2021年12月16日木曜日

「初めての油絵」の動画の3回目

「初めての油絵::グリザイユで静物を描く」の最終回をYouTubeにアップしました。
制作は1日1コマ(2.5時間)で9日間で終わりました。その最終日を早送りにしてまとめた動画です。
デッサン(形)から現実の明暗(value)の再現への過程を見て頂ければと思います。





*スマホでご覧の方で動画画面が出ない場合は、ウエーブバージョンにするとご覧頂けます。

 


グリザイユ (M6:410×242)キャンバスに油彩




2021年12月4日土曜日

久しぶりの油絵

今回は、コロナ禍で長らく休まれていたKさんの復帰後の第1作を紹介します。 久しぶりの制作なので、遠近法の枠を使ってデッサンをしてから油彩に入りました。



この挿絵は、20世紀の前半にパリの美術学校で遠近法を教えていたオルマの著書( P.Olmer: Perspective artistique.1943)からのもので、アトリエラポルトではこの方法をデッサンの授業に取り入れてます。遠近法の枠の設置は、単に形が取りやすくなるばかりではなく、遠近法の原理を理解するのに役立ちます。

油絵に入る前の段階としてのデッサンなので、モチーフの形をメインにして現実の明度(value)の再現はしていません。

画用紙に鉛筆
(転写できるようにキャンバスと同じサイズの紙にデッサン)




花とぶどうのある静物(F4号)




久しぶりの油絵で修正を繰り返しながらの制作になりましたが、モチーフを見ながら真摯に描き込まれた良い作品になったと思います。ただ絵具の混色に戸惑いがあったせいか、発色が鈍いのが気になります。最小限の色数を混ぜて目的の色が出せるように心がけると良いでしょう。


2021年11月17日水曜日

「初めての油絵」の動画の2回目

 「初めての油絵:グリザイユで静物を描く」の2回目をYouTubeにアップしました。

今回は転写したデッサンに白と黒の油絵具で明暗を着けていきます。使用絵具は、シルバーホワイトとアイボリーブラック、キャンバスはクレサン社の66番です。

最初は明暗を大きく3~5段階に塗り分けていきます。その過程と方法が参考になれば幸いです。



*スマホでご覧の方で動画画面が出ない場合は、ウエーブバージョンにするとご覧頂けます。



2021年11月4日木曜日

初めての油絵:グリザイユで静物を描く

 アトリエラポルトの受講生の制作過程を動画にしてYouTubeにアップしました。

今回のテーマは、「グリザイユで静物を描く」で3回に分けて配信します。

グリザイユにはさまざまな方法がありますが、アトリエラポルトではデッサンの延長線上として授業に取り入れてます。グリザイユを通して、現実の明暗(Value)の再現や明暗法を学び、油絵具の扱いにも慣れて頂くことを目的としています。

そのために、まずはデッサンをきっちりと描いてから、それをキャンバスに転写して油彩に入る方法をとっています。時間は掛かりますが確実な方法です。

第1回目は、デッサンからキャンバスに転写する過程の動画です。参考にして頂ければ幸いです。



*スマホでご覧の方で動画画面が出ない場合は、ウエーブバージョンにするとご覧頂けます。




2021年10月3日日曜日

レーマー杯を描く

今回は最近アトリエラポルトのモチーフとして購入したレーマー杯を描いた作品を紹介します。作者はアトリエラポルトの中ではベテランのKさんです。


レーマー杯は17世紀のオランダ絵画によく現れるワインを飲むためのグラスで、握るところに滑らないように凹凸があるのが特徴です。

モチーフのレーマー杯は珍しい特大サイズ(高さ26.5㎝)の物で、回し飲みに使うグラスのようです。





最初にデッサンを顔料フェルトペンを使ってキャンバスに定着します。



カッセルアースで明暗を付けた後、シルバーホワイトで明部を描き起こします。
この時、着色層の発色を良くする為に、現実の明度よりもかなり明るめにします。



モノトーンで明暗を付けたら、固有色をおいていきます。



絵具の透明な層と不透明な層を交互に塗り重ねながら現実の色合いに近づけていきます。






レーマー杯のある静物(455×273)



約20時間で完成しました。週に1度の受講なのでその間に絵具が中途半端に乾いてしまい、ツヤ引けがおこったり滑らかなモデリングができなかったりと苦労されました。ルツーセや溶剤の濃度を調整しながら描き込んでいき、結果的には発色の良い絵に仕上がりました。技術的にはうまくいったと思いますが、形や明暗の組み合わせといった構成にもっと工夫が欲しいところです。現実の明度(Valeur)を追う前に、明・中・暗の単純化した明暗の組み合わせで構図を考えてみるとよいでしょう。


2021年9月10日金曜日

面冠女神胸像にチャレンジ

今回は胸像としては難度の高い面冠女神像にチャレンジしたOさんの制作過程を紹介します。

この像は頭部に2つの顔があり、上がメデューサ下がペルセウスと考えられ、ギリシャ神話を基にして作られた像です。アトリエラポルトでは、デッサンから油彩(グリザイユ)に進む目安としている石膏像のひとつです。

まずは遠近法のグリッドと測り棒を使って、徹底的にプロポーションを測ります。




線で形を捉えていくのが基本ですが、髪の毛などの複雑な形はハッチングで僅かにモデリングをしながら描いていきました。



すべての形が線で捉えられてから、大きく明部と暗部に分けて、暗部から描き進めていきます。



暗部が描けたら明部の個々の形を光の方向と前後関係を考えながらモデリングします。
石膏の白さを保ちながらモデリングすることが重要で、非常にデリケートなハーフトーンの扱いが求められます。




完成
面冠女神像(650×500)画用紙に鉛筆





週1回1コマで4か月かけて仕上げました。細部の形までごまかさずに入念に描き込んだ力作です。
全体的にモデリングがもう少しボリュームに従って滑らかになればもっと良くなるでしょう。

このように存在する形をすべて描く基礎デッサンの考え方は、ジュリアンなどの19世紀フランスの手本集に見ることができます。現実の明暗の再現よりも形を重視しているので自然な印象とは異なりますが、西洋のクラシカルデッサンの基本がわかります。

B.R.Julien.(石版画)


アトリエラポルトでは形はデッサンで、現実の明暗(value)の再現は油絵具を使ったグリザイユで学ぶカリキュラムをとっています。 Oさんも次はグリザイユに進んでも良いと思います。

グリザイユ(受講生作品)



2021年8月20日金曜日

本の紹介 「アカデミーとフランス近代絵画」

今回紹介する本は、アルバート・ボイム著「アカデミーとフランス近代絵画」(三元社2005年)です。原本の初版は1971年となってます。(Albert Boime,The academy and french painting in the nineteenth century.1971)



クラシックな絵をお好きになった方は、そのような絵がどうしたら描けるようになるか知りたくなるのではないでしょうか?
もちろん美術館にあるような絵を描いた画家には、たぐいまれな才能があった訳ですが、その背景にあった厳格な教育システムを抜きにしては、その絵は生まれなかったことは言うまでもありません。

しかし日本は西洋のアカデミックな美術教育が崩れ始めた時期に西洋絵画の受容が始まった為か、西洋の美術教育の歴史と内容を知るための資料が極めて少ないのが現状です。その中でこの本は貴重な存在です。19世紀のフランスの美術学校で行われていた授業内容の詳細がわかります。



目次は次のようになっています。

第一章 フランス公認美術の結晶化
第二章 私設アトリエのカリキュラムーその習練
第三章 私設アトリエのカリキュラムーその教師たち
第四章 アカデミックなスケッチ
第五章 実践におけるスケッチ
第六章 模写ーアカデミックな模写
第七章 アカデミックな風景画ーその伝統的手法
第八章 アカデミックな「エチュード」ー生成の手法
第九章 スケッチの美学





近代・現代の絵画はこのような教育方法の否定から始まっていると言われますが、20世紀の初頭までは多くの画家が、程度の差こそあれ同様の教育を受けています。
著者のボルムもマネに始まる近代絵画は、その先生であったトマ・クチュール(Thomas Couture 1815~1879)のエスキースやスケッチの影響から生まれたと考えています。

20世紀の破壊と革新の世紀を経て、21世紀の今、もう一度アカデミックな美術教育について見直したい方にはお勧めの本です。


2021年7月31日土曜日

石膏デッサン:全身像を描く

 今回は、全身像の石膏デッサンの制作例を紹介します。
作者は、九州から単身東京に来られ、働きながら絵の勉強をされているHさんです。

チャレンジした石膏像はサタイヤ全身像で、この像は昔のフランスの美術学校でよく描かれたものです。

日本では全身の石膏像を描く機会はまれですが、パリの美術学校に残されている昔の石膏デッサンを調べると、圧倒的に全身像が多いのに驚かされます。それは人体デッサンへとつなげる教育課程の一部だったと考えられます。

その意味からは、等身大の石膏像が欲しいところですが、入手と保管が困難なため、60㎝大に縮小されたもので描いて頂きました。

パリの美術学校内にあったパレ・デ・ゼチュード(19世紀)






まずは画面中央に垂線を引き、石膏像の中軸と合わせながら直線で形を捉えていきます。



非常に動きのあるポーズの像なので、垂直水平を基準にして斜線の方向や傾きを何度も測りなおし、できる限り正確なプロポーションが捉えられるまでは、陰影は付けないようにアドバイスしました。それは陰影を追い始めると形が曖昧になりやすいからです。全体の制作時間の7割程度はこの過程に費やしました。



線で大きな形を定めてから、光の方向を考えながら個々の形をモデリングします。美術解剖学の本を参考にしながら、現象的な明暗に惑わされないようにして「存在する形」を表していきます。






サタイヤ像(650×500) 画用紙に鉛筆



約30時間かけて仕上げました。
石膏像の明るさを保ちながら、細部までよく描き込んだデッサンです。
単なる目の前にある石膏像の再現だけではなく、ヴァリューの平面上への置き換え方やボリュームの出し方、そして美術解剖学の勉強にもなった石膏デッサンだったと思います。
人体デッサンへの応用を期待します。







2021年7月18日日曜日

コレクション:鹿子木孟郎 風景デッサン

 今回のアトリエラポルトコレクションは、鹿子木孟郎(1874~1941)の風景デッサンです。


鹿子木は、フォンタネージの教えを受けた小山正太郎から西洋絵画の基礎を学び、フランスに留学した後はアカデミーの重鎮ジャン=ポール・ローランス(1838~1921)に師事した画家です。日本人の中で最もきちっとアカデミック絵画を学んだ画家と言えるでしょう。

紙に鉛筆(200×173)

このデッサンは、おそらく1917年の夏にブルターニュ地方を旅行した時に描かれたもので、場所はグーグルアースを使って特定することができました。

サン・マロの城壁

鉛筆で短時間で描かれたスケッチですが、その的確な形と光と影の表現力に驚かされます。

よく見ると、デッサンの上に数字が描かれているのに気づきます。




これは明度の段階を表していると考えられます。
20段階で数字が上がるほど暗くなっています。
例えば、空は2で最も明るく、海が4、城砦が10、船の影が20で一番暗く表記されています。
この事から、鹿子木がいかにヴァラー(Valeurs:明度)を重視していたかが窺えます。

このように明度の段階を数字に置き換えて認識する方法は、西洋ではよくおこなわれていました。

アトリエラポルトの授業で参考にしている文献の中にも、次のようなイラストが載っています。


これは、アンリ・バルツの「デッサンの文法」(Henry BALTH:Grammaire du dessin.
1928)からで、説明文に「下書きの上に明度段階の値を数字にして記入するのは良い方法である。」と薦めています。

短時間で描かれたスケッチですが、鹿子木がローランスや当時のフランスの絵画教育を通じて、対象を明度で捉える方法を学んでいたことが分かる大変興味深い資料です。



2021年6月14日月曜日

顔の描き方


 アトリエラポルトの講師による制作動画をYouTube上にアップしました。

今回のテーマは、「顔の描き方」です。

中間色の紙に白と黒のチャコールによるデッサンで、2時間半の制作時間を10分間に短縮した早送りバージョンの動画です。

顔を描く時は、どうしてもモデルさんに似せることに気を取られてしまい、構造的な形をないがしろにしがちです。この動画では、円を使ってプロポーションを決める方法や、最小限のモデリングで形を表す過程などを見ることができます。

参考にして頂ければ幸いです。

*スマホでご覧の方で動画画面が出ない場合は、ウエーブバージョンにするとご覧いただけます。



ポートレート
ミタント紙に木炭・チャコール鉛筆・チョーク
(420×350)


2021年6月5日土曜日

骨格を学ぶ

前回に引き続き、今回はアトリエラポルトでおこなっている骨格の学び方の一例を紹介します。

制作者は同じくA君で、前回描いたエコルシェのデッサンに、骨格標本や美術解剖学の本を参考にしながら、骨を描き込んでいく方法を試みました。骨格を立体的に把握するのは難しく時間のかかる作業ですが、実践的な勉強方法です。




まずは、完成したエコルシェのデッサンにトレーシングペーパーをあてて、輪郭を写し取ります。



移し取ったデッサンに、骨格標本と美術解剖学の本を見ながら骨を描き込んでいきます。



幸いなことに最近日本では美術解剖学に関する本が多数出版されています。中でもやはりリシェ(Paul Richer:1849-1933)の本は、挿絵の正確さと美しさでお勧めです。(下段左から3冊目)




バメス著「基本の人体デッサン」より
肋骨や骨盤などは細かい骨の変化は省略して、構造的な形(幾何学的な形)で捉えるようにアドバイスしました。




関節の部分など不正確な所も多々ありますが、初めての試みとしては、良くできた方だと思います。現実のモデルさんを描いたデッサンではもっと難しくなりますが、その分デッサンの狂いを内部から考えることが出来るので、上達には必要な過程です。