2016年12月9日金曜日

キューピットを描く

今回は、アトリエラポルトで学ばれてから3~4か月目の3人の受講生が描いたキューピットの石膏デッサンを紹介します。

アトリエラポルトでは、初心者の方には遠近法の説明をした後、幾何形体→白いオブジェ→部分像→石膏像と進んで頂いてますが、その最初の石膏像にキューピットがよく選ばれます。

















O.Tさんは20代の男性で、ブグローのような写実的な油絵を目指してデッサンを学ばれています。







キューピット (530×410) 画用紙に鉛筆



















C.Eさんは、これまではイラストを描いてらしたそうで、ドレやミュシャ、ロックウエルやエンデがお好きな女性の方です。
基礎としてのデッサンの必要性を感じて受講されています。






キューピット (530×410) 画用紙に鉛筆




















A.Cさんは、アトリエラポルトの近くの会社にお勤めのOLさんです。頭に浮かぶイメージを自由に紙の上に表現できるようになりたくて、デッサンを始めたそうです。





キューピット (530×330) 画用紙に鉛筆



それぞれの目指す所は違っても、基礎としてのデッサンを大切に考えいる点では一致しています。
アトリエラポルトでは、多様な目的に応用できるようなデッサンの学び方を、西洋の伝統的な(アカデミックな)教育方法を参考にしておこなっています。

まだデッサンを始めたばかりの方々ですが、このような練習を積み重ねていくことが、いずれはそれぞれの創作に役立つのではないかと考えています。




2016年11月21日月曜日

19世紀のデッサンから描き方を探る

今回は、アトリエラポルト所蔵の19世紀(1880年代)の人体デッサンからその描き方を探ります。
作者不明で、購入した時の状況からフランスの美術学校の学生が描いたものと推測しています。



デッサンに対して、上部が台紙、下部が白い紙
デッサンの明度が分って頂ければ幸いです。



紙の周囲が傷んでいるので正確なサイズとは言えませんが、約660㎝×450㎝のグレーの中間色の紙に、木炭と白チョークで描かれています。

デッサンは未完成ですが、その分描き方の工程がよく分かり、貴重な資料となっています。
















使われている紙は、現在の木炭紙より表面は滑らかです。
それでいて木炭はよく付いています。

ことによると原料が木材パルプではなく、綿(ボロ布)かもしれません。

















最初に未完成と書きましたが、上半身はほぼ出来上がっています。

木炭で影を、白チョークで光の当たっている部分を描いているのが分かります。



現実の光と影の印象を描いているというよりも、徹底的に筋肉や骨など、人体の解剖学に基づいた正確な形を描き表そうとしています。






左は、以前紹介したシャルル・バルグの手本集からの一枚ですが、形の捉え方に共通性を感じます。






下半身は木炭のみで、白チョークは使っていない状態で残されています。

木炭を擦筆のようなもので擦りながら、丁寧にモデリングしているのが分かります。



つま先は、まだモデリングもしていない段階で、線だけで形を表しています。


以上のことから、最初に線で形を捉えた後、木炭を擦りつけながら人体のモデリングと背景を描き、最後に白チョークで明部をボリュームがでるように描き起こしたと考えられます。

また、輪郭が直線的で、形に沿って明確に変化しているのが特徴です。



典型的なアカデミックなデッサンですが、そこに感じるリアリティは、「存在する形」を正確に表すことによって生まれたもので、現象的な光と影の描写や写真のリアリティとは異なるものです。

名も知れぬ学生の描いたデッサンですが、西洋絵画の造形方法の基本を知る手掛かりとなっています。












2016年10月16日日曜日

本の紹介 19 額縁についての本 

今回は額縁について書かれた本を紹介します。

絵を描く人は誰しも、絵を額縁に入れたら見違えるようになった経験をお持ちだと思います。
額縁は絵の見えや表現に大きな影響を与えます。

西洋では昔から額縁に関する本は沢山あり、今でも美術書専門の本屋に行けばハウツー本から専門書まで数冊は置いてあることでしょう。しかし日本では明治以降その類の文献は極めて少なく、ここで紹介するアトリエラポルトの蔵書が代表的なものと言えるでしょう。




「絵の科学」
 山下新太郎著 錦城出版社 昭和17年


当時のフランスの代表的な技法書(モロー・ヴォアチエやヴィベールなど)をベースに 画家である筆者の経験と識見をまとめたもの。



その中に「額縁について」という項目があり、約10ページにわたって挿絵付きで額縁の様式についての記述があります。



日本で西洋の額縁の様式について書かれた初期の文献だと思います。




「額縁の歴史」
クラウス・グリム著 前川信子訳
リブロポート出版 1995年


現在日本で入手可能な文献の中で、最も詳しく額縁の歴史と様式を説明しているもの。




おもしろい例を上げると、右の画像はアングルが自分の絵に合わせてデザインした額縁。

絵の中のドレスの模様と額縁の装飾が呼応しているのが分かります。


このように西洋では、画家が額のデザインをするのは珍しくなく、その良い例をラファエル前派の作品に見ることができます。















「額縁と名画」
ニコラス・ペニー著 古賀敬子訳 八坂書房 2003年 


額縁鑑賞の入門書。

豊富なカラー写真と読みやすい文章で、額縁の歴史について解説しています。


展覧会で絵を見る楽しみが増えると思います。

















「画家と額縁」 
西宮市大谷記念美術館図録1999年

前述の3冊はどれも西洋の額縁について書かれてものでしたが、日本での額装の歴史を知るにはお勧めの文献です。

幕末から始まった西洋絵画の受容の歴史は、額縁の歴史とも重なります。本来様式的に異なり、構造的にも油絵を飾るような壁のない日本家屋にどのように適応させるか。先人達の苦心の跡が偲ばれます。



また画家自身が作った額の例も載っていて、大変興味深い図録です。
















「額装の話」 
岡村辰雄著 多聞堂 昭和30年


日本家屋に合う独自の額装作りを目指し、その礎を築いた岡村辰雄氏の書いた本。

本の装丁を安井曾太郎がおこなっていることからも、いかに画家に信頼されていたかが察せられます。

岡村氏は表具師から始められ、時代の建築に合わせた日本画の額装作りへと進まれました。







今では当たり前になった日本画の額装は、氏が確立したと言えるでしょう。




その額装スタイルは洋画家からも支持され、梅原龍三郎や安井曾太郎の作品の多くに使われています。




今では、絵の制作と額縁の制作は別物になっていますが、西洋では初期ルネサンス時代まで額縁と絵は一体化していました。 遠近法が誕生して、絵は「描こうとするものを眺める開いた窓」(アルベルティ)となってから、額は窓を縁取る装飾となったと言えるでしょう。その分、建築や室内の様式と密接にかかわりを持ちながら時代とともに変化してきました。

「額縁は個人のセンスで選ぶもの」とお考えの方は多いと思いますが、ここで紹介した本のような歴史と様式を知ることは、額縁を選ぶ時の助けになると思います。




2016年10月7日金曜日

イラストレーターの基礎として

今回はイラストレーター志望のT.sさんの作品を紹介します。

T.sさんは空想上のモンスターを描くのを得意としてますが、より一層リアルに表現するには西洋絵画の基礎が必要と考えてアトリエラポルトで学ばれています。


ラファエル少女像 画用紙に鉛筆 (450×270)




髑髏 ヴィフアール紙に木炭 (370×280)




鹿の頭骨 ミタント紙にチャコール鉛筆の白と黒 (370×280) 





恐竜の模型 油絵グリザイユ (F4号)





















ダビデの目 油絵グリザイユ (F6号)




アメリカでは優れたイラストレーターの肉筆作品は、芸術作品として高い評価を受けています。そこには西洋絵画の伝統的造形方法や技法との共通性を認めるものも少なくありません。T.sさんのこのような基礎練習が、素晴らしい作品の創造に役立つように願っています。

2016年9月24日土曜日

中間色の紙に描く石膏デッサン


今回は久しぶりに中間色の紙に描いた石膏デッサンを紹介します。

画材:
木炭(伊研No.800.830.980.)
黒チャコール鉛筆(GENERALl社製6Bソフト)
白パステル鉛筆(FABER CASTELL社製ミディアム)
白チョーク(FILA社製)
ミタント紙(キャンソン社製)
擦筆、セーム皮、練り消しゴム

石膏像は、バルバローニ作の少女像です。 


まずは木炭で石膏像を線によって捉えていきます。

日本で一般的に行われている木炭デッサンでは、陰影で捉える方法が主流ですが、形が曖昧になりやすい上に、今回のように白チョークを使うデッサンでは、木炭が混ざって汚くなります。




全体を明部と暗部に大きく分けて、暗部から描き進め明部へと移っていきます。

明部は白チョークを使いますが、ハイライトを中心とする最も明るい所から置いていきます。


セーム皮や擦筆を使って、白チョークを紙に馴染ませながらモデリングをしていきます。細部や細い線を引きたい時には白のパステル鉛筆を使います。

このデッサンでは背景は描かずに中間色の紙の明度を残しますが、机の面は石膏像の周囲だけ最小限度の光と影を描きの空間の暗示をおこないます。


















バルバローニの少女 (272×224)



このような手法の石膏デッサンは19世紀の後半の西洋の美術学校で行われていて、ピカソ初期のデッサンにもその例を見ることができます。

ピカソ作(1895年)














作者のO.yさんは中間色の紙に描くのは初めてで、白チョークによるモデリングに苦労されました。結果として個々の形のボリュームが少々甘くなりましたが、この手法による効果が良く表れたデッサンになったと思います。