2015年3月30日月曜日

初めての油絵

アトリエラポルトの近くの会社にお勤めのT.eさんは、仕事帰りの金曜日に夜間の部(18:30~21:00)を受講されています。

約1年間デッサンを学ばれて、いよいよ油絵に入られました。

初めての油絵なので、画材の説明をしながら、デッサンの延長線上としてのグリザイユの制作をお勧めしました。



まずは油絵具に慣れるのを最優先に考え、使用する絵具は、シルバーホワイトとアイボリーブラックだけにして、形と明暗の再現に集中して制作できるようにしました。



大きな明暗関係ができた段階です。ここまで来るのに4ヶ月かかりましたが、ご本人の希望もあって、納得いくまで描き続けて頂きました。












静物グリザイユ (F8)



約半年かかって仕上がりました。
初めての油絵とは信じられない程の出来栄えです。

これには、絵具、溶き油、筆の扱い方など技術面のアドバイスだけではなく、T.eさんの失敗しても諦めずに、一つ一つのモチーフを丁寧に見て描き表わそうとする姿勢にあったと思います。







画面全体の明暗関係から細部の描写まで、実によく描き表わしています。この制作を通じて画材の扱い方も十分習得されたように思います。

次回の作品も楽しみにしています。

2015年3月18日水曜日

究極の石膏デッサンを目指して

昨年9月からアトリエラポルトに来られているM.kさんは、すでに若い世代の写実系画家の一人として活躍されています。

美大時代に習った石膏デッサンと違う、アトリエラポルトの描き方に興味を持たれて学ばれています。

今回M.kさんは難度の高い「髭の男」を選び、究極の石膏デッサンを目指して挑まれましたので、その制作過程を紹介します。


まずは、形を大きく直線的に捉えていくことから始めました。


徐々に内部の細かい形に移っていきます。

この石膏像は、髪や髭などが非常に細かく作られていて描くのが大変ですが、陰影でごまかさず線で徹底的に形を描くようにアドバイスしました。

線で形を取り終えたら影をつけていきます。明部と暗部に大きく分け、暗部全体的を一方向からのハッチングで明度を落します。

暗部の形からモデリングして、明部に移っていきます。
背景を描かないデッサンでは、明部のモデリングは、見た印象よりかなり明るくデリケートに行なわないと、黒いブロンズのようになってしまうので注意が必要です。

石膏デッサン「髭の男」 (650×500) 画用紙に鉛筆


部分

30時間以上かけてじっくりと制作に取り組んだだけあって、素晴らしい石膏デッサンになりました。現象的な陰影に惑わされずに、大きな形から小さい形まで的確にボリュームを表しています。明暗の組み合わせも造形的に配慮されていて、石膏の輝きを感じさせます。

明部のモデリングが多少強く見えますが、基礎のデッサンでは無骨になっても、これくらい徹底的に形を追っていった方が良いと思います。





セザンヌの人体デッサン








例えば右のセザンヌのデッサンのように、西洋のアカデミックなデッサンは、驚くほど「存在する形」にこだわって描いています。日本のデッサン教育に欠けている視点ではないでしょうか?















2015年3月9日月曜日

落合周辺 佐伯祐三と中村彝のアトリエ

今回の散策は、新宿区落合にある佐伯祐三と中村彝のアトリエを訪ねてみました。
落合周辺は、大正時代から多くの文化人が住んだ地域で、現在新宿区がゆかりの場所を保存し公開を進めています。

佐伯祐三(1898~1928)のアトリエは、佐伯が大正10年(1921年)に建てた同じ場所に同じ形で、2010年に復元されました。

最寄の駅は、西武新宿線の下落合で、聖母坂通りを10分ほど歩いて行くと聖母病院があり、その裏手に位置しています。右のような細い路地の奥で、佐伯祐三と妻米子の生活が偲ばれます。

元の敷地全体が公園として開放されていて、その中にアトリエが建っています。

近づいてみるとアトリエの瀟洒な佇まいに驚かされます。















実際に佐伯がこのアトリエで制作していた期間は4年余りに過ぎませんでした。佐伯がパリで客死してからは、日本に戻った妻米子が昭和47年(1972年)まで、ここで絵を描きながら暮らしていたそうです。





残念ながら佐伯の絵はありませんが、当時の雰囲気が身近に感じられる貴重な空間です。















新宿区立佐伯祐三アトリエ記念館
新宿区中落合2-4-21
開館時間:10:00~16:00(月曜日休館)
入場無料

佐伯祐三のアトリエから目白駅方面へ15分ほど歩いたところに中村彝(1887~1924)のアトリエがあります。



元のアトリエは、生まれ故郷の水戸市の茨城県立美術館に移築されていて、ここにあるのはイーゼルや家具を含めてそれを復元したものです。

佐伯のアトリエ同様、その立派なことに驚かされます。

大正5年(1916年)に新築し移転してきた彝は、亡くなるまでの8年間をこのアトリエで過ごします。

ほとんど野外で制作した佐伯と違って、病弱だった彝にとっては、このアトリエが制作の世界でした。残された彝の作品を見ると、このアトリエのどのあたりで描いていたのかを想像することができます。代表作である「エロシェンコ像」もこのアトリエで制作されました。



新宿区立中村彝アトリエ記念館
新宿区下落合3-5-7
開館時間:10:00~16:30(月曜日休館)
入場無料







そのほか、佐伯のアトリエから彝のアトリエに向かう間に、浮世絵版画の制作で有名なアダチ工房のギャラリーがあったり、目白駅近くには古楽器専門店のギタルラ社があったりと休日の散策にはとても面白い地域です。








2015年3月3日火曜日

基礎デッサン 1

今回は、昨年7月からアトリエラポルトに来られているM.wさんの作品を紹介します。
家事と仕事の合間を縫って、基礎デッサンから学ばれています。



すでに他の教室で勉強されていらしたので、アトリエラポルトでは、主に対象の見方や捉え方についてアドバイスしています。












白いオブジェによる鉛筆デッサン(530×450)


白いオブジェによる鉛筆デッサン(530×450)

上のデッサン部分


始めに描いた静物デッサン2点です。白いモチーフを使って、おもに形とモデリングについて学んで頂きました。モチーフ固有の明度に惑わされることがないので、形が明確に表現できたと思います。ボリュームも質感の違いも良く出ています。











石膏デッサン 鉛筆(530×450)


上のデッサンの部分


石膏像デッサンの1枚目は、少女の胸像です。シンプルな形ですが、頭の傾きや顔の表情がとても難しい像です。

影の分量を増やして、明暗のコントラストのはっきりしたデッサンになりましたが、顔の正面が影側になるように照明をセッティングしたことが、かえって目鼻などの形を捉え難くしてしまったようです。














石膏デッサン 鉛筆(530×450)


上のデッサンの部分


2枚目は、フレンチ少女に挑戦されました。全体の形やボリュームはよく捉えられています。これに表情がもう少し似てくると、もっと良いデッサンになったと思います。




現在M.wさんは、中間色の紙に明暗を付けたデッサンを制作中です。油絵を描くまでにはまだ時間がかかりますが、一歩一歩段階を踏んで進んで行くことが、結果的に上達の近道だと思います。