(制作は、アトリエラポルト3年目のY.mさんです。)
グリザイユ(Grisaille)は、その名の通り灰色または灰色系の絵具で描かれた単色画を指しますが、そこに「暖か味」や「冷た味」と言った若干の色合いの変化を加えることで、単純なモノクロームのグリザイユより、より自然な光の輝きや空間やボリュームを感じさせることができます。
アンリ・バルツは「デッサンの文法」という著書の中で、これを「ニュアンスのシンホニー」と名付けています。
(Grammaire de dessin, Henry BALTH 1928 )
例えば、次の2点のグリザイユは、最初がモノクロームのグリザイユで、次が寒暖のニュアンスを加えたグリザイユです。(画像での正確な再現ができないのが残念ですが)
モノクロームのグリザイユ
寒暖のニュアンスを加えたグリザイユ
寒暖のニュアンスを使って描いたグリザイユは、暖色が前進色、寒色が後退色という色の生理的作用に準じて、背景は冷ためのグレー、テーブルは手前に来るほど暖かめのグレーに、モチーフの明部は暖かめのグレーに、影は冷ためで反射光は暖めに、落ちる影は冷ためのグレーにしてます。単純なモノクロームのグリザイユより、豊かな表現になっていると思います。ただし、寒暖の関係が対象の前後関係やボリュームと合っていないと、どんなに明暗が正確でも不自然で気持ち悪い印象を与えてしまします。初心者がよく「粉っぽい」とか「顔色が悪い」絵になる原因の一つがここにあります。
このような固有色に対する寒暖のニュアンスの幅の扱いには個人差があり、それが作品の表現に大きな影響を与えます。例えば、ドラクロワは人体や衣服などのハイライトから影の最暗部に至るモデリングの中に、驚くほど大胆な寒暖(色相)の変化をつけています。その反対に、アングルは意識して見ないと気付かないほど微妙に変化をつけています。
左の画像は、アングルが美術学校時代に描いた習作の部分です。当時のアカデミーの規範に従って、肌色に寒暖のニュアンスを加えてモデリングされているのが分かります。
アトリエラポルトでは、寒暖のニュアンスを加えたグリザイユは、このような感覚を磨くのにとても良い方法だと考えています。
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