


来年2月の米寿の個展を目標に制作に励まれているFさんの近況を紹介します。

個展には80歳と83歳の時に、お一人でヨーロッパを旅されて取材してきた風景画が中心になるそうです。


週1回(2時間半)の受講で、ご自宅で半分ぐらい描いた絵を持ってこられて、教室で仕上げをおこなっています。










オーストラリア 「ザルツブルクの家」制作


個展までの目標枚数は30枚だそうで、今年に入ってからハイペースで制作されています。そのバイタリティーは、驚異的です。

スイス 「マッターホルン」制作
イタリア 「ヴェネツィア」制作


ご自身で撮ってきた写真から現場のイメージを蘇らせて制作されていますが、私たちは、おもに構図や色使いや絵具の扱い方からアドバイスをしています。



その中から最近描かれたものを紹介します。

場所は、フランスのエクス・アン・プロヴァンスの駅前の風景です。

















8割方ご自宅で描かれていましたが、絵具が薄く発色が悪かったので、もう一度全体的にパートをつけて色をおいていきました。

またカメラのレンズによる垂直・水平線の湾曲した歪を、遠近法の理論に基づいて修正しました。









フランス 「エクス・アン・プロヴァンス」 P10号




ヨーロッパの町ならどこにでもありそうな風景ですが、Fさんが絵にしたら、構成的で、明暗や色のコントラストとバランスが魅力的な作品になったと思います。単なる情景描写ではないFさんの表現意思が感じられます。







個展まで残すところ4か月となり、目標の枚数まであと数枚になりましたが、少しでも良い作品になるように、これからもサポートしていきたいと思います。