現在K.hさんは、明暗法による形体と空間のリアルな表現のエチュードを繰り返し試みています。
明暗法(Clair-obscur)は、レオナルド・ダ・ヴィンチが遠近法に明暗の変化を論理的に結びつけたことによって確立され、西洋絵画のリアルな表現の基になったものです。
今回の作品は、暗い背景に明るいピンク色のバラというコントラストの強い設定で、銀色のゴブレットが双方つなぐ重要な脇役という構成になっています。
バーントアンバーで背景の明度から決めていきました。
技法的にはダイレクトペインティングの手法で描いています。キャンバスはクレサン社製の66番中目をそのまま使っています。
背景とテーマのバラの明度関係がほぼ決定された段階です。このコントラストをベースにテーブル、そしてゴブレットの明度を考えていきました。
バラ F4号 |
アトリエラポルトに通われて約2年。それまで油絵をまったく描いた事のなかったK.hさんですが、勉強の成果が良く表れた作品になったと思います。
シンプルな構図ですが、その分作者の意図が明快に感じられます。特にモチーフに当たった光の輝きの表現は特筆すべき点です。
ただ中目のキャンバスに直接描いている為、背景など暗くて絵具層の薄い部分が、布目の凹凸で照明が乱反射して見づらくなってしまってます。
地塗りをして布目を潰すなど、マチエールの工夫が加わると一層良くなるでしょう。
*注釈
明暗法=キアロスクーロ:CHIAROSCURO(伊)、クレールオブスキュール:CLAIR-OBSCUR(仏)
グリザイユのように完全に明暗だけの単色の絵画や版画を言い表す場合もあるが、ここではド・ピール(R.DE.PILES,Cours de la peinture par principes.1708)の定義に基づいた明暗法を指す。
「目に安らぎと満足を与え、またそれと共に全体の効果を高める目的で、絵の上に現れるべき光と影を、有効に配置する技術のこと。」
「明」(clair)という言葉が、光に直接さらされたものばかりでなく、本来の性質からして明るい色すべてを意味していること、また「暗」(obscur)という言葉が、本来的に褐色(暗色)を帯びたすべての色、例えば暗いビロードや茶色の織物、暗い馬、黒光りする甲冑など、どんな光のもとでも本来誰の目にも明らかな暗さを保っている物も意味していることを知る必要がある。」
以上を踏まえた上で、遠近法に従った適切な距離感(奥行き)を明暗のコントラストと配置によって対象に与えること。