2020年12月28日月曜日

人物画(コスチューム)の描き方:第6回目(最終回)

 人物画(コスチューム)の描き方の第6回目(最終回)をYouTubeにアップしました。

今回はいよいよ最終回です。

教室での大人数で限られた時間内の制作では、「完成」を目指すより、残された時間でどこまで自分の目的やイメージに近づけるかが勝負です。その過程を見て頂ければと思います。



全6回にわたって民族衣装を着たモデルさんの制作動画を配信しましたが、毎回変化するコスチュームをどのように描くか、また、デッサンをどのように油絵へつなげていくかの参考になれば幸いです。



2020年12月16日水曜日

人物画(コスチューム)の描き方:第5回目の配信

 人物画の描き方(コスチューム)の第5回目をYouTube上に配信しました。

今回は、コスチュームを描き込んでいく過程です。

コスチュームで難しいのは、モデルさんがポーズする度に形や皺が変わることです。

そこで必要となるのが「選択」と「単純化」です。

何度かモデルさんのポーズを見ていると、必ずできる皺と形があるのに気がつきます。

これは描かないといけない皺と形で、毎回変わる皺と形は人体の形を表すのに都合が良いものを選びそれ以外は省略します。

モデルさんを撮影できないのが残念なのですが、今回の動画でそのへんのところが参考になれば幸いです。




2020年12月5日土曜日

アトリエラポルト 作品紹介

 今回は、最近アトリエラポルトで制作されたデッサン作品を紹介します。

作者は20代から40代の方々で、仕事をされながら趣味で始められて方や、画家を志す方などそれぞれの立場で基礎デッサンに取り組まれています。


「女の手」 画用紙に鉛筆


「トルコキキョウ」 ミタント紙に木炭・チャコール鉛筆の白と黒


「ダビデの目」 画用紙に鉛筆


「ギリシャビーナス半面」 画用紙に鉛筆


「ダビデの口」 画用紙に鉛筆


2020年11月29日日曜日

人物画(コスチューム)の描き方:第4回目の配信

 人物画の描き方(コスチューム)の第4回目をYouTube上で配信をおこないました。。

今回は、デッサンを転写したキャンバスにモデルさんを前にしての着彩過程です。

油絵にはいろいろ描き方がありますが、ここでは短時間で仕上げれられるダイレクトペインティングの手法をとっています。


使用絵具:

シルバーホワイ、チタニュームホワイト、ネープルスイエロー、イエローオーカー、レッドオーカー、カドミウムオレンジ、バーミリオン、コバルトブルー、バーントアンバー、アイボリーブラック




2020年11月14日土曜日

人物画(コスチューム)の描き方:第3回目の配信

 人物画の描き方(コスチューム)の3回目をYouTubeで配信をおこないました。

今回は、完成したデッサンをキャンバスに転写する過程です。

転写にはさまざまな方法がありますが、ここではトレーシングペーパーを使った最もオーソドックスなやり方を説明しています。

キャンバスに直接デッサンをする方も多いと思いますが、デッサンを重視するアトリエラポルトでは、受講生にもこのやり方を薦めています。




2020年11月8日日曜日

コレクション:19世紀のエスキース


 今回のアトリエラポルトのコレクションは、19世紀におそらくローマ賞コンクールに関連して描かれたと考えられる油彩エスキース(下絵)を紹介します。







「トゥッルスの家のコリオラン」 作者不明(320×250)


大きさは4号ほどで、テーマはローマ時代の英雄コリオランの物語の一場面を描いたものです。


古くから画家の登竜門として知られるローマ賞コンクール(フランス)の資料を調べると、1827年にフランソワ・グザビエ・デュプレ(Francois-Xavier Dupre)が同じテーマで受賞しています。

この時の受験生のデッサンの中に同じような構図を見ることができます。

ローマ賞の最終審査は油彩による歴史画で行われてきましたが、そこに至るまでにデッサンから油彩エスキースの過程を踏まえることが義務付けられていました。今でもパリの美術学校には膨大な量のデッサンと油彩エスキースが残されています。



日本では西洋画の受容が印象派から始まった為に、このように構想をデッサンにし、油彩エスキースでより具体的な表現へと高めていく教育方法が、ほとんどおこなわれてこなかったと思います。


アトリエラポルト所蔵の油彩エスキースは、昔日のアカデミックな美術教育の名残を伝えてくれています。

余談になりますが、このエスキースは過去に修復を受けています。


釘で打たれたキャンバスは裏打ちのもので、その上に目の細かいオリジナルのキャンバスを貼り付けています。画面のひびの状態から、巻いて保存されていたのかもしれません。


木枠もその時のものだと推測できますが、現代の木枠と作りが違うのがよく分かります。
画材を考える上でも貴重な資料になっています。


2020年11月1日日曜日

人物画(コスチューム)の描き方:第2回目の配信

 人物画(コスチューム)の2回目をYouTubeで配信をおこないました。

今回は、中間色の紙に描くデッサンが完成します。

中間色の紙に、黒(木炭、チャコールペンシル、コンテなど)と白(チョーク、パステルペンシルなど)で描くデッサンは、短時間で形とボリュームを表すことができます。

その描き方の一つの例として、見て頂ければと思います。




2020年10月26日月曜日

アトリエの道具と画材:デッサンのための測り棒

今回の「アトリエの道具と画材」は、アトリエラポルトで考案したデッサン用の「測り棒」を紹介します。

対象を正確に再現する事を目的とした基礎デッサンでは、まずは徹底的に「測る」ことが必要です。そこで昔からさまざまな方法や道具が考えられてきましたが、そのもっともシンプルで誰もが使うのが、測るための棒です。
細くてまっすぐな棒ならなんでもよく、竹ひごや編み棒、自転車のスポークや長めの鉛筆でもかまいません。

次の挿絵は、1888年に出版されたエドモンド・ヴァルトンの「デッサン」からのものです。
(Edmond Valton:LE DESSIN 1880)


そこで問題となるのが測り方です。
通常はヴァルトンの挿絵のように、腕を伸ばして測り棒を垂直に立てて基準となるパーツ(人物で言えば頭部)の長さを測り、位置を指で固定して他の部分と比較しながら測っていきます。
しかし指での位置決めはずれやすいので、それがもとでデッサンが狂うことがしばしばおこります。

そこで、アトリエラポルトでは、竹ひごに釣り具用のゴム管を通して可動式の目印をつけた測り棒を考案しました。


この「測り棒」だといったん決めた基準が動かずに定規のように使えます。
前回配信した動画の中でも使っているので、ご覧頂ければ測り方が分かると思います。



また目印のゴム管を3つにすることで、現実の基準とデッサン上での基準を分けて作れますし、ジョン・デマーティンの薦める光学縮小方式にも応用できます。

ジョン・デマーティン著「古典に学ぶ人物デッサン」より

ちょっとしたことですが、長年デッサンを描き、教えてきた中から生まれたアイデアです。デッサン上達の役に立てば幸いです。


2020年10月17日土曜日

制作動画の公開:人物画(コスチューム)の描き方

 久しぶりにYouTubeを通じて、ラポルト講師による制作過程の動画を公開します。

今回は民族衣装を着た女性がモデルです。

デッサンから油絵の制作まで全6回を隔週で配信する予定です。

参考になれば幸いです。






2020年10月4日日曜日

基礎デッサン


今回は、遥々九州から絵を学びに上京されてきたHさんの基礎デッサンの制作過程を紹介します。

アトリエラポルトでは、基礎デッサンの最初は固有色に惑わされずに形が描けるように、白物のモチーフから始めます。


遠近法の枠を使って形と位置関係を確認した後、個々のモチーフの形を中軸と内接する矩形を基準に捉えていきます。


現実のモチーフ、特に自然の果物などの輪郭は微妙な起伏でできていますが、デッサンの始めはできるだけシンプルな直線と曲線に還元して、その接合によって形体を表すようにします。



現象的な陰影や目の錯覚に惑わされずに、光源の方向を考えながら形のボリュームが出るように陰影をつけていきます。


基礎デッサン 画用紙に鉛筆(530×455)






アトリエラポルトで学び始めてからまだ2~3枚目のデッサンで、質感の表現などに難点もありますが、時間をかけて丹念に仕上げられています。初歩の段階では、できるだけ枚数を描くことも大切ですが、アトリエラポルトでは闇雲に量を描くよりは、時間をかけて見方や描き方が納得いくまで描いて頂くようにしています。


2020年9月15日火曜日

フェルメールのカメラ箱

 今回紹介するのは、文具メーカーのコクヨから学童向けの教材として発売された「フェルメールのカメラ箱」です。

いわゆるカメラオブスクラのペーパークラフトキットで、非常にシンプルな作りですが、その原理を体感することができます。





20㎝位の大きさのケースを開けると、このような厚紙でできた材料とレンズと鏡が出てきます。


説明書に従って組み立てると下の写真のようになります。





A.Kircher, Ars Magna Lucis et umbrae. 1649より

フェルメールと同時代の文献に載っている挿絵と同じような物が出来上がりました。














実際に覗いてみると、このように見えます。


近距離の室内や静物ではボケが気になりますが、遠い風景だと印象派の絵のような感じに見えます。
(ただし左右が逆転して映ります。)






このようなレンズを使った光学器具は、良質なガラスレンズが比較的に安く大量に生産される16世紀頃から発達します。


ディドロとダランベールが編纂(1751~1772)した百科全書にも、レンズと鏡を使った絵を描くための装置が載ってます。



ただフェルメールの時代のカメラ・オブスクラは、被写体深度が浅くレンズの歪みも大きいので、画家がこれを使って絵を描いたかは疑問です。

今回この「フェルメールのカメラ箱」を作ってみて、やはりフェルメールは従来からの線遠近法を基にして描いた上での、見え方(光や陰影など)の補助として使った程度ではなかったかと思いました。


*カメラ・オブスクラの歴史について詳しく知りたい方には、次の本がお勧めです。

 「カメラ・オブスクラ年代記」ジョン・H・ハモンド著 川島昭夫訳 朝日選書



2020年9月4日金曜日

実物を見て描く

 今回は、モチーフを見て描く技術を学ばれているOさんの静物画を紹介します。


Oさんがそれまで学ばれていた絵画教室では、写真から絵を描く指導を受けていたそうです。アトリエラポルトで、改めて絵画の遠近法に基づいたモチーフを見ながら描くデッサンから始められて1年半が過ぎました。

紹介する静物画は、色を使った油絵の2作目になります。





 事前に地塗りをして平滑な下地を作ったキャンバスにデッサンを転写して、バーントアンバーとシルバーホワイトで明暗をつけていきます。この段階で絵全体の明暗(明度)関係や配置を大まかに決めてしまいます。また、着彩時に絵具の発色を良くするために、明部は実際の明度より明るめにしています。



     
背景から明度と距離に順じた彩度で固有色をおいていきます。写真に撮れば固定された色として現れますが、肉眼で見ると視線の移動や周囲の影響を受けて明度や色相が微妙に変化して見えます。それを捉えることが絵の豊かさや実感を生み出します。




背景からテーブルクロスと描き進み、いよいよモチーフの彩色に移ります。
明部から暗部への移行部分の明度と色の変化を、よく観察して再現するようにアドバイスしました。






コロナ禍で長い休みを挟んでの制作になり、ようやくここまでたどり着いた感じがします。
丁寧に描き込まれた、中間色のニュアンスの美しい絵に仕上がりました。
できれば、ポットの実際の色はもう少し明度の低い空色なので、それが加わればより自然な遠近感と色彩感のある絵になると思います。



教室のモチーフには限りがあるので、今後静物画を魅力的な作品にしていくには、自分の好きなモチーフや形を探していかれると良いでしょう。


2020年8月23日日曜日

コレクション:19世紀の人物デッサン

 前回に引き続きフランスの蚤の市で見つけた人物デッサンを紹介します。同じカルトンに入っていたので、同じ作者のものだと思います。



この人物デッサンについては、すでに2016年11月21日のブログで紹介していますし、技法も前回の石膏デッサンと同じなので、今回はこれらのデッサンで多用されている擦筆(estompe)についての考察です。

デッサンを近づいて見ると、非常に滑らかなモデリングによって人体の各部分の形が表現されているのが分かります。


それは木炭やコンテで描いた上から、擦筆で擦り込みながらグラデーションを作っているためです。

現在日本で販売されている擦筆は、紙で作られたものです。



ところが18世紀にディドロとダランベールによって編纂された百科全書では、擦筆はセーム皮(chamois)を巻いて作られていました。(Fig.3)  
この時代はパステル画が盛んに制作されるようになったので、擦筆の需要も高まったと考えられます。



それと似たものがイヴェルの著書に載ってます。(一番右側のもの)
 *Claude Yvel  ”Peindre à I'eau comme les maitres" 2006



擦筆は、こするだけでなく、木炭の粉を先端につけて描くのにも使いました。未完成になっている脚の部分にその痕跡が見られます。


前回の石膏デッサンも含めて、当時の美術学校のレベルとしては、けっしてうまいデッサンとはいえません。それでも19世紀末のアカデミックなデッサンがどのような手段と目的で描かれていたかを知る貴重な資料です。アトリエラポルトでは、受講生のために常に展示して見て頂けるようにしています。
 

2020年8月14日金曜日

コレクション:19世紀の石膏デッサン

今回紹介するアトリエラポルトコレクションは、19世紀後半(おそらく1880年代)にフランスの画学生が描いた石膏デッサンです。

サタイヤ像(610×460)


すでに何度かこのブログに登場したこの石膏デッサンは、大分前に北フランスのアミアンの蚤の市で見つけたものです。いかにも画学生が使っていたような薄汚れたカルトンの中に、何枚かのデッサンや版画や絵手本と共に入っていたのを思い出します。

当時のフランスの美術学校でおこなわれていた典型的な(教科書どおりの)方法で描かれた石膏デッサンです。


使用している紙は、中間色のグレーで、現在日本でよく使われているMBM木炭紙よりきめが細かいものです。その上に木炭(あるいはコンテ)と白チョークを使って描かれています。




いっけん見えたとおりに描写をしているように感じますが、よく見ると反射光はほとんど描かずに、影側の輪郭からハイライトに向かって、段階的にグラデーション作りながら、各部分の形とボリュームを曖昧にすることなく表現しているのがわかります。

それはこの時代のアカデミックなデッサンの目的が、目に感じた光と影の現象(印象)を再現するのではなく、存在する石膏像の形とボリューム、そして置かれた空間における前後関係(奥行き)を正確に表すことにあったからです。

中間色の紙を使ったデッサンは、その目的に最も合った方法だと言えるでしょう。





日本では美大の受験を通じて、木炭による石膏デッサンが盛んにおこなわれてきましたが、なぜこのデッサンのような手法が入ってこなかったのか不思議でなりません。



2020年8月3日月曜日

白亜の地塗り

 今回は、油絵のための白亜と膠による水性の地塗りについて紹介します。



白亜と膠による水性の地塗りは、柔軟性に欠けるのでキャンバスに塗ることは薦められませんが、木のような硬い基底材には最良のものです。

 参考文献:「油彩画の技術」 ド・ラングレ著





白亜は取れた場所によって、ムードン白(blane de Meudom)とか、スペイン白(blane d'Espagne)とか、パリ白(blane de Paris)とか呼ばれます。

主成分は炭酸カルシウムで、海中微生物(孔中類)の遺骸からできています。人工的に作ったものより柔軟性があり、暖かみのある白色をしています。




 膠はさまざまな種類がありますが、油絵具の遮断層や地塗り塗料を作るのには、昔から動物の皮、特に兎からとったものが良いとされています。

使用に際しては、水に一昼夜つけてふやかしてから湯煎して溶かします。








今回はラングレの処方に従って、100㏄の水に10gの膠で溶液を作って、そこに40gの白亜を加えて地塗り塗料としました。










基底材は、マルオカの木製パネルに、筋入りハトロン紙を上記の膠溶液で貼ったものを使いました。









地塗り塗料は常に温かい状態(40℃~50℃)を保ちながら、豚毛の刷毛で素早く塗ります。



白亜は隠蔽力が弱いので、乾いてから塗るを2~3回繰り返します。

また、一度に厚く塗るとひび割れるので注意が必要です。




出来上がりです。右側に見えているのがアクリルジェッソを塗ったものです。白さの違いが分かると思います。筆者はこの位の明るい中間色調を好みますが、ジェッソのように白くしたい場合は、40gの白亜の内の10gをリトポンかジンクまたはチタニュームホワイトに置き換えるとよいでしょう。

白亜と膠による水性の地塗りは、適度な吸収性と絵具の固着力がある上に、滑らかな筆さばきと塗り重ねのしやすさで、油絵具にとっての最良のグラウンドです。