2015年9月30日水曜日

空気遠近法

今回は、距離感(奥行き)を表す方法について考えてみたいと思います。

西洋絵画における距離感のベースは言うまでもなく線遠近法ですが、これに明暗のコントラストの変化と色合いの変化を加えたものが空気遠近法(Aerial Perspective)です。特に風景画などの広大な空間を再現するには不可欠な方法です。

“Cours de Peinture par Principes”
Roger de Piles 1708

そこで、ロジャー・ド・ピル(Roger de Piles 1635~1709)の本をヒントに、なんとか教室で空気遠近法の練習ができないものか試してみた例を紹介します。





ド・ピルは、17世紀フランスの代表的理論家で、色彩と明暗法に関する考え方はアカデミーの絵画に大きな影響を与えました。

右は著書からの挿絵で、球体が遠ざかるに従って光と影のコントラストが弱まり、輪郭もボケていくことが説明されています。また,まとまった時とバラバラになった時の光と影の付き方の違いが示されています。










実際のモチーフも上の挿絵と同様に葡萄を使って、左のようなセッティングを考えました。手前から右奥に向かって暗くなっていくように照明をしています。




制作は、画家を目指して修行中のK,hさんが試みました。

木炭でデッサンを取ってから、薄く溶いたバーントアンバーで明暗をつけた後は、ダイレクトペインティングの手法で、一気に色を置いていきました。











葡萄のエチュード (M6号)



葡萄自体がかなり明度が低かったので、明暗のコントラストによる奥行きの変化をつけるのに苦労されました。
例えば1番手前の葡萄に対して2番目は、白を加えて明るくすることで彩度を落としていますが、3番目は暗くすることで彩度を落としています。
絵画表現としてはこれで良いと思いますが、本来の空気遠近法ではド・ピルの挿絵に見るように、手前から順番に明るくするか暗くした方が、より自然な奥行きを感じさせられます。セッティングを含めたこれからの課題だと思います。







2015年9月23日水曜日

作品の紹介 8  裸婦デッサン

今回はアトリエラポルトの講師の描いた裸婦デッサンを紹介します。


使用した画材

・キャンソン社製のミタント紙
・チャコール鉛筆の白と黒
・チョーク
・擦筆
・セーム革
・紙やすり(チャコール鉛筆の芯を尖らせる為に使用)









裸婦デッサン (550×370)





裸婦デッサン (550×370)





裸婦デッサン (550×370)



2015年9月16日水曜日

三原色から始める

アトリエラポルトに入ってから約1年半、週1回の受講で基礎デッサンからグリザイユへとステップを踏んで勉強されてきたK,rさんが、いよいよ色を使った油絵に進まれました。その制作過程を紹介しながら三原色の描き方について説明したいと思います。


アトリエラポルトでは、初めて色を使って描く方には三原色に基づいた最小限度の絵具での制作を薦めています。
鮮やかな色合いの絵にはなりませんが、明暗法に基づく現実空間の再現の練習には適した方法です。









使用する絵具は、イエローオーカー、レッドオーカー、ウルトラマリンを選びました。これに明度の変化を付けるためにシルバーホワイトとバーントアンバーを加えます。バーントアンバーは黒の代わりで、理論どおりに黒絵具を使うと色のニュアンスの乏しい絵になりやすいので避けています。



まずは、薄く溶いた褐色調の色合いでデッサンをなぞり、影を付けていきます。










次に三原色に白を加えたパートのある(バターのような)絵具でモチーフの色と明度を探していきます。

最初は混色理論にこだわらず自由に絵具を混ぜて、どんな色になるか発見しながら描くことが大切です。意外にいろんな色が出来るので驚かれると思います。







仕上げに近づき色の鈍さが気になりだしたら、レモンイエローやカドミウムレッドなどの鮮やかな絵具を加えて調整します。

細部を描き始めるとそこだけ色が飛んだようになりやすいので、時々モチーフと絵を並べて、離れた位置から全体を見比べることが必要です。














三原色による静物画 (F6号)




週1回の受講で約4ヶ月かかって仕上がりました。

途中でかなり色が暗く沈んでしまった時がありましたが、諦めずに制作を続けられて、最後は三原色で描いたとは思いえないほどの明るくて柔らかなトーンの絵になりました。初めて油絵具の色を使ってこれだけ描けたら言う事ありません。



デッサンからグリザイユへときっちりと段階を踏んで学ばれてきた上に、K.rさんの明度に対するデリケートな感性が加わった成果だと思います。

額装してお部屋に飾られると素敵ですよ!



2015年9月6日日曜日

究極の石膏デッサンを目指して再チャレンジ

前にブログ(2015年3月18日)で紹介したN.kさんが、もう一度究極の石膏デッサンを目指して制作されました。石膏像も前回と同じ「髭の男」です。


まずは直線で対象の形と構造を徹底的に探していきます。
このような捉え方は一見無骨で遠回りの作業のようですが、形の変わり目やアクセント、線の長短の組み合わせが明瞭に意識できるようになり、曖昧な形になるのを防ぎます。

暗部から描いていきます。

明部を囲むように暗部を配置するような意識が大切です。そうすることで白い背景から白い石膏像が浮き上がって見えてきます。

暗部が決まったら、明部のモデリングに移ります。

明部の白さ(明るさ)を保ちながらモデリングするには、現実の印象より明るくデリケートに行なう必要が生じます。


















全体のコントラストを前後関係や奥行きに従って調整しながら、細部を描き込んでいきます。















「髭の男」 画用紙に鉛筆 (650×500)






週2回(5時間)の受講で約2ヶ月半かかって完成しました。

すでに若い世代の写実系画家として活躍しているN.kさんだけに、素晴らしい出来栄えの石膏デッサンになったと思います。

まさに「究極の石膏デッサン」と言いたいところですが、若干首から肩にかけて落ちている髭の影が強過ぎます(特に輪郭)。結果として、顔や髭の美しいレリーフを目立たなくしています。

人口光線を使うと実際にこのように見えるのですが、絵の中では、「最も美しいところが、最も美しく見えるように」コントラストを微妙に調整しなければなりません。それが作者の表現となっていくのだと思います。




とは言え、これだけの石膏デッサンを目測で描くのは大変な技術です。自信を持ってこれからの制作に挑んでいって下さい。