2018年8月27日月曜日

水辺を描く

今回は、水辺の風景を描いた作品を紹介します。

制作者のM.tさんは、定年後本格的に絵を学ばれた方です。お住まいの近くで取材されてきて、教室で油絵にしました。

水辺の風景は、古くは17世紀のオランダ派のロイスダールやゴイエンが好んで描き、最もポピュラーなところでは、印象派のモネやシスレーを上げることができるでしょう。

Jacob van Ruisdael (1628ー1682)
Jan van Goyen (1596-1656)









Claude Monet (1840-1926)
Alfred Sisley (1839-1899)



技術的な面では、水の透明感や地上の風景の映り込み、そこを照らす太陽光のキラキラした輝きをどう表現するかが課題でしょう。




映り込みは、遠近法に従うと陸地と水面の境に対して、同じサイズで反転するのが原則です。










Valenciennes:Elements de perspective pratiqueより


また、太陽光の輝きを追求した印象派の画家たちは、補色や反対色のタッチを並置して、色収差による「目のちらつき」を利用して表そうとしました。




シスレー:サン=マメスのロワン川より







さて、M.tさんの制作ですが、色彩効果を考えて青色(ウルトラマリンとコバルトブルー)でエボーシュを試みました。

青色は暗くすると彩度が上がるので、感覚的には難しいやり方ですが、上に置かれる固有色と対比されることで色彩的な効果を狙いました。









出だしは、青色が強すぎて苦労されましたが、コツコツ不透明な固有色を塗り重ねていって、次第に現実の印象にちかくなってきました。
















水辺の風景(P10号)

構成感のあるがっちりとした絵になったと思います。
下描きの彩度の高かった青色を抑えるために、暖色を塗り重ねていったせいか、出来上がった絵は、暖かい光を感じる穏やかな色調になりました。
ただその為に、水面の映り込みが暗く重たくなったのが残念です。
現実はもっと透明感のあり、光の反射で輝いていたことでしょう。次の作品のためにも、できれば現場に絵を持って行かれて、見比べてみると良い勉強になると思います。


2018年8月8日水曜日

本の紹介 アルベルティ「絵画論」

左:1977年版 右:2011年改定新版

前回のブログでグリッド(碁盤状の升目)を利用した遠近法に基づくデッサンを紹介しましたが、それに関連して、今回はアルベルティ「絵画論」(三輪福松訳 中央公論美術出版 初版1971年)を取り上げます。原本は1435年にイタリアのフィレンツェで書かれました。




"De la Peinture"
Jean Louis Schefer 訳 Paris 1992

アルベルティ(Leon Battista Alberti,1404-1472)は、まさにルネサンスの人文学者を代表する人物で、その多肢に渡る教養と活動はルネサンス時代の理想像「万能の天才」として伝えられています。

後世に多大な影響を与えた著書も残し、その主なものは現在では日本語訳で読むことができます。
紹介する「絵画論」以外では、次のものがあります。
「建築論」 相川浩訳 
      中央公論美術出版 1982年
「芸術論」 森雅彦訳 
      中央公論美術出版 1992年
「家族論」 池上俊一・徳橋曜 
      講談社  2010年




特に「絵画論」(De pictura)は、ルネサンスに始まる新時代の西洋絵画の方法論を示した記念碑的な著作です。

内容は3巻に分かれています。

第1巻と第2巻は、おもに幾何学的遠近法と絵画の構成要素ついて論述。
第3巻は、技術論を越えて画家と作品はどうあるべきかについて述べています。

その内容についての解説は、その後多くの研究者が試みてますが、ここでは1992年にフランスで出版されたシェフェル訳に載っている作図を見てみます。












実際の作図法についてはここでは触れませんが、このように遠近法が生まれた当初から、グリッドを使った遠近法が考えられていたのが分かります。

グリッドを遠近を測る尺度として使用する方法は、その後「画家の遠近法」として発展し、西洋絵画の中で頻繁に表れます。

ボッティチェリ
ベラスケス








フェルメール

ティントレット















幾何学的遠近法は、単なる空間表現の手段ではなく、西洋の文化と言えるほど重要なものです。アルベルティの「絵画論」はそのさきがけで、西洋絵画を理解する上で欠かせない本です。

アトリエラポルトでは、このような方法論を今のデッサン教育の中に取り入れられないかと、試行錯誤しています。