2015年2月23日月曜日

三原色で描く


今回は、デッサンからグリザイユと一歩ずつステップを踏んで学ばれてきたK.yさんが、初めて色を使って描いた作品の制作過程を紹介します。

アトリエラポルトでは、グリザイユのようなモノクロームの絵から、対象の色の再現に移る過程として、三原色に基づく限られた絵具による制作を薦めています。鮮やかな対象の色は出せませんが、絵具の混色原理を知り、グリザイユで学んだ明暗法に従った色の調和を得るのに適した方法だからです。


ここでは、黄色にイエローオーカー、赤色にレッドオーカー、青色にウルトラマリンを使いました。明度の調整は、シルバーホワイトとバーントアンバーでおこないます。バーントアンバーは黒の代わりで、理論通り黒絵具を使うと非常にくすんだ絵になりやすいので避けています。



まずは背景から描いていきます。色を似せるというよりも明度を合わせる意識が大切です。

右のようにアトリエラポルトでは、初心者の方には、絵具の塗り重ねによる効果や美しいマチエールを作るといった古典絵画のテクニックよりも、混色原理を説明しながらパレット上で対象の色を作り、直接キャンバスに置いていくダイレクトペインティングの方法を取っています。その方が対象の実感を捉えやすく、上達も早いと思うからです。


周囲の明度と色合いが決まった段階で石膏を描きます。石膏の白さと輝きを出すのが難しいところです。

全体のバランスを考えながら描き込んでいきます。














石膏像のある静物 (P8)



初めて色を使った油絵としては、まずまずの出来栄えだと思います。やはりデッサンやグリザイユをしっかり学んだ成果が表れています。三原色で描いているので鮮やかな発色の絵ではありませんが、明暗法に従った破綻のない色使いになっています。

ただ部分的には寒暖のモデリングやニュアンスが表われていますが、画面全体から見ると石膏像が冷たくなってしまったのが残念です。次回は構図を決める際に、全体の色彩計画も考えてみると良いでしょう。

2015年2月14日土曜日

展覧会のご案内 【伏木寛道 米寿絵画展】


このブログでも制作経過を紹介してきた(2013年3月6日・2014年10月5日のブログ)伏木寛道さんの米寿絵画展がいよいよ始まります。 

期間:2015年2月17日(火)~22日(日) 
      11:00~18:00(最終日は16:00迄)

場所:京橋 ギャラリーくぼた 1階 
         東京都中央区京橋3-7-11 ℡:03-3563-0005

    *この展覧会は、盛況のうち無事終了致しました。







伏木さんは、60歳を過ぎてから本格的に油絵を始められたそうです。風景画を中心に制作されていて、画題を求めて国内はもとより海外まで取材旅行をされています。3年前からこの個展を計画たて、すべてご自分で準備をされてきました。アトリエラポルトで仕上げられた作品も多数展示される予定です。



1枚1枚丁寧に描き上げた油彩作品は、「絵を描く」「描ける」喜びと幸せに溢れています。

お時間のある方は、是非ご覧頂きたい展覧会です。

2015年2月3日火曜日

寒暖のグリザイユの作品への応用

2014年12月7日のブログで、グリザイユにおける寒暖のニュアンスについて(ニュアンスのシンホニー)説明しましたが、今回はその作品への応用を考えてみたいと思います。

アンリ・バルツの本(Grammaire de dessin. Henry BALTH 1928)を参考に、E.f.さんにご協力を頂いて、佃島に取材された風景画を元に2種類の単色画を描いてもらいました。












1枚は、青系統による単色画で「青のニュアンスによるシンホニー」とバルツが呼ぶ方法です。

使用した絵具は、コバルトヴァイオレット、セルリアンブルー、コバルトブルー、ウルトラマリンで、これに彩度の調節にランプブラック、明度の調整にシルバーホワイトを加えました。コバルトヴァイオレット、セルリアンブルーが暖か味の青、ウルトラマリンが最も冷たい青になります。これを空間の前後関係や光と影に合わせて使い分けていきました。





佃島 (青のシンホニー) M4


もう1枚は、赤系統の単色画で「赤のニュアンスによるシンホニー」です。


使用した絵具は、ネープルスイエロー、イエローオーカー、ブラウンオーカー、ローシェンナ、バーントアンバーにシルバーホワイトです。バーントアンバーをベースに近景や明部にレッドオーカーからネープルスイエローに向かう温か味のある絵具を加えていきました。





佃島 (赤のシンホニー) M4
このようにグリザイユなどの単色画においても、「冷たい・暖かい」の変化を適切に付けることで、より一層空間感や光の輝きを表すことが可能になります。西洋では古くからおこなわれてきた方法です。

次にこの手法の応用例を巨匠の作品から見ていきます。





最初の2点は、ホイッスラーのノクターンシリーズからのものです。手段と目的が一致して素晴らしい表現効果を生んでいます。







次の2点は、ピカソの青の時代からのものです。空間的には、奥行きの浅い作品ですが、暖かい青と冷たい青の使い分けが見事にボリュームと前後関係を表しています。







暖系統を使った例では、やはり右のホイッスラーの作品が上げられます。このようにホイッスラーの作品は、一見写実的に見えますが現実の色の再現と言うよりも、明らかに意図的に色合いを作り、象徴的は表現効果を狙っているのが分かります。





また、ピカソの「ばら色の時代」の作品群は、その卓越した例と言えるでしょう。






最近の例は、カトランの作品に見ることができます。右のバラの絵は、背景の紫よりに寄った冷た目の赤に対し、バラのオレンジに寄った赤が、上のピカソの作品と同様の空間的効果をあげています。