2016年11月21日月曜日

19世紀のデッサンから描き方を探る

今回は、アトリエラポルト所蔵の19世紀(1880年代)の人体デッサンからその描き方を探ります。
作者不明で、購入した時の状況からフランスの美術学校の学生が描いたものと推測しています。



デッサンに対して、上部が台紙、下部が白い紙
デッサンの明度が分って頂ければ幸いです。



紙の周囲が傷んでいるので正確なサイズとは言えませんが、約660㎝×450㎝のグレーの中間色の紙に、木炭と白チョークで描かれています。

デッサンは未完成ですが、その分描き方の工程がよく分かり、貴重な資料となっています。
















使われている紙は、現在の木炭紙より表面は滑らかです。
それでいて木炭はよく付いています。

ことによると原料が木材パルプではなく、綿(ボロ布)かもしれません。

















最初に未完成と書きましたが、上半身はほぼ出来上がっています。

木炭で影を、白チョークで光の当たっている部分を描いているのが分かります。



現実の光と影の印象を描いているというよりも、徹底的に筋肉や骨など、人体の解剖学に基づいた正確な形を描き表そうとしています。






左は、以前紹介したシャルル・バルグの手本集からの一枚ですが、形の捉え方に共通性を感じます。






下半身は木炭のみで、白チョークは使っていない状態で残されています。

木炭を擦筆のようなもので擦りながら、丁寧にモデリングしているのが分かります。



つま先は、まだモデリングもしていない段階で、線だけで形を表しています。


以上のことから、最初に線で形を捉えた後、木炭を擦りつけながら人体のモデリングと背景を描き、最後に白チョークで明部をボリュームがでるように描き起こしたと考えられます。

また、輪郭が直線的で、形に沿って明確に変化しているのが特徴です。



典型的なアカデミックなデッサンですが、そこに感じるリアリティは、「存在する形」を正確に表すことによって生まれたもので、現象的な光と影の描写や写真のリアリティとは異なるものです。

名も知れぬ学生の描いたデッサンですが、西洋絵画の造形方法の基本を知る手掛かりとなっています。