今回はサイトサイズについて、その制作例を紹介しながら考えてみたいと思います。
制作者のY.mさんは、アトリエラポルトに来てから初めて絵を学ばた方です。会社勤めをされながら通われて約1年半が過ぎ、現在はサイトサイズでグリザイユを練習しています。
サイトサイズの方法については、すでに当ブログで説明していますので詳細は省きますが、その趣旨は「見比べて描く事」と言えるでしょう。写実的な絵のトレーニングとしては、初心者の方にも分かりやすく上達の早いやり方だと思います。
近年、シャルル・バルグの手本集が「ドローイングコース」という題名で翻訳出版されてから、日本でも知られるようになった方法です。
ジャック・サリー作 少女像 水彩紙に木炭 540×380 |
陰影をつけて、石膏像の形とそれが置かれている空間を再現する目的で描いたデッサンです。サイトサイズはこのような表現に向いています。
まず画材面から考えると、日本で広く使われているヤナギ木炭とMBM木炭紙は、このような濃く滑らかに陰影を追いながら細部を描き込んでいくデッサンには向きません。
クリ、ハン、ホウ、ミズキなどの硬目の木炭の使用と、目が細かくて木炭の定着の良い紙を探す必要があります。この作品では水彩紙を使いましたが、メーカーの使用目的に拘らずに、木炭に合った紙を探してみることをお勧めします。
クリ、ハン、ホウ、ミズキなどの硬目の木炭の使用と、目が細かくて木炭の定着の良い紙を探す必要があります。この作品では水彩紙を使いましたが、メーカーの使用目的に拘らずに、木炭に合った紙を探してみることをお勧めします。
制作にあたっての注意点は、サイトサイズは形や明暗を捉えやすいのですが、その分、単なる現実の引き写しになりがちです。クラシックなデッサンの目的は、あくまでも対象の正確な形とボリュームを表すことを前提としています。現象的な明暗を追うことで形が曖昧にならないように解剖学を踏まえた整理と選択が必要です。
例えば、左の拡大画像を見ると、暗い背景に接する光の当たった明るい輪郭側からも(頬やおでこなど)各形態のハイライトに向かってデリケートにモデリングされているのが分かります。(現実は暗い背景にスポットライトの強い光で輪郭が最も明るく感じます。)
また、影の中の反射光も実際より暗く抑えることで、ボリューム感が損なわれないように調整しています。
アトリエラポルトでは、基礎のデッサンを学ぶ際は、まず遠近法の理論に基づいた「枠」(窓)を使ったデッサンから始め、現実空間の明度(Valeur)を表す段階になってから、サイトサイズをおこなうようにしています。
次回は、Y.mさんのサイトサイズによる油彩グリザイユを紹介します。